Episode:09
◇Imad
ロア先輩の「予感」は当たってた。
おとなしくて引っ込み思案なのもあって、ルーフェイアのヤツは前から女子と馴染めねぇだけと思ってたけど、どうも違ったみてぇだ。
つか、ここんとこもっとあからさまで、聞こえよがしにいろいろ言うヤツまでいるし。
仕切ってんのは、シーモアのヤツだろう。スラムあがりのあいつは性格がキツいうえ、良くも悪くも統率力はある。
ただ幸い、いまんとこ持ち物に手出されたりはしてないっぽい。むしろヤバいのは、クラスの雰囲気のほうだ。
このクラスは女子は少なめだけど、そんでも数人はいる。これがツルむとすげぇうるせぇし、口じゃまずかなわねぇ。しかも中心にいるシーモアのヤツは、ケンカもハンパなく強かったりする。
このせいでAクラスの男子連中も最近は、ルーフェイアに近づかなくなってた。シーモアたちにからまれたらヤバい、ってんだろう。
ただ当のルーフェイアのほうは、まだ状況を理解してない。自分が簡単には馴染めないと思ってるから、そういうもんだとヘンなとこで納得してる。
「数学と理科、どうしよう……」
ルーフェイアのヤツが心配そうに言う。テストの点が、この二つはこいつ、イマイチだった。
――あれで「どうしよう」とか言われたら、怒るヤツ山盛りだろうけど。
そんでも当人に取っちゃ、大問題だ。
「おまえ、難しく考え過ぎなんだよ。単純に公式だけ当てはめてけって」
「だって……」
ちょっと視線落として、困りきった表情しやがる。
「ったくしょうがねぇな、教えてやるよ。移動すっぞ、自習室な」
「いいの?」
ひさびさに、こいつの表情がほころんだ。
「いいって。つか、荷物取ってこいよ」
「うん」
ルーフェイアが荷物を取りに、自分の席へ行く。シエラは成績順で席が決まるから、ホントならあいつは前のほうだけど、途中入学の関係でいまはいちばん後ろだ。
――って、なんだ?
たむろってる女子のあいだを通り抜けるルーフェイアに、足出してるヤツがいる。どうも引っ掛けて、転ばせようって魂胆らしい。
まぁやられてんのがルーフェイアだから、ほとんど無意識に避けちまって、意味ねぇんだけど。
ただ状況は、俺が思ってたよりさらに悪りぃってことだ。
気になってそのまんまルーフェイアのやること見てっと、こいつが机の上に手を伸ばした瞬間、かすかに空気がふるえた。
けど、そんだけだ。つか空気がふるえたのだって、ほかの連中は気づいてねぇだろう。
ルーフェイアのヤツが、教科書だの抱えて戻ってくる。
「おまえさ、机んとこ、なんかしてあんのか?」
「えっと……結界のこと?」
よく訊いてみっとこいつ机だのなんだの、ともかく自分だけが使う場所ならそこらじゅうに、簡単な結界張ってるらしい。
「なんでそんな、面倒なマネすんだ?」
「え? 持ち物って、放置……しないでしょ?」
なんか激しくズレた答えが返ってきやがった。
「盗まれたり、攻撃で壊されたら、困るし」
「ここで攻撃はねぇだろ……」
危機管理って意味じゃ間違ってねぇけど、ちと行きすぎだ。
けど、それを言うつもりはなかった。なんせ状況が状況だから、このまんまにしといたほうが、ぜったい被害が少ねぇはずだ。
なるたけ手を出されねぇ状態を保って、そのあいだにどうにかする。自分でもモヤモヤすっけど、こんくらいしかテが思いつかない。