Episode:32
ミルが見透かしたみたいに、また言う。
「どーでもいいじゃん、Bクラスなんて。どうせあの子たち、ルーフェイアにはもう関わらない、ってたもん」
「それはそうだけど……」
でもたしかに、考えたってキリないかも。どうなるかも分かんないし。
「それにしてもルーフェイア、あんたいったい、どこでそんだけバトル覚えたんだい?」
シーモアがいちばんの疑問を尋ねたら、ルーフェイアったら下向いた。あんまり、言いたくないことなのかも。
「あー、ルーフェってばね、少年兵あがりだからー」
「ミル、てめっ、何バラしてんだ!」
イマドの矛先がミルに向いたとこみると、これホントみたい。まぁミルは気にもしないで、きゃぁきゃぁ言いながら逃げ回ってるけど。
「あ、でもでもね、それ以上はナイショだよー」
「当たり前だろバカっ!」
狭い海岸をミルとイマドったら、二人で追いかけっこ。言ったら怒りそうだけど、子犬のじゃれあいみたい。
なんかもう、ペース乱されっぱなしかな。
おかげでなんだかぜんぶどうでもよくなっちゃって、ため息ついて、ルーフェイアに言ってみた。
「ルーフェイアって、どっかのお金持ちのお嬢さんで、遊びでここ来たと思ってたの」
最初の誤解の出発点、どうみてもここだし。
「え……あたし、そんなじゃ……」
「あ、うん、今は分かる」
こんなことだなんて、想像もしなかった。でも冷静に考えてみればたしかに、お嬢さんが遊びでとか、ありえないし。
「そのね、その太刀とか見てね、そうかなって。すごくいい物みたいだし。
――それ、どしたの? もらったの?」
ちょっと気になるから訊いてみたら、ルーフェイアの表情が沈んで、目に涙が浮かんだ。
「兄さんの、形見……」
「え、あ、ごめっ! そういうつもりじゃなかったんだけど、そうなんだ……」
悪いこと訊いちゃった。でもおかげで、何がどうなってるかはだいたい飲み込めたかも。
要するにルーフェイアったら、少年兵上がりでお兄さんと前はいっしょで。でもそのお兄さんは亡くなっちゃって、ここへ来たってことみたい。
本校へ直接来たのも、事情が事情だし、別に成績も悪くないから、ってことなんだと思う。いろいろきちんとしたもの持ってるのは、お兄さんが何か財産みたいの、残してくれてたのかも。たまにそういう子いるし。
必死に涙拭いてるルーフェイアの前に立って、シーモアが言った。
「ともかく、悪かったよ。あたしらの思い違いで、いろいろさ」
潔いな、って思った。
シーモアはけっこう性格キツいけど、悪いと思えばちゃんと謝るし、ふだんはだいたい公平。だから彼女のこと、あたし好きだった。
「許しちゃもらえないかもだけどさ、でも、ごめん」
「あたしもゴメンね。もうヘンなこと言わないから」
ルーフェイアが顔を上げる。
「みんな、許して、くれるの……?」
『いやそれ反対』
思わずそこにいたみんなが、突っ込みいれちゃったり。
「こっちが謝ってるのに、なんでそうなるかな、あんたは」
「そうだよねぇ、ルーフェイアが悪いこと、したわけじゃないし」
「ごめん……」
また泣きそうになるルーフェイア。すっごいこの子、泣き虫かも。
「まぁまぁまぁまぁ、ここは穏便に、ね?」
ミルが意味不明なこと言い出して。
「誰も争ってねーだろ」
「あ、そぉ?
ともかくさ、ルーフェもナティもシーモアも、なかなおり!」
強引にあたしたち三人の手を取って、重ねあわせる。
「よし、仲直りの握手おっけー! ぜんぶばっちり!」
「これ、握手かなぁ……?」
「細かいことは気にしちゃダメー」
ミルのペースに引きずられて、あたしとシーモアとルーフェイア、互いに顔を見合わせてつい笑った。
「ま、いっか。ちょっとヘンな気もするけど、これ以上めんどうだし」
「だね。これで終わりにしとこう。なんかあったら、ミルの責任ってことでいいじゃないか」
「えー!」
ブーイングあった気がするけど、それは無視して。
「ヤバいな、暗くなってきた。減点食らったらマズいし、そろそろ引き上げよう」
「そだね。ルーフェイア、一緒にいこ」
「――うん」
あたしたち、みんなで歩き出した。
◇お知らせ◇
5/21より、第5作「温もり」を連載中です。
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