Episode:29
「あなたがいたら、全力出せない!」
「なっ……」
絶句するシーモアに、さらに言う。
「せめて、下がって。じゃないと、心中だから」
「――わかった」
やっと彼女が下がったけど、状況は不利になった。もう気づかれてしまってる。うまく逃げられればと思ってたけど、ムリそうだ。
飛竜が動きを止めて構えたのを見て、とっさにシーモアに体当たりする。
直後、炎がさっきまで居た場所を駆け抜けた。
「行ける?」
「あ、あぁ……」
炎を吐かれてやっと、どれほど危険かを飲み込んだみたいだ。
「けど、あんたは?」
「ひとりなら……だいじょうぶ」
本当はちょっと不利だけど、それは言わなかった。それにひとりの方が楽なのは、たしかだ。
「目くらましで低位魔法、使うから。その間に」
「分かった」
間をおかず、立て続けに低位の、炎魔法を放つ。
飛竜の注意があたしに向く。
「早く!」
シーモアが隙を突いて、回り込むように走った。
――良かった。
飛竜は彼女に気がついてない。あたしと、あたしの魔法に完全に気を取られてる。
これなら、あとは崖を登りさえすれば……。
そのとき、視界の隅に思わぬものが映った。
崖を降りてくる、三つの人影。
飛竜を牽制しておいて、そっちに視線を向ける。
――イマド?
たしかに目が合った。
彼が「やれるのか」と、問いかけてるのが分かる。
隙さえ作れれば、あたしがそう思いながら見返した瞬間、彼が動いた。身長の倍近い高さから、一気に飛び降りて、走る。
「こっちだ!」
大声を上げながら、魔力石をばら撒く。
そこへ、銃声。絶妙のタイミングで、いっしょに来てたミルが、弾を撃ち込んだ。
飛竜が完全にそれに引っかかって、イマドたちのほうを向く。
魔力石が撒かれた場所へ、足を踏み出す。
――爆発。
次々と石が爆ぜ、炎を上げた。
飛竜の動きが止まる。
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――」
すかさず、呪を唱えながら走りこむ。
飛竜の身体の下へもぐりこんで、手を触れる。
「フロスティ・エンブランスっ!」
至近距離での発動が、竜族の持つ魔法障壁を打ち破る。
身体の中から凍り付いて、飛竜は倒れた。