Episode:25
「イマドおにいちゃん、おかえりー!」
「ただいま、リティーナ。いい子にしてたか?」
「うん!」
同室の先輩の妹だ。
この子はまだ五歳だから、シエラには入学できない。けど先輩のほうは、もともと他所のMeSに行ってたのもあって、シエラに入学しちまった。だからリティーナはひとり、孤児院に預けられたワケなんだけど……泣いてばっかで何も食わなくて、たちまち痩せちまったらしい。
で、それじゃ命に関わるって話になって、特例で寮でいっしょに暮らしてる。
先輩と昼飯食ったあと、リティーナはいつも部屋に一人だから、一回戻って様子見んのが俺の日課だった。
「勉強、終わったのか?」
「終わったよ、ほら、見てこれ!」
答えを書き終わったプリントを何枚も、誇らしげに見せる。
このまま兄貴といっしょにいるには、シエラの本校に入学しなきゃなんない。けどそれ、かなり難関だったりする。
だからいま、リティーナは猛勉強中だ。兄貴と離れたくない一心で頑張ってる。
「あとで丸つけしてやっからな。ん? 洗濯物どこだ?」
「これー!」
洗濯物の塊になって、リティーナが出てきた。ぜんぶ抱えてきたらしい。
「危ねぇぞ。ほら貸せ」
「はーい」
ぜんぶ持ってやって、チビ連れて洗濯場まで行く。
「悪りぃ、ヴィオレイ、こんだけ頼むわ」
「ほーい。リティーナ偉いね、お手伝い? イマドにいじめられてない?」
リティーナは寮じゃけっこう人気者だ。可愛がられる性格だし、ここじゃ弟妹失くしたヤツも多いから、どこへ行ってもかまわれる。
「イマドお兄ちゃんが、そんなことするわけないもん!」
「そっかー、なら良かった」
他愛ない話しながら、洗濯物を突っ込んでく。
「ねぇお兄ちゃん、リティーナお腹すいた!」
チビがこう言い出したら、食わせるまで黙らない。
「まだ、おやつ食ってねぇもんな。食堂行くか?」
「やだ! お兄ちゃんのパンケーキがいい!」
こいつわりとワガママだ。
「いいだろ、食堂ので。ケーキとかうまいぞ」
「や、だ! お兄ちゃんのほうがおいしいの!」
向こうは本職なんだから、ンなわけねぇんだけど、こう言われちまうとダメとも言えない。
「しゃぁねぇな……今日あんま時間ねぇから、少しだけだぞ」
押し切られて、部屋から材料持ち出して、調理室まで行く。
「はやく焼けないかな〜」
「触んじゃねぇぞ、熱いから」
フライパン覗き込もうとするリティーナを引き離しながら、手早く焼いて出してやった。
ふぅふぅと冷ましながらコイツが、さっそくほおばる。
「おいしーい!」
こういう顔されると、まんざらでもない。
「悪りぃけどあんま時間ねぇから、早めに食えよ」
「うん」
言われてしばらくの間、黙って食ってたリティーナが、とつぜん口を開いた。
「イマドお兄ちゃんって、あのきれいなおねえちゃんと、ケッコンするの?」
真顔で訊かれて思わずむせる。