Episode:19
何のことか分からなくて、考え込むあたしの横で、イマドが怒鳴りつけた。
「てめぇ、タダでさえややこしくなってんのに、これ以上引っかき回したら容赦しねぇぞ!」
すごい剣幕だ。
「きゃー、イマド怒った怒った〜」
それでもミルはお構いなしで、楽しそうに笑ってる。
「イマド、わっかりやすすぎー。ルーフェにぞっこん?
ま、イタズラっても、ただの実験だからー。どうせいまより、悪くなんてならないし」
「そりゃたしかに、そうだけどさ……」
イマドたちが顔を見合わせた。
「つか、何する気だ」
「き・り・く・ず・し」
「切り崩し?」
何のことか分からない。そもそも、切り崩すようなものなんてまわりに見当たらない。
「――ルーフェ、もしかして、話見えてない?」
「ごめん……」
物分りの悪さが申しわけなくて謝ると、ミルがイマドたちのほうへ顔を向けた。
「三人もいて、だーれも状況説明してないんだ?」
「いや、だってこいつ、気づいてねぇし」
「ホントのこと分かったら、よけいかわいそうだよ」
口々に言いわけするのを聞いて、ミルが言い放つ。
「ばっかじゃないの!」
さっきまでの楽しそうな雰囲気とは一転、厳しい声と視線だ。
「何がどうなってるか分かんなかったら、ルーフェだってやりようないじゃない。
分かんないのもアレだけど、教えないってもっとヒドいでしょ。共犯みたいなもんだよ!」
ほとばしるような怒りかただった。
そしてこんどは、優しい表情であたしのほうへ向き直る。
「ルーフェ、いい? あのね、ルーフェはいじめられてるの。分かる?」
「いじめ……?」
言われてることがピンと来なかった。
「ふだんいろいろ言われたり、やられたりしてるでしょ? それ、全部そうだよ」
「え、でも、あれは……」
あれはあたしが違いすぎて、馴染めないせいだ。
肝心なことはひとつも知らなくて、できることと言えば……。
「あ、泣かした」
「あれ、泣いちゃった」
下を向いたあたしを、ミルがしゃがみこんで見上げた。
「ルーフェ、だからね、ルーフェは悪くないの。それ分かる?」
「え?」
驚いて彼女を見返す。
くるくるっととした水色の瞳が、笑った。