Episode:17
このあとの惨劇予想しちゃって、一瞬みんなが凍りついたり。
ミルの言ってること……的外れ、ってワケじゃない。けどそれヌキにしたって、ルーフェイアって子、空気読まないし。
まぁその点じゃ、ミルはもっと空気読まないんだけど。
「あんた、痛い目でもみたいのかい?」
ゆら、とシーモアが立ち上がって、あたしたち思わず後ろへ下がる。
「んー、見たくはないけどー。でもシーモア、ホントにいいの? 痛い目、どっち見るかわかんないよ?
てか、いまやったら退学かもね。あたしはそれでもヘーキだけど」
「………」
シーモアが動けなくなる。
この学院、校内の暴力沙汰は全面禁止で、ヘタしたら退学処分。なにしろMeSだから、もし起こったら死者でるかもだし。
でもこれ、あたしたちにとってはキツすぎ。ここ追い出されたら行くとこないし、なによりシーモア、辞められないワケがあるもの。
いっぽうでミルは、退学とか平気。彼女ったらケンディクに片親だけどちゃんといる、この学院じゃ超少数派の家族持ちだから。
きっとそれ分かってて、言ってるんだと思う。
もちろんシエラでこんなこと言ったら、徹底無視で当たり前。だけどミル、そんなのされても一切気にしない子だし。
だからいろんな意味で、いちばんやりづらい相手だったり。
「まぁいいや、どうせやめないでしょ。
けどさ、あたし巻き込まないでね。そゆの楽しくなさげだもん」
いったん言葉切って、ミルったら不敵な微笑。
「それに万一どっかのMeS上がりとか、少年兵あがりだったら、あたし知〜らない」
そう言い置いて彼女、ひらひら教室出てった。
「あいつ……!」
飛び出して追いかけそうなシーモアを、慌てて止める。
「ミルの言うことなんて、気にしちゃダメだよ」
けど、みんなからの同意はなくて。
ミルが言ったことが、みんなのあいだにじわっと、広がったみたい。さっきとは違う感じで、顔を見合わせたりしてる。
シーモアが見回したら、みんなバツが悪そうに視線をそらした。
気まずい沈黙。
けどそのときアラームが鳴って、シーモアがポケットから通話石を取り出した。
「シーモア、もしかして倉庫の点検係り?」
「ああ。今日あったの忘れてたよ。行ってくる」
足早に教室を出てく彼女を、みんなで見送る。
「けどさ……ルーフェイアっていつも黙ってて、変わってるよね」
しばらくして、誰かが言った。
「言いたいことあるなら、はっきり言えばいいのにね」
「そうだよね、黙ってたら分かんないもの」
「でも、イマドたちといるときは、話してるっぽいよ?」
飛び交ううわさ話。
「やっぱり、なんかヘンな子だよね」
「それはぜったい言えてる」
「あんまりかかわらないほうが、いいっぽいよね……」
話の落ち着き場所は、だいたいあたしも同感。あの子ったら、得体が知れなすぎだもの。
「シーモアはちょっと行き過ぎかもだけど、でもあの子だって悪いよね。もっと何か、話したりすればいいんだから」
「だよねぇ」
みんな、うんうんとうなずく。
「何かするのはアレだとしてもさ、やっぱりあんまり、近づかないほうがいいよ」
ちょっと後ろめたい目配せをお互いにしながら、そんなとこで話がまとまった。