Episode:13
◇Imad
コトが起こってから、しばらく過ぎた。けど、状況が変わる気配はない。
鈍感なルーフェイアのヤツも、さすがにいろいろ分かってきて、参りはじめてた。なかでも聞こえよがしにゴチャゴチャ言われんのが、こたえてるっぽい。
――平気だったら、逆に怖えぇけど。
ただ細かいコト言うと、まだこいつ微妙にカンチガイしたままだ。自分が最前線にいたせいでいろいろズレてて、それが嫌がられてると思ってる。
まぁたしかに、ある意味で間違っちゃいねぇんだけど……。
ホントは教えたほうがいいのかもしんねぇけど、俺はそのまんまにしてた。説明しても通じねぇ気がしたし、何より分かったら、よけい落ち込みそうな気がする。
けどカンチガイとか関係ナシに、こいつそろそろ限界だろう。なんかあるたんびに前のこと思い出して、自分で傷口えぐるかっこうになってる。
そのせいか前にもまして食わねぇし、身体おかしくなんねぇうちに、マジで手打ったほうがよさそうだった。
「ルーフェイア、おまえホントに大丈夫か?」
「あ、うん。だいじょぶ」
口じゃそう言ってっけど、ここんとこ顔色もあんま良くない。
放課後の自習室で、俺とルーフェイアはだらだら、課題片付けてるとこだった。ほとんどの日はコイツさっさと自主訓練に行っちまうけど、週に一回か二回、苦手な数学を俺に教わりに来る。
けど課題より、やっぱコイツの身体のほうが心配だ。
「診療所行って、診てもらったほうがいいんじゃねぇか?」
「でも、病気じゃないし……」
すぐ泣くクセに、こーゆーとこは気丈っつーか、頑固っつーか。
当のルーフェイアのほうは、教科書をめくってる。
「えっと……このへん、なんだけど」
「おまえ、ほんっと数学苦手だな」
基礎的なとこはしっかりしてっけど、一段上がるとどうもこいつダメだ。
ただ、いわゆる「できない」のとは違う。どうにも数学は飲み込みが悪くて、分かるまでに時間がかかるだけってタイプだ。
だからちゃんと教えれば根本的なとこまで分かっけど、授業だけじゃ時間足んなくて、ついていくのがやっとだった。
戦闘なんかに才能ぜんぶ取られて、こっちに残らなかったんじゃないか、って気がする。
「何がわかんねぇんだ?」
「えぇと……あ、ここ。どうしてこれ……こう、なっちゃうの?」
「簡単だぞ?」
しばらくそんなやりとりが続く。
ってもルーフェイアのヤツだって、頭は悪くないわけで。ひと通り終わらせんのに、そんな時間はかかんなかった。