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葛藤 ルーフェイア・シリーズ04  作者: こっこ
Chapter:02 苦悩
12/32

Episode:12

 そのとき、アラームが鳴った。慌てて時計を見てみると、針が戻る時間を指している。

 涙をぬぐってから、あたしは走り出した。少し奥まで来てるから、急がないと船に間に合わない。

 魔獣をやり過ごしながら、船着場まで戻る。ちいさな詰め所の前に、人影があった。


「あぁ良かった、無事戻ってきたね」

「はい、遅くなってすみません」

 ここの守衛さんだ。

「いつも時間より早く帰ってくるのに、今日は遅いから心配したよ」

 続く言葉をいっかい飲み込んで、守衛さんがあたしの顔を覗き込んだ。


「――泣いてたのかい?」

「え? あ、なんでも、ありません……」

 恥ずかしくて下を向いたあたしに、守衛さんが声をかけた。

「こっちへおいで、お茶でも飲んでいきなさい」

 言って、詰め所のドアを開ける。


「あの、船は……?」

 心配になって尋ねる。船はちゃんと時刻表があって、定時に出さないといけないはずだ。

 でもおじさんは、ちょっと笑って答えた。

「船ならね、いま故障中だよ。うん、さっき故障したんだ」


 最後の便だから自分が朝来た船で帰るだけだし、と付け加えて、おじさんはあたしを招き入れた。

 お茶とクッキーとが出される。

「さ、遠慮しないで食べなさい」

「ありがとう、ございます……」

 何かのハーブらしくて、カップからいい香りがしていた。

 それを見るうち、なぜか涙が出てくる。


「学院で、何かあったのかい?」

 聞かれたことに答えようとしたけど、よけい涙がこぼれただけだった。

 何とか泣くのをやめようとして、必死に涙をぬぐうあたしに、おじさんが言う。

「学院長から聞いたよ、少年兵あがりだそうだね」

 驚いて顔を上げると、おじさんの優しい表情があった。


「学院長とは、昔からの知り合いでね。きみがこっちで訓練するようになったから、と頼まれたんだよ。

 まだ、学院は慣れないかい?」

 また答えられなくて、下を向く。

 けどおじさんはあたしの様子で、分かってしまったみたいだった。


「聞いた話じゃ、いろいろ言われてるみたいだね」

 ほんとうは否定しなきゃいけないのかもだけど、できない。涙が次々あふれて、止まらなくなる。

「詳しく知っているわけじゃないから、的外れかもしれないが」

 そこでいっかい言葉を切って、おじさんはそっと、あたしの頭を撫でた。

「きみはこの学院に、居ていいんだよ」

「――!」

 その言葉を聞いた瞬間、あたしはいままで以上に泣き出してしまった。こんなことで、こんなに泣くなんてと自分でも思うけど、止めることができない。

 おじさんがそっと、あたしを抱き寄せた。


「辛かったら、いつでもここへ来なさい。のんびり休むくらいはできるし、お茶ならいくらでも出すよ」

 暖かい、笑顔と言葉。

 あたしがうなずくと、また頭を撫でられた。

「いい子だ。

 さ、もう少ししたら本島へ戻ろう。遅くなりすぎたらいけないからね」

「はい」

 少しだけ、元気をもらった気がした。



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