Episode:12
そのとき、アラームが鳴った。慌てて時計を見てみると、針が戻る時間を指している。
涙をぬぐってから、あたしは走り出した。少し奥まで来てるから、急がないと船に間に合わない。
魔獣をやり過ごしながら、船着場まで戻る。ちいさな詰め所の前に、人影があった。
「あぁ良かった、無事戻ってきたね」
「はい、遅くなってすみません」
ここの守衛さんだ。
「いつも時間より早く帰ってくるのに、今日は遅いから心配したよ」
続く言葉をいっかい飲み込んで、守衛さんがあたしの顔を覗き込んだ。
「――泣いてたのかい?」
「え? あ、なんでも、ありません……」
恥ずかしくて下を向いたあたしに、守衛さんが声をかけた。
「こっちへおいで、お茶でも飲んでいきなさい」
言って、詰め所のドアを開ける。
「あの、船は……?」
心配になって尋ねる。船はちゃんと時刻表があって、定時に出さないといけないはずだ。
でもおじさんは、ちょっと笑って答えた。
「船ならね、いま故障中だよ。うん、さっき故障したんだ」
最後の便だから自分が朝来た船で帰るだけだし、と付け加えて、おじさんはあたしを招き入れた。
お茶とクッキーとが出される。
「さ、遠慮しないで食べなさい」
「ありがとう、ございます……」
何かのハーブらしくて、カップからいい香りがしていた。
それを見るうち、なぜか涙が出てくる。
「学院で、何かあったのかい?」
聞かれたことに答えようとしたけど、よけい涙がこぼれただけだった。
何とか泣くのをやめようとして、必死に涙をぬぐうあたしに、おじさんが言う。
「学院長から聞いたよ、少年兵あがりだそうだね」
驚いて顔を上げると、おじさんの優しい表情があった。
「学院長とは、昔からの知り合いでね。きみがこっちで訓練するようになったから、と頼まれたんだよ。
まだ、学院は慣れないかい?」
また答えられなくて、下を向く。
けどおじさんはあたしの様子で、分かってしまったみたいだった。
「聞いた話じゃ、いろいろ言われてるみたいだね」
ほんとうは否定しなきゃいけないのかもだけど、できない。涙が次々あふれて、止まらなくなる。
「詳しく知っているわけじゃないから、的外れかもしれないが」
そこでいっかい言葉を切って、おじさんはそっと、あたしの頭を撫でた。
「きみはこの学院に、居ていいんだよ」
「――!」
その言葉を聞いた瞬間、あたしはいままで以上に泣き出してしまった。こんなことで、こんなに泣くなんてと自分でも思うけど、止めることができない。
おじさんがそっと、あたしを抱き寄せた。
「辛かったら、いつでもここへ来なさい。のんびり休むくらいはできるし、お茶ならいくらでも出すよ」
暖かい、笑顔と言葉。
あたしがうなずくと、また頭を撫でられた。
「いい子だ。
さ、もう少ししたら本島へ戻ろう。遅くなりすぎたらいけないからね」
「はい」
少しだけ、元気をもらった気がした。