Episode:11 苦悩
◇Rufeir
重い音を立てて、魔獣が倒れた。
ここは校舎がある場所ではなくて、隣のちいさな島だ。丸ごとぜんぶが魔獣を放った訓練施設になっていて、日に何度も連絡艇が往復している。
わざわざこんな場所まで来ているのは、校舎裏の訓練施設を使うのを、禁止されてしまったからだ。
ほんとうは校舎裏の施設も、低学年は使用禁止だ。でも訓練が出来ないと困るだろうと、学院長が例外で、あたしの使用を許可してくれた。
けどそこで、朝夕自主訓練を兼ねて魔獣を倒していたら、怒られた。根こそぎ狩ったらダメだそうだ。
ともかくそういう理由で、ここまで毎日、通うことになってしまった。
倒した魔獣がもう動かないのを確認して、息を吐く。
複雑な気分だった。
望んで来た学校は、楽しい。初めてのことで戸惑ってばっかりだけど、それも楽しかった。
でもまさか、こうやって戦っているときがいちばん、気楽でいられるようになるなんて。
馴染めない自分。
同じことができない自分。
ここはシエラでMeSだけど、それでもみんなとの間に、深い溝があるのが分かる。
彼女たちは、実戦なんて知らない……。
それはいいことだと思う。けどそのことが、どうにもならない差になってた。
あたしにとっての当たり前。生きていくために必要だったこと。けどそれはどれも、みんなにとっては非日常で、想像を超えた世界だと思い知る。
いろいろ考えながらも、背後に忍び寄る気配に、ふたたび戦闘態勢に入る。音と気配と臭いが、どの魔獣かをあたしに告げる。
間合いを計りながら振り向いた先には、イソギンチャクを思わせる魔獣。
触手を振り上げ、一気に繰り出してくる。
身体を入れ替えてかわすと、鞭のようなそれは、近くの大きな石を突き砕いた。
この島に放されている魔獣は、さすがに強さが違う。
――でも。
十分に引きつけておいて、低位の雷撃魔法を放つ。
魔獣がひるんだところで、続けて火炎魔法。炎といっしょに突っ込んで、急所へ太刀を突き立てた。
同時に、太刀を媒介にして、魔獣の体内へ雷撃を放つ。
完全に動かなくなったのを確かめてから、あたしは魔獣から離れた。
大きく息を吐く。
やっぱり、ここへ来たことそのものが、間違いだったんだろうか?
最近はみんな、露骨にあたしのことを避けてる。こっちを見ながら、囁き交わしてるのもしょっちゅうだ。
中にはあからさまに言う子もいたし、持ち物に手を出そうとする子もいる。
つまり……出て行け、と言いたいんだろう。
異質なものを、人は警戒する。
シュマーという一族の、総領家。代々傭兵をしてきた集団を、束ねる存在。
冷静になって考えてみれば、こんなものがふつう人たちのあいだで、馴染めるわけがない。
なのにそう分かっても、諦めきれない自分がいた。イマドがなぜかあっさり受け入れてくれて、だからもしかしたら他の人も、と思うのだ。
けどそれは、彼が例外なだけで……。
どうしたらいいのか、まったく分からなかった。
――バトルなら、考えなくても身体が動いて魔法を使えるのに。
自分が情けなくて、涙がこぼれる。
教室の中で、みんなといっしょにやっていきたい。ただそれだけのことさえ、あたしはまともに出来なかった。
母さんがなぜあたしを学校に行かせなかったか、やっと分かった気がする。