5話:俺の転生メモリアル【お姉さんは攻略対象じゃありません~】
そのいち!スライム転生!
スライムはなんといっても、その消化性能が持ち味だ。
なんたって体がまるまる消化気管であり、細胞一つ一つが酸と同義である。
もちろん、思考や理性なんかありはしない。
魂で思考できていなければ、俺も本能のみで何かを貪るだけだっただろう。
だが!俺は違う!
食って食って食いまくるのは変わらんが、それを糧にしてくれる!
――――――――――
<種族:スライム>
現状:ノーマルスライム
レベル:1
状態:健康
HP:130 MP:30
筋力:97 器用:50 敏捷:2 魔力:10 精神:5
<スキル>
消化:Lv3
司令塔:Lv5
<特典>
『前世の記憶持ち』
『お友達』
『率いる者』
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鉱物!味ない!とかーす!
果物!味ない!泣ける!
死体!え、まじ?食べるの?これ?
おそらく、魔物にやられた冒険者の死体だろう。しかし、スライムとしての本能を持つ俺は、こんなグロい物でも食料と見なしてしまえるらしい。
とりあえず…いただきます。
【いやっははは~、魂の定着を確認~!】
お、ついに来たぜぇ!魂の定着!
得られた特典は……『食い道楽』?
【ええと~、『食い道楽』。食べに食べる未来を約束された特典です~。スキルとして『悪食』、『消化吸収』を会得。なんでも食べて栄養にできますよ~】
おおお、来世から餓えの心配はないな!
よっしゃ!もっともっと食いまくるぜ!
そんな生活を続けて…3日後。
「お、いたいた。スライムだ」
「こいつの核を5個納品する依頼だっけ?」
「そうそう。早く済ませて飲みに行きましょう?」
俺の周囲を取り囲むように、数人の男女が近づいてきた。
【あ、まずいです山辺さん、この人達は~】
…役所のお姉さんも、同じ見解か?
俺も、多分あれだと思う。
「「「じゃ、死ねー!」」」
ぼ、冒険者ぁぁあ!?
やだやだやだ!?たす、助け、助けて役所のお姉さんー!?
【いやぁ無理ですよ~こんな鈍足スライム~】
いぃぃぃやぁぁぁああ!?
スライム転生、完!
◆
そのに!インコ転生!
俺は、『食い道楽』の恩恵を受けるため、飼いインコに転生してみた。
飼い主がいるから危険もない!
おいしい餌も貰える!
最高の環境!
――――――――――
<種族:セキセイインコ>
現状:成鳥
レベル:10
状態:健康
HP:30 MP:0
筋力:11 器用:60 敏捷:175 魔力:0 精神:5
<スキル>
くちばし:Lv3 おしゃべり:Lv3 司令塔:Lv5
悪食:Lv3 消化吸収:Lv1
<特典>
『前世の記憶持ち』 『お友達』
『率いる者』 『食い道楽』
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「ウマ!マメウマ!」
毎日のように食事がでる生活!最高!
「いんちゃん、よく喋るよねぇ」
「セヤロカ?」
「せやねん」
「「ハッハッハッハ!」」
他愛ない会話を楽しむ俺と、飼い主のお姉さん。
喋れるっていいなぁ、鳥でも意志疎通が可能。2転生分の寂しさを紛らわせるわぁ。
【そしてそして、魂の定着を確認ですよ~!】
うそやろ。
【その名も、『ピーチクパーチク』~!スキルは、『翻訳』と『発声』~!】
なんかチートチックな雰囲気の特典きたー!
翻訳。いろんな言葉を自分の認識できる言葉にしてもらえ、他者に自分の言葉を伝えられる能力!
そして、『発声』!文字通り、言葉を話せるようになる能力!
インコになってそういうの取れるもんなの?
【普通は無理でしょうけど、その飼い主が変わり者だからじゃないです~?インコと普通に会話できてるのにせやねんで済ませてますよ~】
せやろか
【せやねん】
【「「ハッハッハッハ!!」」】
その後、大事に大事に育てられた俺は、41年を生き、飼い主に看取られて生涯を閉じた。
特典は、それ以外に特になかった。
インコ転生、完!
◆
そのさん!クラゲ転生!
…………………………
【…………………………】
…………………………
【…………………………】
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<種族:タコクラゲ>
現状:独り立ち
レベル:1
状態:健康
HP:2 MP:0
筋力:0 器用:0 敏捷:2 魔力:0 精神:5
<スキル>
毒:Lv3 司令塔:Lv5 悪食:Lv3 消化吸収:Lv1
翻訳:Max 発声:Max
<特典>
『前世の記憶持ち』 『お友達』
『率いる者』 『食い道楽』
『ピーチクパーチク』
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海って、雄大だわ。
【生命のちっぽけさを痛感させられますね~】
あ、海ガメ。
【あ~、こっち見てますね~】
口開けてるな。
【あ~、これだめですね】
食われるなこれ(※海ガメの食料はクラゲさん)
【経験もなにもあったもんじゃないですね~。また来世~】
クラゲ転生、完!
◆
そして、現在。
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<俺:3ポイント>
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「おかしくないかな!?」
「あれ~?」
一向にポイントが増えてないと気づいたのは、俺があれからイグアナや巨大ワームなどに転生してから。実に7回目の転生に至ってからだった。
その際に、『慣れれば平気』や『かくれんぼ』などの特典を取得しているが、今はそんな問題ではない。
なぜだ!?
なぜポイントが増えない?
「ん~、要素を上げるならば、理性的な活動、でしょうか~?」
「あん?」
俺は常に理性的、かつ効率を求めて生き延びてきましたが?
「いえいえ、そうではなく~……本来、獣や虫などではありえない『理性』を宿し、効率的な生活ができるにも関わらず、その生物の本質から抜け出そうとしない生命活動~。これはすなわち進化への停滞であり、自然から淘汰されるべき『怠惰』と認識されているのでは~?」
「役所のお姉さん、そんな頭いいこと言えたのか」
「殺すぞ~?」
「流石は上位種族やでぇ…」
「よろしい~」
なるほど、納得できる。
俺はすなわち、転生した種族にとってはもっとも重要な『進化』の可能性を秘めた個体。
その権利を放棄し、ただ生き、魂の定着だけを望んでいた。
そこに試行錯誤はなく、世界が変わるための要素がまったくない一生となった。
故に、ポイントだけをただただ消費していた、と。
ダメじゃねぇか!?
「お、お、お、お姉さん!いやお姉さま!?俺、これからどうしよう!?」
このままいけば、ポイントを全て失ってしまう。
そうなったら何があるのか……役所のお姉さんは、一度として説明した事はない。
俺も、質問したことはない。
そこだけは触れてはいけない……そんな空気が流れていたからだ。
「ん~…次の輪廻で、その生物にあり得ないような進化を遂げる、とかですかねぇ~」
「なるほど、そうか…!」
上位への進化。
それはもっともわかりやすい、世界への貢献だ。
「そうなると、地球では進化が遅すぎて間に合いません~。異世界の中にある生き物で、魔力などを溜めやすく、それに進化が直結しているような存在に転生するのをオススメします~」
役所のお姉さんがめくる資料から、言われた通りの項目をもつ存在を漁る。
ゴブリン?ポイント足りない。
ウィルス?だめだ、小さすぎるし進化したらパンデミックが起きかねん。
あとは……
「……精霊なんて、いかがです~?」
「精霊?」
<精霊:1ポイント>
自然の魔力から「発生」する、魔力の塊。
魔法の原料であると同時に、異世界では草の芽吹きや、汚水の浄化を行う自然の歯車。
その性質から、生き物というよりは「現象」に近く、ほぼ無限に沸き、そして枯渇も条件が合わなければ早く、脆い。
モンスターとしての扱いではなく、人間やエルフが用いる「道具」としての認識が強いと言える。
もはや、生物ですらねぇ。
でも、項目にあるってことは、生まれ変われるわけで……。
今の俺には、魂で思考する力や、食物で栄養を接種する力もある。
ただの精霊よりはその場に残りやすいだろう。
それに……これ以外に、今の環境に合う物件は存在しない…!
「………役所のお姉さん。今まで、精霊に転生した人たちはどうなった?」
「早々に消滅し、次の輪廻への小遣い稼ぎ程度で転生してましたねぇ~」
……小遣い稼ぎに全てを賭けるのか……!
「…………や、」
「や?」
「やーってやろうじゃないの!こ、ここが地獄の三丁目!栄光までの剣ヶ峯だろ!?」
「おぉ~!」
そう、伊達や酔狂で勇者の相棒経験があるわけじゃないぞ!
いや、酔狂でそうなったんだが!
これしかないってんなら、これに全額押し込んで張るだけだ!
当たるも八卦、当たらぬも八卦!
「よく言いましたよ~!それでは心変わりがない内に、承認です!」
そして、足元が光に包まれれる。
もう、後戻りは出来ない。
「……役所のお姉さん。もし、俺がこの戦いに帰ってこれたら……話したい、事があるんだ」
「骨は拾ってあげますよ~」
「俺、田舎に帰って、親孝行するんだ…!」
「貴方と一緒にいた時間、楽しかった…!」
「………あの、やっぱり少し待っていただいて」
「はよいけ」
「あ、はい」
こうして
俺は、
何度か転生して、結果精霊に落ち着いた。