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3話:魂への定着を確認!そして再転生【これには私もびっくり~】

 蟻達の殺し合いから、数日。俺は早速行動を開始した。

 まず、兵隊蟻の隊長、通称おっさんの後をつけ、行動を共にすることから始める。

 付かず離れずの位置で、穴の中を歩いて行く。

 俺が後ろにいるってことは匂いでわかるだろうに、おっさんはそ知らぬ顔だ。


 まぁ、所詮は蟻。深い考えなど理解はできまい。

 こいつなんでついてくんの?くらいのもんだろう。


【んふふ~、それで、ここからどうするんです~?確かに命令系統はこの隊長さんにありますが、彼を説得~なんて考えではないんでしょう~?】


 ふっふっふ、まぁ慌てなさんな、役所のお姉さんよ。

 確かに、おっさんが兵隊に指令を飛ばしてる以上、そのおっさんをこちら側につけたほうが現状の打破に繋がるんだろう。


 しかし、相手は蟻。理性より本能、そして上の命令には絶対という体育会系社会だ。

 おっさんが寿命を迎えりゃあ、また別のもんが隊長に収まり、あの殺し合いを再開させるに決まってる。

 その前に、俺がその命令系統を握って、他の蟻達に刷り込ませればいいって事だ。


【ほぅ?ほうほう~?隊長蟻を追い落とすと、そういうことですか~。しかし、そうなると他の蟻達に、貴方が隊長であるとわからせないといけませんよ~?】


 そう、そこが一番悩ましいとこだった。

 殺し合いをやめさせたいなら、俺が隊長になって命令すればいい。そこはすぐに思い付く。

 しかし、問題はその手段だ。


 基本、蟻達は個々を匂い、というかフェロモンで判別する。

 フェロモンの違いを覚え、隊長か、そうでないかを見分ける。それ故に、成り済ましは不可能。

 仮に俺が不意打ちでおっさんを殺したからといって、その後に俺が隊長になりすませるかと言えば、答えはノーだ。

 匂いによる判別、それは蟻達の絶対的なアドバンテージ。


 だが、そこに穴がある。


【おや、隊長蟻が向かった場所は~】


 ふふふ、ついにこの時がきたぜ。

 おっさんが向かった場所、それは、蜜の貯蔵庫だ。

 特に警戒などすることもなく、おっさんはその中に入っていく。

 もちろん、俺も後を追う。

 中に入ると、溜め込んだ蜜の中に顔を突っ込み、それを啜るおっさんの姿があった。


「キッチキチー(しっつれいしまっさー)」


「ギチィ?(おおう?)」


 俺は何気ない顔でおっさんの元へ向かうと、おっさんの啜る蜜に口を付けた。

 口の中に甘味が広がっていく。なるほど、これがおっさんの好きな味な。


「キチチチィ(旨いっすね)」


「ギチ(うまいって、なんだそりゃ)」


 おっさんからしたら、栄養補給に来てるだけの感覚だろうが、俺にとっては貴重な甘味なんだよ。

 蟻にはわからんだろうがな!


【ははぁん、なるほどですね~】


 気づいたかい、役所のお姉さんよ?

 そう、これこそが俺の考えた隊長成り済まし作戦!


 『隊長と同じもん食べまくって匂いを同じにしよう作戦!』


 蟻の体は小さい。そして体臭は食物に依存する。

 そして、基本蟻は食べるものはバラバラ。故に個体差が現れる。


 ならば、まったく同じものを同じ量食べる蟻がいたら?


 ふふふ、その答えは、この作戦の終局にお伝えしよう。


【いやっははは、山辺さんったら面白いこと考え付きますね~?】


 だろう?

 俺のことは平成の二十面相とでも呼んでくれたまえ!


【蟻一匹に成り済ますだけじゃないですか~】


 おだまりよ!おだまりよ!

 と、とにかくだ、俺はこれから隊長と常に行動を共にして、まったく同じものを食いまくる!

 そして、俺こそが隊長と名乗りを上げ、蟻たちに平穏をもたらすのだ!


 そう、だからまずは、この蜜からいただきますよっと。んまんま。


                          ◆


『隊長と同じもん食べまくって匂いを同じにしよう作戦!』からしばらくして。

 蟻達が混乱し始めているのがわかる。

 いつもならおっさんの号令にすぐに集まる兵隊達が、なぜか俺のところにも集まるようになってきた。

 しばらくすると違うと気づくのか、首をかしげておっさんの所へ向かっている。


 ククク、効いてきた効いてきた。


【いやっははは、見てて面白いですねこれ~】


 だろ?このまま行けば、明後日にはどうにかなりそうだ。


【ふむ~、ふむ、なるほどなるほど~。ちなみに、今は誰かに命令だせます~?】


 あん?んー、多分、にぶそうな奴なら…。

 周りを見回すと、食料を運んでいる蟻が近づいてきてた。

 あいつにしてみるか。


「キチィ!(おい、そこの!)」


「ギチ!?(はい!?)」


「キッチチ、キチィ(その食料、置いてけ)」


「グ、ギチ?(え、え?)」


「キチチチチチ!(命令だぞ!)」


 兵隊はビクッと震えた後、加えてる食料を置いて慌てて逃げ出した。

 ふむ、どうやら命令を聞くやつも出てきてるみたいだ。


【えぇ、えぇ、これは……興味深いですねぇ~】


 …役所のお姉さん。なんか、言葉に含みがないかい?


【んぇ?ん~、そうですね~。いやっははは】


 否定しないんかい。

 気になるんだが?


【まだ確証を持てていませんので~。もう少し、もう少しして、確信が持てたらお話しますね~】


 …………はぁ。

 わかったよ。

 けど、俺の転生に関わりのあることだったら、必ず教えてくれよ?


【えぇ、えぇ~。もちろんですとも~。私は山部さんのサポートなんですから~】


                        ◆


 そして、運命の日。

 現在俺は、あの忌々しい訓練所とは名ばかりのコロッセオに来ている。

 今日も今日とて、目の前に広がるのはおぞましい同士討ちの空間だ。


【さて……行きますか?山辺さん~】


 あぁ、これ以上この光景を見ていたら吐きそうになる。さっさと終わらせてしまおう。

 おれは、周囲におっさんがいないのを確認して、一歩前に踏み出す。

 そして、


「キチィ!!(やめ!)」


 叫んだ瞬間、蟻達はその場で動きを止め、俺の方を向いた。

 よし、言うこと聞いたぞ!


「キチチ!キチキチキチィ!(いいかお前ら!今後仲間同士での殺し合いはご法度だ!)」


 蟻たちは戸惑いを隠せないようすだが、俺を隊長と認識しているらしく、命令に従う者達が増えていく。

 10分もしない内に、この空間で争う蟻達は、いなくなった。


【いやいやおめでとうございます~!】


 どうにかなったな。これで無意味に群れが減るなんてことは無さそうだ。


【んふふ~、それにですね~。面白いことにもなりましたよ~。ステータス出しますね~】


 おぉ?


<種族:軍隊アリ>

 現状:成虫

 レベル:3

 状態:健康

 HP:7 MP:0

 筋力:11 器用:7 敏捷:10 魔力:0 精神:5


<スキル>

 噛みつき:Lv3

  司令塔:Lv5


<特典>

『前世の記憶持ち』

『お友達』

『率いる者』


 お、おぉ!なんか、スキル増えてる!

 特典も増えてる!なんだこれ?


【私もびっくりしましたよ~。まさか、記憶持ちの特典にこんな効果があるなんて~】


 どうやらこの現象は、『前世の記憶持ち』が引き起こしたものらしい。

 どういうことだ?


【これはですね~、おそらく、魂が輪廻を自覚したことによって、心霊スピリチュアルな所で学習が可能になったのではないかと~】


 ふむふむ。

 お姉さんの話をまとめると、こういうことだ。


 俺が今生で学んだことは、全て魂が記憶するらしい。

 取った行動、ついた知恵、それらは全て己の力になり、とうとう今回の出来事で、『特典』に進化するに至ったということだ。


 今回の場合でいうと、蟻の隊長と同格になったことで、『率いる者』が身についたそうな。

 『率いる者』の派生として「司令塔」のスキルを覚え、より味方の指揮をおこなえるようになったということだ。


【ふうむ~、しかもこれは特典ですから、役所で使えるようになります。つまり~……】


 来世でも消えることはないって訳だ。

 これは……俺の時代きちゃったんじゃないか?


 転生した先で経験したことは魂に蓄積され、それを覚えていられることで来世でも引き継げる。

 つまり、転生した数だけ強くなる。という事だ。

 今回のように、部下をうまく使いこなせる特典を持ったまま人間になれれば…!


 エリートなビジネスマンでウッハウハな人生だってありえる!

 俄然やる気が湧いてきたぜぇ!


【う~ん、これカッコイイですねぇ~。ん~…あ、この呼び方、「魂の定着」って呼びません?「魂の定着を確認!」って感じでオペレーターするお姉さん!どうです?かっこよくないですか~?】


 よいぞよいぞ!役所のお姉さんもノリノリだ!

 カッコイイじゃないか、「魂の定着」!いい感じに厨二をくすぐられるぞ!


【ひゅ~!私達、今一番輝いてます~!】


 はっはっは!よーし!このまま経験をつんで、もっともっと魂の定着を増やすんだ!


【いいですね~!】


 そう、この時俺は、まさに人生、いや、蟻生の絶頂にいた。

『率いる者』を使えばこの兵隊たちを手足のように使い、より快適な空間を作れる。

 そうすれば、蟻達の楽園の完成だ。

 まさにバラ色の未来!もう俺を誰も止められない。そう思っていた。


 だからこそ、反応が遅れた。


 グチャリ


 俺の体から、聞きたくない音がした。


【あ、山辺さん……うしろ~】


 お、う?

 なぜだろう、足の感覚がなくなっていく。

 なんだ?これ。

 後ろ?


 後ろには、おっさんがいた。


「ギチチイッチチチチ…(不穏分子を確認…)」


 俺の体は、見事におっさんの顎で真っ二つに食いちぎられていた。

 うっそだろ…


【あ、あぁ~…】


<種族:軍隊アリ>

 現状:成虫

 レベル:3

 状態:【瀕死】

 HP:【0】 MP:0

 筋力:11 器用:7 敏捷:10 魔力:0 精神:5


<スキル>

 噛みつき:Ly3

  司令塔:Ly5


<特典>

『前世の記憶持ち』

『お友達』

『率いる者』


 お、う。もはや挽回も不可能な状態…。

 意識があるのは、虫の生命力のなせる技なのか…?


【……肉体の死亡を確認……山辺さん、残念です~】


 う、うおぉぉ……おっさん、おっさんよ。

 俺はあんたを舐めていた。

 油断に油断を重ねていた。

 自然は、それを見逃さない。


 この結果は必然だ。


 意識が堕ちていく…


 くそ、


 せっかく、すごいこと…………


 ――――――――――――

 ―――――――

 ――――


 そして俺は、死んだ。


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