1話:ヒーロー見参【なんとも頼りない~】
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あぁ、あぁ。
なんという幕切れでございましょう。
ワタクシがダークエルフのお嬢さんを狙って放った魔法は、その軌道を変えてまるで吸い込まれるように山辺様を直撃致しました。
同時に、ワタクシを襲う虚脱感。
ワタクシの体力が、生命力が、大きく削られたのでございます。
おそらく……否、確実に、ヤマベ様が何かしたのでしょう。
あぁ、あぁ、なんたる隠し玉。
何たる献身。
なんたる自己犠牲。
なんたる博愛精神!
結局彼は、最後までワタクシの予想を裏切り続け、最後までワタクシを追い込み、最後までワタクシにとっての「強者」として、散ったのでございます。
「っ、ヤマ、ベ……」
「…………」
ワタクシの前には、まだ『被害を加えた』者が存在いたします。
彼女には、もう戦う理由はない……が、やられたらやり返す。
あくまで優雅に、堂々と振る舞うが「強者」というもの。
彼のように。
かの精霊のように。
最後まで、強者たりえましょう。
「なんとも、なんとも、どこまでも。彼は素晴らしい御方にございました。その心が、その精神が、何よりも誰よりも高潔でございました!」
「っ」
「彼は言っておりました、死にたくないと!彼は申し上げてございました!自分は臆病だと!!異なこと、えぇ異なことにございます!彼の本質は強く、優しく、どこまでも一本に真っ直ぐ!!人の為に己を投げ出せる勇者であり、力に驕らずけして諦めない好敵手でありました!!」
ダークエルフの彼女は、打ちひしがれてございます。
彼女は仰ってございました。かの精霊を助けると。
彼女は決意してございました。里の英雄を守ると。
美しく、高潔な精神!素晴らしい仲間意識!
しかし今、その魂は曇り、風前の灯火のよう。
あぁ、あぁ、いけません。
貴女様は、もっと堂々としていていいのです。
「結局、私は……何も出来なかったのか。アイツを……逃がすことも、出来なかった」
あぁ、あぁ、何を仰います。
いけません、ご自身を責めてはいけません。
思わず、口をついてしまいます。
「何を仰います。貴女がいなければ、彼はワタクシをここまで追い込む事はできませんでした」
彼女が、ワタクシを見上げます。
「彼の一手一手は、ワタクシの耐久力を大きく削り!貴女の弓はとてもとても痛かった!残りの体力こそ残りわずか!貴女がいなければ、貴女があの時、彼を助けていなければ!これほどまでにワタクシは追い込まれていたでしょうか?答えは否ぁ!」
この結末は、貴女がいたからこそ。
この敬意は、この功績は、この満ち足りた心は!貴女がいたからこそ!
「礼を言わなければなりません、頭を下げねばなりません、認めねばなりません微笑まねばなりません!あの精霊を!あの強者を、あの御方を!助けて頂き、誠に感謝!ワタクシは満ち足りてございます、ワタクシは感動してございます!!」
彼女の目に、力が宿ります。
弦の切れた弓を持つ手に力が籠り、まっすぐにワタクシを見つめてございます。
その瞳には、敵意。
かの精霊を消し飛ばしたワタクシに対する、敵意。
その瞳には、けして憎悪などございません。
非常に、綺麗な敵意でございます。
「そう、それで良いのです。ワタクシは貴女を逃がすつもりはございません。でしたらば、かの精霊のように、真っ直ぐにワタクシと戦いましょう。残りを削りきれば貴女の勝ち、貴女を打ち倒せばワタクシの勝ち。単純にございます」
「どこまでも……おかしな奴だ」
「えぇ、えぇ」
壊れた弓を捨て、魔物の骨から削り出したであろうナイフを取り出す彼女。
ワタクシを葬るには、あまりに弱々しい牙。
なれど、蔑みますまい。
笑いますまい。
この刃こそ、今、真の意味で彼女がワタクシの敵となった証。
高潔で、美しい、最高で最強な武器。
熱意を、感銘を、決意を込めてお相手せねばなりません。
それが彼女に対する礼儀であり、それが彼に対する弔いなのでございます。
「覚えてございますよ。ナルゥ様、でございましたね?」
「あぁ」
「美しい……改めて名乗らせて頂きます。ワタクシ、種をデミゴッド。名をイヌイと申します。しばしの間、覚えていてくだされば幸いです」
深々と頭を下げます。
彼女には、それだけの価値がある。
体の魔力を大いに循環させ、周囲を傷つけぬよう、一点に集中。
風の槍を作り出します。
彼女に対して、遠慮などあまりの侮辱。
全力を持って、一撃の元に穿ちきりましょう。
「あああぁぁぁっ!!」
雄々しい咆哮と共に、彼女が迫って参ります。
搦め手など不要な、全力の一撃。
美しい。
なればこそ、それに応えましょう。
大きく振りかぶり、その刃ごと、その身をーーーーー
「おいこらぁ」
ゾッとしました。
そこ声は、この短時間で余りに聞き慣れてございました。
その魔力は、この身に浴びて久しい物でした。
その瞬間、ワタクシの魔力が、大いに減少致します。
これは、非常にまずうございます!?
ワタクシは咄嗟に、槍を突きだしてーーー
「ナルゥに手を出すんじゃねぐはぁぁぁぁぁ!?」
その声の主に、思いきり槍が突き刺さりました。
何故か存じ上げませんが、ナルゥ様のナイフも刺さってございます。
それは、「ポンッ」と音を立て、消えてしまいました。
「………………」
「え、え?なん、え?ヤマベ?今、ヤマベが……え?」
混乱し、見つめ合ってしまうワタクシと、ナルゥ様。
ワタクシ、人よりも「ちょっとだけ」口数が多いのを自負しておりますが、なんとも声にならないことがあるとは大変に驚き。
すると、また………
「ちょ、いきなり貴重な一回が消し飛んだんだが!?なんで出現場所がナルゥ達の間なんだよ!?あぁ、『傲慢』使っちまったよ!思いっきり死んだよ!!」
ぼふんっ
なんともコミカルな音と共に、あり得ぬ存在がその身を現したのでございます。
魔力を寄せ集めた、霧のような体。
つぶらな瞳。
小さなお口。
(◎ヮ◎)←こんな感じの生命体。
「…………ヤマ、ベ?」
いかにも、いかにもでございます。
なんという事でございましょう。どういう事にございましょう。
もはや奇跡でも説明の付かぬ異端。
論外の現象。
全ての常識を嘲笑うかのように、かの御仁はそこに浮かんでございました。
「………あ~………ごほん」
一度死んだ、と仰った彼は………ばつの悪そうに咳をして、改めて我々に向き直りました。
その口から……出てくる言葉は……
「まぁ、なんだ………ヒーロー!見参!!」
素晴らしく、彼らしかったのでございました。




