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9話:実りあれ! 【豊作じゃ~!】

「みんな!昨日は情けない姿を見せてすまない!」


 翌日、俺は昨日の八人と、ナルゥを招集して畑にいた。

 昨日の件を謝ると、皆して微妙な表情。

 やはり、俺は先日の失敗で信用を失っているようだ…。


【いえ、違いますからね~、現実から目を反らさないで~】


 何を言うんだ役所のお姉さん。

 俺は、今回こそ汚名をそそぐ必要があるんだよ…!


【山辺さん~。皆の視線は貴方の後ろに注がれています~】


 言うな……言うな……!

 後ろから俺を抱き締める、クインなんて、いないんだよ…!


「ふふふふ、ダーリン、一緒に頑張ろうね?初めての共同作業」


「ヤマベ、お前……」


「えぇい!誤解を呼ぶ言い方をするんじゃねぇ!ナルゥも、皆に真実味を感じさせるな!?」


 クインの出した条件。

 それは、今回の畑仕事に自分も関わらせること。

 そして……成功の暁には……うぅ、ほ、ほ、


【ほっべにチュウくらいならいいって言ったの山辺さんじゃないですか~】


 一度は、一度はそう言ったさ。

 けどな、一晩経った後に冷静になった俺の絶望は計り知れないんだぞ!?


【もっとヤバイ条件出されると思ってたから、私はほっとしてますが~】


 ま、まぁ、確かにな?

 けどな、やっぱりそういうのはな……


「さ、ダーリン!さっそく始めよう!」


「お、おう!?」


 確かに、このまま皆を待たせとくのはまずいよな。

 クインに抱かれたまま、俺は作業を開始する。

 ナルゥ、そんな目で見るな。


「それじゃあ、もうちょっとだけ働いてくれ、皆!」



                 ◆



 昨日と同じように、畑を整えていく。

 新しい腐葉土を敷き詰め、種を均等に蒔いていく。

 人の手が必要な重労働。


 昨日の失敗を見ていた皆の顔には、どこかやる気が見られない。

 まぁ、当然だよな。


 どうせ、今回も……という気持ちはどっかに絶対あるもんだ。

 だが、今回俺たちには秘策がある。

 二の轍は踏まん!失敗したまま終われるか!


「精霊様、昨日と同じところまで作業が終わりました……」


 ダークエルフの姉さんが声をかけてくる。

 よし……やるか。


「ありがとよ。さぁクイン、やるぞ」


「任せてよ、ダーリン!」


 ニコニコ笑いながら、クインが俺を手放して杖を構える。

 今回、こいつの手助けは絶対に必要だ。丁重に扱う必要がある。

 油断はしないけどな!


「尻とか触るなよ」


「あるの!?ど、どこ?触っていい?」


「二秒前の発言を裏切るなよ!?」


【はいはい、やりますよ~】


 まったく、調子が狂う。

 ともあれ……集中だ、集中。


 体から魔力を解いていくイメージ……。

 しかし、今回は昨日と違う。

 精霊達の半分は、クインに任せるようにしてる。

 半分は、昨日と同じく、種に。



 もう半分は……土に。



「精霊さん、お願い…」


 クインが魔力を介して、精霊とコンタクトを取る。

 あいつの魔力と、その見に纏う空気は、精霊に好かれるものらしい。

 お願い、というだけあって、精霊が自らの意思で動くかのように、地面に吸い込まれていく。


【……おおぉ、凄いです~。種の発芽を確認。けど、そこから枯れる様子はありません~!】


 そう、考えてみれば、簡単な事だったんだ。

 植物が、精霊の力で成長する。それはわかる。


 しかし、成長するにあたって、必ず地面の中にある栄養を吸収するのだ。

 そして、成長が早ければ早いほど、地面の栄養も早くなくなる。当然の事である。


 昨日は、種にばかり成長を促したため、土から栄養がなくなり芽が枯れてしまったのだ。

 それをクインに指摘された時の、俺と役所のお姉さんの唖然と言ったらない。

 少し考えたらわかることであったのだ。


「そう、そう。良い子だね」


 クインは、地面の中を栄養で満たすために、精霊にお願いする。

 俺は、種を成長させるために、精霊に命令する。


 この二つがあって初めて、早急な畑の成長が見込めるようになった訳だ。


「おぉ…!枯れないです!」


「なんと美しい…精霊が踊っているかのようだ」


 周囲からも、感動の声が上がっている。

 しかし……このやり方には、ひとつ欠点がある。


「ここまで、だな?」


「うん、そうだね」


 俺とクインは目配せし、精霊へのコンタクトを止める。

 周囲を旋回していた精霊達は、ふわりとまた無軌道な動きになった。


「っ……ヤマベ、どういう事だ?このまま続けていけば成功しそうなものだが」


「あぁ、たぶんな。けど、精霊への負担がでかい」


 そう、今回は、畑の種に今集まった精霊の半分を。

 そして、もう半分を土の栄養循環に当てた。


 半数と半数で、畑一面を賄うわけで、いくら精霊が魔力を多く持つといっても、限界がある。

 少しインターバルをおいて、時間をかける必要があるわけだ。


「………ってな訳で、このペースでいくと、最低でも四日はかかる計算になる」


「そうか……まぁ、仕方ないな。そもそと四日で実りを得られる事が異常なのだ」


 そう、必要な日数は、四日。


 しかし、けしてその数字は絶望ではない。

 現に、周りの皆の反応は……


「素晴らしかったです、精霊様!」


「クインも、やるじゃないかっ」


「四日で実りを得られるなんて…!」


 ………泣きそう。

 よかった、よかったぞー!


【苦労が報われましたねぇ、山辺さん~!】


 役所のお姉さんも、ありがとな!

 もう結婚しよう!


【ははは、下等生物のくせに~】


 うるっせ、土の栄養に気付かなかった高位生命体が!


【む~!それを言いますか~!?】


 俺と役所のお姉さんの言い争いは、脳内で延々と続く。

 しかし、途中で互いに吹き出し、大笑いしてしまった。

 二人とも、何だかんだで嬉しい訳だな。


 残り四日……畑仕事は、それで成功する。




                ◆




 それから四日は、もう必死だった。


 畑にワームを蒔いて土を綺麗にしてもらったり。


 水をあげてる途中でナルゥが水魔法ぶちまけようとしたり。


 役所のお姉さんが同僚に生き遅れ扱いされた為にそいつを半殺しにした愚痴を聞かされたり。


 どんなトラブルが起こるか、全然予想できなかった。

 けど、皆が協力してくれたし、なにより……俺を信じて、ついてきてくれた。



 その答えが、今目の前にある。



「………育ってる………」


 誰かが、ぽつりと呟いた。

 俺じゃないのは確かだな。

 だって、今声出したら、俺泣くもん。


「育ってる!育ってます!」


 感極まったダークエルフ達が、口々に叫ぶ。

 そう、今目の前には……



「ダーリン!キスしてキス!」


「うるせぇ!今感動してんだよ!?」



 こほん。

 そう、今目の前には………様々な作物が並んでいた。


 人参。

 ゴボウ。

 白菜。


 あと、大婆様が見つけてきたエンドウ豆みたいな植物もある。

 どれもこれも、枯れることなく、ここにある。

 成功した。

 成功したんだ。


【山辺さん、おめでとうございます~】


「やったな、ヤマベ」


「ダーリン!約束!キス!」


「「おめでとうございます!」」


 俺を取り囲む皆。

 私利私欲のやつもいるが、総じてこの奇跡を祝ってくれている。

 嬉しい………



 うぉぉー!嬉しいぞぉー!!



「ふぶぅ…!ぉ、おまえら、んっ、んぶっ、ありがと、ありがとな…!」


 堪えきれなくなってきてるが、お礼はちゃんと言わなくちゃなるまい。

 本当に、自慢の仲間達だ…!




 その後、俺たちは作物を収穫した。

 皆が野菜を里に持っていき、成果を報告してくると言う。

 残ってるのは、俺と、ナルゥと、クイン。


「いやぁ、しかし、ほんとよかったわぁ…」


「まぁ、今回は誉めるぞ。よくやった」


「うんうん、ダーリンお手柄だよ!」


「まぁ、クインがいなくちゃどうにもならんかったけどな」


 そういう意味では、まだまだこのやり方じゃだめってことだ。

 畑を改良して、やり方を試行錯誤して、いつでも、誰でも、野菜を食べれるようにしなければならない。

 俺の仕事は、山ほどここにある。

 ………ここにきて、良かったよ。


【山辺さん~!】


 お、役所のお姉さん。

 お姉さんもありがとな、おかげで助か…………



【今すぐ、その場を離れてください~!】



 は?


「っ」


「……なんで?」


 ナルゥと、クインの声がする。

 ピコン、と、俺の『発見』が何かに反応する。


 パチ、パチ


 音が聞こえた。


 パチパチ、パチパチパチパチ


 拍手?


「いやいや……いやいやいやいや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!」


 どこか、イントネーションぶっ壊れたような声が聞こえる。

 その瞬間、俺の体がさぁっと青ざめる。

 クインとはまた違った、ほの寒い気配。


「素晴らしい、大変に素晴らしい、実に素晴らしい!大いに素晴らしい!!見せて頂きました、えぇ頂きましたとも!」


 これは、恐怖か?

 心が震える。


「まさに奇跡、まさに革命!空前絶後に前代未聞!精霊が言葉を話し、他者と交わり想いを寄せ合い!一つの出来事を必死で実らせようと全員で切磋琢磨し成果を結ぶ!それは間違いなく功績であり、まごうことなく栄光でありましょう!私は貴方を尊敬します、私は貴方を称賛します!私は貴方を絶賛します!」


 シルクハットに、燕尾服。

 手にはステッキ、靴は革靴。

 おおよそこの世界に似つかわしくない姿の男。


 そいつは、ニヤリと笑って優雅に一礼、俺を真っ直ぐ見つめて、こう言った。


「私の出会った、素晴らしい貴方。本当に、素敵な物語にございました………では、貴方の死をもって、幕を閉じましょう?」

 

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