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孵化するよ

01 ===孵化するよ===


「ピャーピャー」


 こんにちは、大鳳(おおとり)俊明(としあき)と申します。卵が割れて、頭を出しました。空気を一生懸命吸って鳴きます。何も考えずに鳴きます。ぴゃー。


「わぁ~、かわいい!ぴーちゃん!ほら野イチゴだよ!」


 金髪碧眼で耳がほっそりしてる幼女がつぶつぶのイチゴを頭上に持ってくる。雛は餌を運んでくれる存在無くしてはすぐ死んでしまう。エルフらしい幼女よ、一生養ってくれ。


「あっ、食べた!まだ食べる?」


「ピャーピャー」


 まだまだ入るな。もっとくれ。



~~~~



「いやー、まいったわー。おたくの世界に異世界転移させた鳥がジェット機に次々と吸い込まれて墜落するとかなー」


「……」


 ここは全面真っ白の空間。何故か床だけは不思議素材のタイル張りで、パルテノン神殿の柱みたいなのが生えてる。あと、鳥の群れがめっちゃいる。ちょんちょんと歩いたり、尻尾をふりふりしてる。目の前にはおっさんの声を出すデカい鳥。雀をそのまま象くらいの大きさにしたような奴。目がくりくりしてて、可愛いかと思いきや怖い。でかいからな。どう考えても俺を丸呑みできるサイズ。で、声は関西系の軽いノリのおっさん。


「あの鳥たちはめっちゃ免疫が凄くてなー。あと12年後に起こるパンデミックを防ぐ役割があったんだよねー。ま、もういっぺん送ったからなー、あんさんの世界は無事に救われたんやー。よかったな!」


「……」


「なにしかめっつらしとん?なんかあるんなら、わし一応神やし、なんでも言ってみ?ん?ジブン、しゃべれるんやろ?」


「……俺、貴方のせいで死んだんですよね?とりあえず弁護士呼んでくれます?」


「ごめんちゃい!」


「……はぁ。……」


「ごめんなさい!」


「……弁護士まだですか?」


「あの、これからの事を話し合いたいのですが、よろしいでしょうか?」


 まぁこのまま駄々をこねても話が先に進まない。しかし譲るつもりはないからな。

 こういう展開の時の対処法は至って簡単だ。モンスタークレーマーになればいい。対応の仕方から見て、このでかい自称神の鳥モドキは俺の許しを欲している。この商品を如何に高く売りつけるか、それに尽きる。


「私ども異世界の神々の不手際で殺めてしまった方々について、出来る限りの補償をさせて頂くことになりました。あなたの担当は私です。よろしくお願いします」


「じゃあこのまま地球に戻してくれ。飛行機が落ちたのは海岸辺りだったはずだから、漂流したことにしてくれ」


 べらぼうな保険金をせしめてやるよ。


「それが出来れば一番なのですが、不可能です」


 そうだろうな。それができるならそもそもこんな場を設ける必要が無い。


「じゃあ地球に転生だ。石油王の一人息子でいいぞ。日本の上場企業の筆頭株主の一人息子でもいい」


 これが出来ればいいんだが、たぶん。


「あの、貴方の世界に転生する事もできません。申し訳ございません」


「……はぁ……」


 ここで一息。あーあ、なんてこった。予想していたがかなり落胆した。どうせあれだろ?『我々の世界にチート付けて転生』とかだろ?

 あのさぁ、剣と魔法の世界で成り上がってハーレムとかさ、なに?俺TUEEEで日替わり嫁とにゃんにゃん?魔物を倒すの?魔王を倒すの?素材売るの?


 どこの民族だよ?金、暴力、セックスなの?文明舐めてる?アニメもゲームも無いとか?水洗トイレある?飯は旨いの?はぁ~。まじ。はぁ~。


「……」


 目の前のでかい雀は倒れ伏し、嘴から舌を出してビクビク痙攣して白目を剥いていた。やっぱコイツ心を読めるのか、死ね。詫びて焼き鳥に成れ。というかジェット機のエンジンでバラバラの黒焦げの何かになれ。イライラしてきた。


『バスッバスッ』


 蹴ってみた。中々の蹴り心地。


「……」


 何事もなかったかの様に起き上がった。さてはコイツ、さっきのは演技だな。


『バスッバスッバスッバスッバスッバスッ……』


「あの、そろそろ話し合いに戻りませんか?」


「……はぁ、はぁ…」


 なんか疲れた。


「で、どうしてくれるの?高度な文明で恵まれた国籍で会社勤めの将来有望で健康な成人男性の残りの人生の補償だよ?わかる?」


「えと、チートつけて転生できます」


「どんな?」


「私の授けられるチートはですね。幸運のチート、あらゆる言葉が理解できるチート、とても固い嘴を持つチート、強力な爪を持つチート、病気にかからないチート、空を速く飛べるチート、目がとても良くなるチートです」


「それ、鳥じゃねーかぁあああああ"あ"あ"あ"あ"」


「私の授けられるチートはですね。幸運のチート、あらゆる言葉が理解できるチート、とても固い嘴を持つチート、強力な爪を持つチート、病気にかからないチート、空を速く飛べるチート、目がとても良くなるチートです」


「こいつ、死ね、死ね、早く死ね!」


 殴る蹴る、助走をつけて蹴る。オラオラオラオラ、ゆるさん、泣いてもゆるさんぞぉ~~!


「私の授けられるチートはですね。幸運のチート、あらゆる言葉が理解できるチート、とても固い嘴を持つチート、強力な爪を持つチート、病気にかからないチート、空を速く飛べるチート、目がとても良くなるチートです」


……


 俺は泣いていたと思う。泣きながらでかい鳥に只々暴行を加えていた。途中からはもうどうなっていたか覚えていない。壊れたステレオの様にチートチート繰り返すおっさんの声がどこまでも耳に入ってきていた。

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