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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
第5章 “常春ペア”は、底が抜けてて手が焼けます

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(14)賄賂はクーレ・ユオン40本セット

「エドガーの奴は、プライドが無いのか!? 珍しいからと嬉々としてあんな物を貰おうとするなんて、幾ら何でも見識を疑うぞ」

 エドガーと別れた後、他の側付き達を振り切ってアリステアとの待ち合わせ場所に向かっていたグラディクトは、憤然としながらエドガーに対する悪態を吐きまくっていた。


「あいつは元々反抗的な所があったし、この際、側付きからは外そう。まあ……、自分の行いを恥じて早々に頭を下げてきたら、考え直してやらないでも無いがな」

 そして自分が切り捨てられる筈は無いという、根拠のない自信の下で確信し、自分の非を認めたら寛大な心で許してやっても良いと自画自賛して幾らか気分を良くしながら、グラディクトは空き教室へと足を踏み入れた。


「アリステア、待たせたな」

 そこに彼女だけではなく、何故かモナとアシュレイに扮したシレイアとローダスまで揃っていた事に、グラディクトは僅かに眉根を寄せたが、アリステアはそれに気が付かないまま声をかけてきた。


「グラディクト様! 絵画展を観て来ましたか?」

「ああ。君は?」

「行って来ました。マリーリカ様が描いた、見た事も無いような絵が凄い話題になっていて、せっかくエドガー様が手伝って下さったのに、私の絵は見向きもされていなくて……」

 そう言って気落ちした様に俯いた姿を見て、グラディクトは彼女に歩み寄りながら謝罪の言葉を口にした。


「すまない、アリステア。エドガーにもっと力量があれば、例えどの様な変な画材を持ち出されても、人目を引く絵を描けた筈なのに」

「そんな言い方は、エドガー様が気の毒ですよ。だってあんな画材は初めて見ましたし、画風も全く違いますから」

(あの絵は一応二人の連名で出されていたが、やはりエドガーが殆ど描いたんだな)

(予想通りのダメダメっぷり。もう何も言う気がしないわ)

 しんみりとした口調で慰め合っていた二人だったが、その横で傍観者になっているシレイア達は、内心しらけ切っていた。そんな彼女達に、グラディクトが訝し気な顔を向ける。


「ところで、お前達はどうしてここに?」

 それに二人が、落ち着き払って答える。

「その絵画展に関して、聞き捨てならない噂を聞いたので、殿下のお耳に入れておこうと思いまして」

「アリステア様とのご歓談の場をお邪魔したくは無かったのですが、急いで馳せ参じました」

「何事だ?」

 グラディクトが促すと、二人は神妙な口調で言い出した。


「殿下はあの絵画展会場で、新しい画材を使ってのマリーリカ様の実演と、ワーレス商会会頭の息子による無料配布をご覧になりましたか?」

「ああ。見て来た所だ」

「普通であれば、幾らマリーリカ様の絵が珍しくとも、秀逸なエドガー様とアリステア様の絵も人目に付き、話題になる筈。それなのにあれでマリーリカ様の作品以外は、話題にならなくなってしまいました」

「その通りだ。全く腹立たしい!」

「それは全て、エセリア様の策略なのです」

「今、二人からそれを聞いて、私も驚いていたところなの」

「何だと!? それはどういう事だ!」

 アリステアも交ざって告げてきた内容に、グラディクトは一気に表情を険しくし、シレイア達はここぞとばかりに畳みかけた。


「どうやらエセリア様は美術担当の教授を抱き込んで、エドガー様がアリステア様の作品を手伝うという情報を得ていたらしいのです」

「それで、かなり秀逸な作品が出されるだろうと察したエセリア様が、どんな作品が出ても話題をさらえるように画策したわけです」

「あの女……、分かってはいたつもりだが、どこまで悪辣な……」

 ギリッと歯ぎしりをして呻いたグラディクトを見ながら、二人は淡々と説明を続ける。


「それでシェーグレン公爵家出入りのワーレス商会に声をかけて、新しい画材の発売時期を強引に早めたとか」

「その上で学園長が希望する物を彼に贈呈して丸め込み、あのマリーリカ様の実演と無料配布を許可させたのです」

「やはりそうか! リーマンの奴、恥知らずにも程がある! 如何にも清廉な教育者を装いながら、陰で金を受け取ってエセリアにあっさり丸め込まれ、不正を黙認するとはけしからん!!」

 そう叫んで本格的に怒り出したグラディクトだったが、真相を知っている二人は、そんな彼から微妙に視線を逸らした。


(確かにエセリア様に丸め込まれたけど、学園長が受け取ったのはお金じゃなくて、クーレ・ユオン四十本セットなのよね。『お孫様に使って頂いて、意見が聞きたい』と渡したら、喜んだお孫さん達の間で取り合いになって、結局三セット追加したけど)

(学園長は本心からクーレ・ユオンの有用性を認めて、学内での宣伝を快諾したんだけどな。『不正を黙認するとはけしからん』とか尤もらしく言ってるが、他人の作品を自分で描いた如く偽って出品する事は、不正とは言わないのか?)

 しかしそんな内心は微塵も面に出さず、ローダス達はしみじみとした口調で言ってのけた。


「ここで自分がクーレ・ユオンで作品を描かず、マリーリカ様に描かせたところに、エセリア様の悪辣さが滲み出ていますね」

「本当に。巻き込まれたマリーリカ様がお気の毒。クーレ・ユオンで描いた絵が万が一話題にならなくても、エセリア様には全く影響はありませんし、同じ王子の婚約者としての親交を深める為に、今回クーレ・ユオンを紹介したとマリーリカ様に恩が売れ、王妃様にはアピールできますもの」

 その尤もらしい解説を聞いて、グラディクトは怒りを内包した声で呻き、アリステアはエセリアを非難する声を上げた。


「なるほど……、最初から最後まで、あいつの思い通りに事が運んだと言う事か……」

「本当に狡猾で、抜け目が無い方ですよね! そんな油断できない方が婚約者だなんて、グラディクト様が本当にお気の毒です!」

「アリステア……」

 涙目で訴えたアリステアと、そんな彼女と見つめ合うグラディクトを見て、似たような光景をこれまでに何度も見せられてきた二人は、密かに呆れた目を向けた。


(こんな口からでまかせ、本当に頭から信じるんだ……)

(エセリア様は嬉々としてクーレ・ユオン売りさばき計画の前哨戦として、学内の宣伝を企画しただけよね)

 そして一応、彼らが迂闊な事をしない様に、控え目に釘を刺す。


「誠に残念ですが、今申し上げた事は信憑性の強い噂であって、証拠は全くございません」

「ですから下手に口外なさらないように、お願いします」

「……分かっている。悔しいし、腹立たしいがな」

 如何にも悔し気に頷いたグラディクトだったが、ここでローダス達は励ますように、力強く彼らに告げた。


「ですがそのうちきっと、エセリア様も言い逃れできない証拠を掴んでみせますので、お待ち下さい」

「私達と志を同じくする者は、水面下で徐々に増えておりますので、一致団結して慎重に事に当たりますわ」

 それを聞いたグラディクトとアリステアが、途端に表情を明るくして応じる。


「そうか。二人とも、頼りにしているぞ」

「宜しくお願いします。グラディクト様を、これからも支えてあげて下さい」

「勿論です、アリステア様」

「殿下同様、アリステア様にも忠誠を誓いますわ」

 そんな茶番にも程があるやり取りを、ローダスとシレイアは疲労感を覚えながら、その日も最後まで見事に演じきったのだった。



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