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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
番外編:完璧令嬢の憂いの溜め息

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(8)天才なりの悩み

 ひとしきりデリシュと話し込んだ後、次に呼ばれてやって来たのは次男のクオールだった。

「クオールです。入ってもよろしいですか?」

「はい、どうぞ。お入りください」

 礼儀正しくノックをしてから入室の許可を取ったクオールは、この時点で既に腰が引けていた。


「コーネリア様、初めまして」

「こちらこそ、よろしくお願いします。どうぞ、お座りになってください」

「失礼します」

 緊張のあまり血の気がない顔でコーネリアと向かい合って座ったクオールは、溜め息を吐きたいのを必死に堪えていた。


(うわ、緊張する。エセリア様はグイグイ押してくるタイプだから、なし崩し的に会話する事にもう慣れたけど、こんな典型的なお嬢様と話した事なんか皆無なのに)

 そして自分をこんな状況に追い込んでくれた父に向かって、心の中で恨み言を漏らす。


(店に出ている兄さんなら老若男女との会話なんて息をするようにできるし、ミランは前からシェーグレン公爵邸に出入りしてコーネリア様と面識があるから余裕だろうけど、こっちは同年代の女の子とも最近まともに話して無いんだぞ? それなのに、今回父さんがあっさり了解するなんて……。向き不向きを考えて、僕を除外してくれよ!)

 クオールが密かにそんな愚痴をこぼしていると、コーネリアが微笑みながら話を切り出す。


「エセリアから度々話は聞いていましたが、あなたと実際に会うのは初めてね。妹からあなたの事を『とんでもない天才だ』と聞いていたので、会えるのを楽しみにしていたの」

 それを聞いたクオールは、本気で頭を抱えて呻いた。


「エセリア様、何を言ってるんだよ……。あの、コーネリア様。お願いですからその話は、九割ほど差し引いてください」

「あら、デリシュさんと同じく謙虚なのね」

「いえ、兄さんが謙虚なのは事実ですが……」

「ところでクオールは、そんなに商売が嫌いなの?」

 しどろもどろで弁解をしていたところにいきなり問われたクオールは呆気に取られたが、すぐに真顔になって答えた。


「何がなんでも嫌だと言うわけではありませんが……、正直に言うと接客するのが苦痛なんです」

「確かにそうなら、商売に差し支えるでしょうね」

「それに僕よりも商売に向いている兄さんがいますから、両親もそれで問題ないと考えている筈です」

「人間、確かに向き不向きは重要かもしれませんが、変に卑屈になる必要は無いと思いますし、ご両親に理解があって良かったですね」

「はい、僕もそう思います」

 互いに慎重に言葉を選びながらやり取りしてから、コーネリアはあっさり話題を変えた。


「ところで工房では、どんな事をしているのかしら? 先程少しだけ見学させて貰ったけど、エセリアが時々お邪魔しているし、危険な工具とか取り扱いに注意が必要な薬品とか物品は無いか不安になってしまって」

(まずエセリア様の心配をされるなんて、コーネリア様はなんてお優しいのかしら)

 アラナはコーネリアの配慮に感心したが、それはクオールも同様だったらしく、即座に笑顔で応じる。


「勿論、間違って使えば怪我をする工具とか、使用法を誤って使うと毒にもなる加工用薬品などもありますが、エセリア様が来る日時は予め連絡を貰っていますから、余計な物はその都度きちんと収納しておきます。それに話をする場合のテーブル付近には、通常から危険物は置かない事になっていますから心配要りませんよ?」

「ありがとう。それを聞いて安心できたわ」

「コーネリア様は、本当に妹思いのお姉様ですね。真っ先に、妹の安全に関わる事を尋ねられるなんて。僕はそんな風に兄弟の心配をした事なんて無いな……。少し反省しました」

 真顔で軽く頭を下げたクオールに、コーネリアは冷静に意見を述べる。


「それだけ、ご兄弟を信頼しているという事だと思いますし、それはそれで良いのではないかしら?」

「そうですか? 家の事も店の事も周りに任せきりで好き勝手をしている自覚がありますから、時々肩身が狭くて」

「あなたの気持ちは分からないでも無いけれど、ご家族の皆さんはあなたを邪険にしてなどいませんよね? あなたはあなたらしく生きるのを、皆さんは望んでいると思いますよ? 自信を持って」

「はい。ありがとうございます、頑張ります」

 そこで気を取り直したらしく力強く頷いたクオールを見て、コーネリアも笑顔になりながら話を進めた。


「それで、今はどんな物を作っているのかしら?」

「ええと……、できるだけ分かりやすく説明してみますが……」

 それからはクオールが身振り手振りを交えて説明する内容を、コーネリアは笑顔で時折質問を挟みながら書き留めていた。

(さすがはお嬢様。彼とは一歳だけ年長とは思えない貫禄だわ)

 その落ち着き払った彼女の様子を見て、アラナは信望度合いを益々深めていった。


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