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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
第7章 “暴走”は、傍迷惑な所業です

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(25)思惑の相違

 学年末休み中、補習に明け暮れた結果、アリステアは何とか貴族科上級学年に進級し、新年度を迎えていた。そんな彼女の目下の楽しみは、自室のドアの隙間から、いつの間にか差し込まれている手紙を見る事だった。

「あ、また手紙が来てる!」

 寮の自室に戻ってドアを開けるなり、床にある手紙を見て目を輝かせた彼女は、すぐさまドアを閉めてそれを拾い上げた。


「モナさんから話を聞いた時、王宮にいるグラディクト様と、本当に頻繁にやり取りができるのか不安だったけど……。やっぱり私達には、協力者が相当いるのよね。凄いわ! 早速読んで、返事を書かないと」

 そして早速封を開けて手紙を読み始めたアリステアは、読み終わると宣言通り、机に向かってグラディクトへの返事を書き始めた。

 その翌朝、彼女は授業が始まる前に主要棟の玄関ホールに出向き、周囲に人目が無い事を確認してから、柱時計の振り子部分にあるガラス製の扉を開け、その中に昨晩書いた手紙を放り込んだ。そして何食わぬ顔で元通りそれを閉め、些か残念そうに呟く。


「これでよし、無事にグラディクト様の所に届いてね。……だけどやっぱりまだ、エセリア様の影響が残ってるのよね。堂々と私の所に、顔を見せに来てくれないなんて」

 未だに直接接触して来ない、自分達の支持者に不満を漏らしつつも、アリステアはすぐに力強く、まだ見ぬ彼らに向かって宣言する。


「でもそんな理不尽な思いも、あと一週間の辛抱よ! グラディクト様と共に、あなた達をエセリア様の魔の手から、解放してあげますからね!」

 柱時計に向かってそう宣言し、「うふふふっ!」と不気味な笑い声を上げている彼女の姿を、偶々付近を通りかかった女生徒達が目撃し、遠巻きにしながら通り過ぎて行った。


「……嫌だ、あの方。朝から柱時計の前で変な声で笑いながら、何をぶつぶつ言っているのかしら」

「本当に。気味が悪いわね」

「しいっ! 放っておきなさい。目を合わせちゃ駄目よ!」

 そんな彼女達が通り過ぎ、アリステアもその場を立ち去ったのを見届けてから、ミランとカレナは注意深く物陰から姿を現した。


「すぐに返事を書くのは誉めてあげるけど、どうせ大して中身が無いか、ろくでもない内容でしょうね」

「そもそもどうやって王宮の殿下と手紙のやり取りが出来ているのか、全く疑問に思わない辺りが、もう何も言えないな……」

 そんな愚痴っぽいやり取りをしながら、自然な感じで二人は柱時計に歩み寄った。そしてミランが柱時計に向かって立ち、カレナが彼に背を向けて立つ。更に彼女はさり気なく左右に視線を向けて警戒しながら、ミランに声をかけた。


「ミラン、大丈夫よ」

「分かった」

 その合図で、彼は素早く柱時計のドアを開けて中の手紙を取り出し、それを制服のポケットに入れつつ、元通りドアを閉めた。


「さてと、今日も無事回収」

「こんな所を彼女に目撃されたら、今までの苦労が水の泡になってしまいかねないものね」

 そう言って苦笑したカレナに、一緒に廊下を歩き出したミランが釣られて笑う。


「さすがにエセリア様と明らかに繋がっている、ワーレス商会のミラン・ワーレスが手紙の仲介人と分かったら、不審がられるよな。また返事が来たら、彼女の部屋まで宜しく」

「ええ、任せて。ミランは女子寮には入れないものね。今まで誰にも怪しまれていないから、大丈夫よ。建国記念式典まで、あと一週間。最後までしっかり、役割を果たしてみせるわ!」

 ここで妙にやる気満々で頷いたカレナに、ミランが怪訝な顔を向けた。


「どうしてそんなに、気合いが入っているのかな?」

「だって二年もの間ずっと、エセリア様にとって円満な婚約破棄を目指して、ひたすら頑張ってきたのよ? エセリア様の才能が、あの役立たずの王太子のお守りと尻拭いだけに費やされるなんて、宝の持ち腐れ以前に、冒涜以外の何物でも無いわ!」

「うん、それは僕も激しく同感だけど……」

「婚約破棄になったら、例えエセリア様に非は無くとも、そうそう新しい縁談など持ち上がる筈はないもの。そうなると暫くは、エセリア様に執筆活動に専念して頂けるわ! あの感動を再び! そして今回、新境地を拓いて頂けるような予感に、私は今からうち震えているのよ!」

 期待に目を輝かせながら、熱く未来を語るカレナを見たミランは、彼女から視線を逸らしながらぼそぼそと呟いた。


「……それが一番、納得出来ないんだけどな。僕としては画期的な商品開発や、制度確立とかを提案して頂きたいだけなんだけど」

「ミラン、今何か言った?」

「いや、大した事じゃないから。それじゃあ、店の午前中の便で、彼女の手紙を持って行って貰わないと。急いで事務係官室に行ってくる」

「授業に遅れないように、気をつけてね」

 そこでカレナと別れたミランは、毎日定期納品と受注に来る商会の人間に手紙を言付ける事を事務係官に依頼してから、授業に出るべく教室へと向かった。

 その手紙は無事にワーレス商会に届き、そこを経由してその日のうちにシェーグレン公爵邸へと届けられた。それは屋敷の使用人を介してナジェークに渡され、彼は翌朝それを密かに携えて、職場である王宮へと向かった。


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