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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
第7章 “暴走”は、傍迷惑な所業です

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(19)思惑が交差する卒業記念茶話会

 卒業記念式典が間近に迫った、ある夜。消灯前の時間帯に、エセリアの部屋のドアを叩いた者がいた。

「シレイア、いらっしゃい」

「夜分、恐れ入ります。例の件に関しての報告です」

「待っていたわ。入って頂戴」

 相手を確認して室内に招き入れたエセリアは、この間の準備状況についての報告を受けた。


「やはりアリステア嬢は、建国記念式典に出席する気満々なのね」

 思わず諦めとも愚痴とも取れる呟きをエセリアが漏らすと、シレイアが諦めきった表情で応じる。


「はい。あの人がしゃしゃり出て来ると、面倒以上に何をしでかすか予測できなくて怖いので、この間さり気なく翻意を促してみましたが、『そんなに心配しなくても大丈夫だから』と、益々意地になってしまったらしく……」

「もう、それに関しては諦めましょう。怪しまれたら元も子もないですし。それに準備の方も、滞りなく進んでいますから」

「本当に……。どうしてあそこまで恥ずかしげもなく『エセリア様の代わりに、殿下を支えてみせる』と言えるのかと、不思議で仕方がありません」

 今度はシレイアが愚痴を零した為、エセリアは苦笑しながら彼女を宥めた。


「それだけ本の中のヒロインに、自己投影しているのでしょうから……。他人がどうこう言っても無理でしょう。取り敢えず彼女のドレスに関する諸々と、当日の馬車の手配、王宮内での手回しは、お兄様とイズファイン様が取り仕切って下さるそうだから……。取り敢えず、何とかなりそうね」

 些か強引にエセリアが話を纏めると、シレイアが話題を変えてきた。


「ところで、エセリア様。サビーネから、アリステア嬢が卒業記念茶話会の日に何やら騒ぎを起こす可能性があると聞きましたが。そちらの対策は宜しいのですか?」

「ああ、明後日のあれね……。対策も何も、実は今日、これが届いてしまったのよ」

 そう言いながらエセリアが机の上から取り上げた物を、受け取って確認したシレイアは、王家の紋章入りの便箋を一目見て、驚きの声を上げた。


「これは……、王妃様からの正式な要請状ですか!?」

「ええ。実は王宮では昨日からエタートス国からの視察団を受け入れていて、今日から活動しているのだけど、あちらの国では事情が少々特殊だから、是非国情に合わせた意見を出して貰いたいと言われてしまったの」

 ざっと中身に目を走らせたシレイアは、エセリアの説明を聞いて深く納得した。


「これではお断りできませんね。そうなると必然的に、茶話会の方は欠席ですか」

「ええ、実はつい先程レオノーラ様に事情を説明して、お断りしてきたところなの。彼女は『それなら日程を変更致しましょう』と言ってくれたのだけれど、私一人の為にそれは申し訳無いもの」

 それを聞いたシレイアは、おかしそうに笑った。


「何を仰います。エセリア様がいなければ、茶話会を開催する意味がありませんから。賭けても良いですが、誰かが旗振り役になって、改めて場を設ける事になるに違いありません」

「その時には、何を押しても出席するわ」

 エセリア自身、そうなるだろうなと予想していた為、苦笑しながら話を締めくくった。


「そういう訳だから、取り敢えず私が居ない時に彼女が騒ぎを起こしたら、必要以上に事を大きくしないように、フォローをお願いするわね」

「分かりました。お任せ下さい」

 同じ頃、その行動が懸念されていたアリステアは、早々にベッドに潜り込んでいた。


「うふふ……。年度末休みに入ったら、ドレスを仕立てて貰う事になったし、殿下の婚約者として華麗にデビューできるわね! それもこれも性格の悪いエセリア様が、殿下の婚約者だったおかげだわ!」

 変な方向でエセリアに感謝しつつ、自分の幸運を信じて疑わないアリステアは、枕の下から《クリスタル・ラビリンス~暁の王子編》を引っ張り出した。そして読み込んで端が擦り切れているそれを、まるで宝物のように見下ろす。


「あれだけ沢山の宣誓書が集まるなんて、本当に予想外だったもの。それだけ反エセリア派が存在していて、私達に味方してくれているって事なんだけど」

 そう力強く呟いたアリステアは、そのままの口調で不穏な事を口にした。


「明後日はいよいよ卒業記念の茶話会。どうせ誰がやってもおかしくない陰険な上級貴族の集まりなんだから、ちょっとやったのを匂わせたって、別に悪くないしおかしくないわよね。どうせ自分の手を汚さずに、手下にさせているんだから」

 勝手にそう決め付けたアリステアは、満足そうに再び本を枕の下に押し込んで仰向けになる。


「これで、私の卒業後は安泰よ。見ず知らずの成金オヤジと、結婚させられる事も無いわ! マール・ハナー様、おやすみなさい!」

 すっかり《クリスタル・ラビリンス》を聖典扱いし、その作者であるマール・ハナーを崇拝している彼女は、全く成功を疑わずに眠りに就いたのだった。



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