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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
第6章 “被害妄想”は、結局、妄想でしかありえません

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(15)再び対策会議

「何とか無事に、こちらが思った通りの流れで校内探索会が終わって良かったわ」

 校内探索会の翌日。エセリアが正直な感想を述べると、集まった面々は揃って苦笑の表情になった。


「人知れず、小さなハプニングはあったようですが」

「キャロルの話では、やはり殿下が有力貴族の子女を取り込もうと、校内探索会時に便宜を図るつもりだったらしいですわ。ですが予め答えを書き込んだ用紙を準備するなど、まともな感性の持ち主なら眉を顰める行為ですもの。その者達を取り込むどころか、却って愛想を尽かされたのではないでしょうか」

 サビーネが突き放すように告げると、カレナも冷静に報告する。


「今年の新入生の中にいる紫蘭会会員の生徒に、当日、さり気なく講堂内の様子を窺って貰ったところ、やはり最後のチェックシート確認時に、一悶着あったみたいですわね。嬉々として殿下の恩恵に預かろうとした者が、答えが間違っていたせいで当てが外れて、大層憤慨していたらしいですわ」

「今回の事は、悪い事はできないという、良い教訓になったのではないかしら?」

「本当にそうですわね」

 そこでエセリアはシレイアに向き直り、心底感心した風情で話を続けた。


「それにしても……。何か貴重な古書を学園に寄贈して頂けないかと、シレイア経由で総主教会にお願いしたけど、まさかあんなに貴重な古書を、本当に寄贈して頂けるとは思わなかったわ。しかも話を出してから十日もかからないで、話が纏まってしまうなんて……。話を聞いた時は、自分の耳を疑ってしまったもの」

 それを聞いたシレイアは、明るく笑いながら応じた。


「総主教会内で文献の記録や保管を担当している父は、貴重な書物が十分に研究されないまま、ただ教会の奥にしまい込まれている現状を、前々から憂いておりましたから。今回のエセリア様の提案は、願ってもない事だったのです」

「本当に、シレイアを介して繋がりを作っておいて良かったわ。それに駄目元でワーレスに頼んだら、あっさりとあんなに貴重なバイオリンを寄付してくれた事にも、本当に驚いたけど」

 しみじみとしたエセリアの台詞に、ミランが苦笑いで応じる。


「実はあれは、某伯爵家から借金の担保として、お預かりしていた物でして……」

「借金の担保? そんな物を寄付して、拙くは無いの!?」

 エセリアが思わず声を荒げ、周りの者達も驚いた表情を見せる中、彼は冷静に話を続けた。


「その家は相当金策に行き詰まっておりましたし、借金を返済する当ては無さそうですから、心配要らないと思いますよ? 正直に言いますと、父は楽器には全く興味はありませんし、半ば強引に押し付けられて困っていたんです。他に容易に転売できるような物は、それまでに他の商人達に担保として取られていたみたいなので」

「商人に借金って……。どうして教会の貸金業務で、融資して貰わないの?」

 ここでシレイアが不思議そうに口を挟んだが、ミランは小さく肩を竦めて説明を加えた。


「その家は浪費するばかりで、まともな返済計画が立てられないんですよ。あれでは良心的な所は貸しません。近い将来、羽振りの良い親戚に借金を肩代わりして貰う事を条件に、爵位を譲渡するのではないですか? それ以後、必要性が高い担保から取り戻しにかかるとしても、バイオリンを引き取る可能性はかなり低いと思われます」

「ワーレスの剛胆さには、今更ながら呆れたわね」

 エセリアが正直な感想を述べると、ミランが笑って応じた。


「この寄付の事が学園内で凄い話題になって、ワーレス商会の宣伝効果が抜群でした。皆、好意的に捉えてくれていますし、父もとても喜んでいます」

「それは良かったわ。かなり無理を言ってしまったかと、心配していたから」

「それはともかく……。今回のこれで、また殿下と彼女に対して反感を持つ生徒が増えましたね」

 サビーネがそう結論付けると、皆一様に顔を見合わせて頷き合った。


「いきなり校内探索会を導入しただけでも、準備に振り回された生徒は勿論、学園長を始めとした教授陣から不満が漏れるのは致し方ないのに、率先して不正を働こうとしたという噂まで流れては……」

「現に、殿下が一部の生徒に便宜を図ろうとしたのは、根も葉もないでたらめではなく、完全な事実ですし」

「どうせあのお気楽コンビ、またエセリア様が自分達の悪い噂を流していると、勘ぐっているんでしょうね。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない」

「シレイア。エセリア様の前だぞ?」

「あら、失礼いたしました」

「構わないわ。私も同感だもの」

 すかさずローダスが、シレイアの乱暴な物言いに対して注意したが、エセリアはそれを笑って宥めた。そこでミランが真顔で、彼女に意見を求めてくる。


「ところでエセリア様。前期は半分以上過ぎましたし、後は長期休暇まで目立った行事もありません。あのお二人は当面、おとなしくしていると思いますか?」

 その問いかけに、エセリアは難しい顔になって答えた。


「残念ながら、思えないわね……。殿下が私を排除して、アリステア嬢をその後釜にと目論んでいる以上、今後は私の悪事の証拠を探しつつ、彼女を上級貴族の面々に売り込む事に、益々躍起になるのではないかしら?」

「それもそうですね……」

「それを見越して、またあなた達に動いて貰う事になるのだけど」

 うんざりした様子でミランが呻き、同様の表情になっている全員を見回しながらエセリアが申し訳無さそうに告げると、他の者は勢い良く顔を上げて力強く請け負った。


「お任せ下さい」

「あの傍迷惑な不心得者を懲らしめる為なら、何だって致しますわ!」

「よろしくお願いします」

 皆の更なる協力を取り付けたものの、当面はグラディクト達の出方を見ると言う事にしてエセリアはその場の話を終わらせたが、その時話題になっていた当の本人は、彼女が知らない所で既に、新たな騒動を引き起こしていた。


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