07 ゲート
瑛さん達の後に続いて駅の奥へと進む。
しばらく進むとワープゲートが見えてきた。
半径3メートルくらいの半円形の枠。
その枠自体は魔道具らしく紋洋みたいなところが怪しく光ったりしていた。
でも実際に僕達がやったのはその輪っかをくぐっただけである。
輪っかをくぐったら違う場所だったのでこれはこれでびっくりしたけれど。
ゲートの向う側は首都だけあって駅よりも空港に近い建物になっていた。
ゲートで瞬間移動ができるのならこの世界に飛行機は必要ないだろう。
だからこの世界に空港などはなく、それに代わるものもやはりゲートのようだ。
だから首都側のゲートステーションは空港代わりの施設だ。
建物自体もウッホ村側よりもかなり大きかった。
「こっちのゲートステーションは国外線もある拠点空港みたいなものだからね。日本の空港のようなものだと思っていい。もちろん国外に出るには身分証も必要だ。その辺は国連発行のIDカードで全て通せる。こっちの世界では国ごとじゃなくて世界レベルでのマイナンバー制度がすでに普及しているからね。そしてそのIDカードも異人会で作ってもらえる」
瑛さんが色々説明してくれるが所々良く分からない。
とりあえず、今の僕は住所不定の無職だ。
異人会では住民登録みたいなこともやってくれるってことなのだろう。
『印世自身が理解できておらぬようじゃから妾にも良くは分からぬが、昔と比べてその辺りの管理もきっちりとしておるようじゃの。しかし世界中の全ての人間に個別の番号を振って管理しておるのか。確かに合理的じゃし便利そうではあるが、なんだか危険な気もするの。それと、その管理が国ごとではなく世界全体でされているというのもすごい話じゃ。』
その番号制度の名称は世界総背番号制とか言うらしい。
そういえばマイナンバーって言葉なら日本でもニュースで聞いたような気がしないでもない。
そんな感じで話をしつつ僕達はゲートステーションを出た。
ニムルスの首都であるコネリアの街は、ウッホ村よりも洗練された感じがする。
むしろ……日本より進んでいるような印象すら受けた。
「すごく綺麗な街並みですね」
僕がつぶやくように言うとアロが元気良く答えを返してきた。
「もちろんにゃ! なんて言っても首都だからにゃ。アロん家もここにあるんだぞ! 後でうちにも案内してやるのにゃ」
アロは元気いっぱいだ。
でも昨日今日会ったばかりの男を家に連れてくのはどうかとも思う。
「印世君は一応男の子って話だったけどアロ忘れてないよね?」
「忘れてたにゃ!」
どうやら僕が男だってこと忘れていたようだ。
今日は男物の学生服も着ているのに。
まあ日本の学生服の男女の違いがこの世界で通用するかは謎だけど。
「そっか……、印世が男だと家に連れてったら襲われちゃうかも知れないのにゃ」
いや襲わないし。
僕が男だからって家に行ってもいきなり襲ったりなんてしないよ?
「ウチの姉ちゃん達は結構肉食系だからにゃ! 印世が男ってバレたら性的な意味で襲われる危険があるにゃ」
逆でした。
どうやら襲われるのは僕の方だったようです。
肉食系の綺麗な猫人のお姉ちゃんになら襲われてみたい気もするけれど。
『それは楽しみじゃの』
ぶはっ!
ち、違います……。
やっぱり僕は襲われません。
僕的にはもうトキナさんに操を捧げているので他の女の人になびいたりするわけがない。
そんなことはないです。はい。
ふう……。思考が常にだだ漏れというのも困ったものだ。
密林の中にいた時にはまったく不便に感じなかったのだけど。
『じゃから襲われてしまえばよいものを』
トキナさんから悪意を感じます。
『本当に妾は操を立ててもらわずともよいのじゃがの。それに伝達回路を強化した今ならお主の感覚を自分の物のように妾も感じることができる。つまり、主が猫人の娘とにゃんにゃんするならそのにゃんにゃんを妾も同じように楽しむことができるということなのじゃ!』
そういえばトキナさんあっちの趣味のある人でした。
でも今は僕がいるのに。
トキナさん的には猫人の女の人とのにゃんにゃんも楽しみたいのでしょうか。
しかもそのためなら僕が猫人の女性に襲われてもまったく構わないと。
むしろ襲われてしまえと。
ひどいです。信じてたのに。
トキナさんは僕の体だけが目的だったんだぁぁーーー!!
『フハハハハ』
うわ、否定すらしないですよこの人。最低です。
性別逆ならドン引きしているとこです。
いやむしろ性別関係なくドン引きですよ本当に。
だというのに僕はまだトキナさんを嫌いにはなれない。
あ、これはきっとあれだ。
よく聞くダメ男にだまされる女性とかそんな感じのあれだ。
……ま、いいか。
現状トキナさんは遺跡の中に引きこもり状態だ。
僕自身が襲われなければどうということはない。
トキナさんが綺麗なお姉さんとにゃんにゃんしたいなら自分で外に出なきゃダメだってことです。
動機としては問題だが、それでもトキナさんが遺跡を出る気になってくれるならそれはそれでアリかも知れない。
もちろんその時は僕もトキナさんについて行くので後は頑張って浮気されないよう努力すればいい。
『果たしてそう上手くいくかの?』
なんか挑戦的なのが少しむかつきますが置いときます。
少なくとも現状ではトキナさんには何もできない。
できれば封印を解く方法が見つかるまでにトキナさんが反省して更生してくれると嬉しいけれど、まあそれも含めて僕がなんとかがんばるしかない。
『なんというか……基本的な貞操観念で文化の違いを感じるの。日本では一夫一妻制が主流というのは主から聞いておったが、多分この世界は今でも多夫多妻制じゃと思うぞ』
初耳だった。
僕はこの世界でも一夫一妻制が当然だと思い込んでいた。
だからわざわざトキナさんに確認することはなかったと思うけど。
そういえばトキナさんが魔王だった頃は眷属が4人いたという話は聞いていた。
そして全員美少女だったと。
『皆仲は良かったぞ。夜も妾を含めて5人で仲良く寝ておったしの』
つまりトキナさん含めて5人の美少女達が夜な夜なにゃんにゃんしていたと。
想像しただけで鼻血出そうです。
『じゃから主も自分に正直になって、猫人娘とにゃんにゃんしてハァハァしてしまえばよいのじゃ』
それとこれとは話が別だ。
『なかなか強情な奴じゃの』
ともかく今は僕さえしっかりしていれば問題はない。
トキナさんの性癖についてはひとまず置いておこうと思う。
そんなことを考えている間に異世界人協会というところに着いてしまった。
街並みとかほとんど見てもいない。
一応、白を基調とした綺麗な街並みだったような印象は残っているけど。
密林に居た頃は頭の中でずっと会話していても問題はなかった。
でも今後は色々と困りそうだ。
トキナさんとの念話に気を取られて瑛さん達の話を聞き逃していることも多い。
「――と、そんな感じで市街地には逆に電柱とかはないんだな。日本でも都市部は電線類の地中化が進んでいるだろう。それと似たようなもんだと考えていい。この世界には元々地下施設も多かったからね。現在ではライフライン関連は地下の共同溝にまとめてしまうのが一般的だ。まあその共同溝にもこの世界ならではの問題があったりするんだが――っと、話し込むうちに異人会に着いちゃったね。この話はまた今度にしよう。《G―Day》も近いからその時にはまた話をすることになるだろう」
異人会に着くまでの間、瑛さんがこの街について色々説明してくれていたみたいだけどもちろん全然聞いていない。
僕がここに来るまでに得た情報と言えばトキナさんの性癖に関する事だけだ。
『いや、坂谷瑛の話はやはり興味深かったぞ。都市部では電気や水は地下を通っておるのじゃな。ガス管というのは電気のような動力源の一種じゃとして電話線というは何なのじゃろうな。光ファイバーとやらはまだこの国にはないそうじゃが』
僕と念話で話をしていても、トキナさんの方はちゃんと外の会話も聞いていたりするのもちょっと癪だ。
トキナさんは日本語が分からないのだから、トキナさんが瑛さんの話を理解しているということは僕の頭にも一旦は話が入っていたはずなのだけど。
『印世はやはり少し怒っておるのかの? さっきのにゃんにゃんについては謝るから電話線と光ファイバーについて教えてはくれぬかの?』
電話線と光ファイバーについてはちゃんと説明しておいた。
しかし一部の国では光ファイバーまで通っているのか。
瑛さんは昨日ネットは無理と言っていた気がする。
あれはこの国では無理という意味だったのだろうか?
それとも有線だけだから携帯端末でのネットは無理なのか。
いや、光ファイバーでパソコン同士は繋げられてもインターネットのシステムは存在しないということなのかも。
良く分からない。
まあそれらについても異人会で聞くことができるだろう。
そういう訳でトキナさんに光ファイバーについて説明しつつ中へと入る。
でもトキナさん、現状だと外の情報を知るためにも僕の協力が必要だと言うのに自重する気配が全くないな。
『引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! それが妾の生き方じゃ』
なんかすごいこと言いだしました。世紀末でしょうか?
さすがは元魔王様だ。
いや、引退したとは言ってないから今でも魔王なのか。
ともかくトキナさんには今後も自重する気がないようだ。