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25 事後処理

 トキナさんの闇魔法《グラビティ・キャノン》によってウホゴリラの森が消滅してどれくらい時間が経っただろうか。


 ウホゴリラの残党は散り散りになって至る所へと逃げて行った。

 トキナさんの魔法が余りに強力だったため、恐れて逃げたというのもあるだろう。

 だが一番の理由は、この魔法によりロードが死亡したのが原因だ。


 もはや、ウホゴリラ達は脅威ではなくなっていた。


 群れのボスたるウホロードを失い、さらには自分達の身を隠す森すらも失った。

 群れの体裁も保てずバラバラな方向へと逃げていった奴らは、近い内に傭兵達に討伐されていなくなるだろう。


 戦いは、終わった。



 僕は、少し茫然ぼうぜんとしていた。

 トキナさんの魔法は本当に凄まじく、かつ闇属性が僕の光属性と真逆の属性だったこともあり、僕の右手にはある程度のダメージがあった。

 グラビティ・キャノンには僕の魔力も使用されたため、それによる疲労も大きい。


 だけど……そんなことより状況が酷過ぎて体に力が入りません。


『……反省はしておる。じゃが後悔はしておらん!』


 トキナさんは怒りのままに極大魔法をぶっ放して少しすっきりしていました。


 ウホゴリラの討伐には成功した。


 結果的には、僕がウホゴリラに負ける要素は初めからなかった。

 いや、僕はAランクでも上位の魔力があったはずだけど、僕本来の力なら1人でウホゴリラ退治は無理だっただろう。

 だがトキナさんのサポートがあれば十分可能だったはずだ。


 Sランク相当の力があれば、ウホゴリラを全滅させることは無理でも、一点突破でロードを倒すことは可能だったはずだ。


 そして現実の結果としても、ウホゴリラには圧勝できたと言えるだろう。

 EXランクの魔法をぶっ放す必要は全然なかったはずですけどね!


 これはもう、僕がサラスタンについて口走っていたとか、トキナさんの名前を口走っていたとか言うレベルの問題じゃないです。

 先のことはもう考えたくもありません。


 ただ今回の件については、僕にも落ち度があった。

 トキナさんと感覚を共有していることを忘れてウンチに自分からぶつかったのは、僕に落ち度があったと思っている。

 当たるにしても、事前に伝達回路を切るなどできれば良かった。


 伝達回路を切ってしまうと僕がAランクの力しか出せなくなるけど、あの状況でなら、うまく行けば僕だけの力でウホロードを倒すことも可能……だったかな?

 ウホロードの奥からは後詰めの部隊が出て来ていた。


 やっぱり、僕の力だけではウホゴリラ達に勝つのは不可能だったかも知れない。


 ウホゴリラ、特にゴリラとは思えないレベルの指揮能力を持つウホロードの力は僕達の予想を超えていた。

 だからあの時の最善の選択は――農場を捨て、アロと共にウッホ村まで逃げることだったと思う。


 ただし、その場合はシパちゃん達の農場は守れなかったことだろう。



 だったら……結果としてはどうなのか。



 今後の問題を考えれば、確かにこれはひどい結果だ。

 だけど、僕はシパちゃん達の農場は守りたかった。

 本来なら、初めから農場を捨ててシパちゃん達と一緒にウッホ村に逃げるのが最善だったはずだ。


 そんな最善なら僕にはいらなかった。


 結局……正しい選択をして農場を守れないのと、今のこのひどい結果のどちらが良かったのかと問われれば、僕はこっちの方が良かったと答えてしまうだろう。


 僕も色々な面で反省はしている。

 でも……トキナさんと同じで僕も後悔はしていなかった。


 やっちゃった感はありまくりだけど、シパちゃん達の農場は守れた。

 今はそれでいい。

 シパちゃん達の農場を守る選択をしたことを、僕が後悔することはない。

 そう僕が思いを決めたころ、少し離れていたアロがやってきた。


「印世、さっきのは本当にすごかったのにゃ、印世は本当に……ホントに、印世はすっごいくさいのにゃー!」


 僕はアロをかばってウンチの直撃を受けたのに守ったアロにくさいと言われてしまった。

 ちょっと悲しいです。


『妾も色々と反省しておる。少し反省して色々考えようと思う。なので……しばらくの間伝達回路を切る。風呂にでも入って匂いが取れたら主から念話で教えてくれ』


 トキナさんも逃げた。ひどい。


 いや、トキナさんには僕の行動のせいでくさい思いをさせてしまったのだから、これについて僕がどうこう言える立場ではない。

 トキナさんは伝達回路を切る前に、水魔法と風魔法を組み合わせて僕についていたウンチも洗い飛ばしてくれた。


 これで僕についていたウンチはほとんど落ちた。

 ありがたいことです。

 ただこびりついた匂いは残っているのでお風呂に入る必要はあるけれど。



 いつまでも放心しているわけにも行かないので、僕はアロと共にシパちゃん達の家へと戻る。

 アロと一緒に戻りはしたけど、アロが僕から少し離れて歩いていたことは言っておくべきだろう。


「アロのことかばってくれたのは本当に感謝してるにゃ。でもくさいのはくさいのにゃ。アロがそんなになってたらと思うと鼻がおかしくなりそうにゃ。印世ホントありがとうなのにゃ」


 お礼は言われたけどなぜか全然嬉しくなかった。


 シパちゃん達の家に戻ると瑛さんが地下のシェルターから出てきていた。


「ウホゴリラ達はもう脅威ではなくなったな。ウッホ村側にいたゴリラ達も散り散りになって逃げた。今傭兵達もこちらへと向かってきている。シパちゃん達も一緒だ。なんか色々とあった気はするけど、ひとまず戦いは終わりだ。二人ともよく頑張ってくれた」


 瑛さんに誉めてもらえた。

 これは素直に嬉しい。

 その瑛さんは、姿を見てすぐに飛びついていたアロを抱きしめていた。


 いつもの瑛さんなら僕のこともぎゅっと抱きしめてくれたと思う。

 けどそれはしてもらえなかった。

 僕はまだウンコの匂いがついているのでこれは仕方のないことだ。


 しばらくして、傭兵達やシパちゃん達も農場へと到着した。

 その間僕は外にある蛇口から水を出して服や体を洗っていた。


 傭兵達の相手は瑛さんがしてくれている。

 グラビティ・キャノンの威力はウッホ村からでも十分に見えただろう。

 何しろウッホ村を10回は吹っ飛ばせるだろう極大魔法だ。

 普通なら僕は色々聞かれるだろうし、大変なことになるはずだ。


 でも今はその対応を瑛さんがしてくれている。

 僕の話は瑛さんが聞いて、それを伝える形にするみたいだ。

 瑛さんの心遣いは本当に嬉しい。



「印世さんもアロさんも、無事ですか? 大きな怪我とかしてないですか?」


 シパちゃんが涙目でやって来た。

 シパちゃんはやっぱり優しくてかわいい。

 やっぱり……農場を守れて良かったと僕は思ってしまう。


 そのシパちゃんの言葉に、アロは深刻そうな顔で答えていた。


「シパポン。アロは、アロは無事だったのにゃ。印世が守ってくれたから……。でも、そのせいで、そのせいで印世は……印世はとってもくさい人になってしまったのにゃぁ! すっごいウンコくさいのにゃー!」


 さすがにイラっと来たのでアロの頭に軽くチョップだけは入れておきました。

 そして、アロの言葉を聞いて僕の方を見たシパちゃんは、泣きながら僕に抱きついてきた。


「印世さん。本当に……本当にありがとうございます。私達のために……こんなになってまでがんばってくれて。私……本当になんてお礼を言っていいのか……」


 本当に……農場を守って良かった。

 心の底からそう思う。もう後悔なんて微塵もない。

 伝達回路を切っているせいでこの喜びをトキナさんと分かち合えないのが残念だ。


「シパポン離れるにゃ! 確かに印世は恩人だけど、でも汚いにゃ。ウンコがうつるのにゃー!」


 アロには後2、3発くらいチョップを入れる権利が僕にはあると思う。

 でもアロがそう言ってもシパちゃんに離れる気配は微塵もなかった。


「汚くなんてないです! 印世さんは、印世さんはこの農場を守るためにこんなになってまで頑張ってくれたんです! だからその印世さんが汚いことなんてないんです!」


 そういいつつシパちゃんはさらに僕に抱きついてきた。

 気持ちは嬉しい。

 でも衛生的に汚いのは事実だ。

 やっぱりお風呂に入る必要がある。

 僕に抱きついたせいでシパちゃんまで汚くなってしまった。


「シパちゃんありがとう。シパちゃんにこう言ってもらえるだけでも、僕は農場を守って良かったって思えるよ。でもくさいのは事実だから、お風呂貸してもらっていいかな?」


 とにかく、何をするにもこのウンチの匂いを落とすのが先決だ。


「はい、じゃあ私も一緒に入ります! 印世さんの体は私が綺麗にします!」


 シパちゃんが真っすぐな瞳で僕を見つめている。

 強い意思のこもった目だ。

 シパちゃんも僕に抱きついてしまったせいでどの道お風呂には入らなければならない。

 ここはお言葉に甘えてシパちゃんにきれいきれいしてもらいたいと思います。


 もちろんシパちゃんと一緒にお風呂に入れるのは嬉しいしね!


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