表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/42

24 動き出す世界

「ニムルス国北部で高魔力反応を検知!」


「大規模魔法災害が発生した可能性があります」


 グラリエン国 国連国際防災戦略 中央センター

 現在このセンター内は、ある“災害”への対応に追われていた。


「魔力解析急げ!」


 センターを統括する男性が声を張り上げる。


「ったく、一体どこの馬鹿が暴走しやがった? とにかくまずはIDとの照合急げ! これが誰かの魔法による物なら、そのはっちゃけやがった馬鹿を特定するんだ!」


「該当者ありません!」


「魔力値はSランク以上。ですが闇属性で現在これだけ大規模な魔法を放てる人間は存在しません!」


 オペレーターの返答に防災センターの長は頭を抱える。


「となると……未開領域の神獣の類か? いや、場所は大陸中央付近のはずだよな?」


「はい! 現場近くの未開領域は中央大密林のみです。中央大密林内にこの規模の魔法災害を起こせる魔物及び神獣の存在は確認されていません」


「他の場所からこんな大陸の中央付近まで神獣が入ってきていることだけは考えたくないな。くそっ……! そうだ、一応付近にいる高ランクの者をリストアップしろ!」


「はいっ!」


 センター長は頭を抱えつつも的確に指示を出していた。

 オペレーター達もその指示に的確に答えている。


「あ、ニムルス北部に1人潜在魔力値Aランクの傭兵がいます。名前は汽坂印世、傭兵ランクはBランク、メインの属性は光属性です」


「属性が真逆か……。複数属性を扱えるとしても真逆はないな。じゃあ次は属性の方で調べろ。闇属性、及び近隣属性の火と地辺りの能力者をリストアップしておけ! 低ランク能力者が覚醒した可能性もあるし、なんらかの方法で潜在能力を偽っていた可能性もある!」


「了解しました!」


 センター長は防災センターの奥にある大型モニターに目をやりつつ指示を続ける。

 モニターには、現在の被害状況などの情報が次々と表示されていた。


「後は現場検証だ! 近くに傭兵ギルド所属の者はいるか?」


「はいっ! まずは先ほどのBランク傭兵の汽坂印世、そして彼と行動を共にしているCランク傭兵のアロ・エピオ、それと傭兵ではありませんが特殊Fランクの坂谷瑛がいます!」


「坂谷瑛……サーチマスターがいるのか! なら調査はサーチマスターに依頼しろ。あの人の情報収集能力は世界屈指だ。これ以上の適任者はいないだろう」


「了解しました。国連環境計画に連絡してすぐ調査してもらえるよう依頼を出します!」


 一通りの指示を出し終え、男は疲れた顔で椅子へと腰を下ろした。


「とりあえずは調査が先決だが、しかし……面倒なことになりそうな予感がするなぁ」


 奥のモニターを眺めつつ、男はため息を漏らさずには居られなかった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 某所 未開領域内にある湖の中央に浮かぶ島 異世界人協会本部


「なんだが、不穏な魔力を感じた気がしましたが……」


 異世界人協会の協会長、アリシエン・レムナトはいぶかしんでいた。

 視線はニムルス国の方を向いている。


「ニムルスの方で大規模魔法災害が発生したようです。まだ正式発表はされていませんが、Sランク要員の所在地確認要請が国際防災戦略の方から届いています」


「Sランク要員……ね。うちの伶唖れいあちゃんは絡んでないわよね?」


 協会長アリシエンは紅茶を飲みつつ尋ねる。

 そのしぐさには気品が漂い、この妙齢の猫人女性が格式高い人物であることを感じさせていた。


「はい、等々力伶唖(とどろきれいあ)なら最近は新型兵器の試射でほとんど実験場にいるようです」


 猫人女性の傍に控える黒髪の男性が答える。

 この秘書らしき男性も、しぐさの一つ一つに洗練されたものを感じさせていた。


「そうですわよね。もうG―Dayまで1カ月を切っているのですから」


「はい、等々力は去年のG―Dayで1位になれなかったのをくやしがっていましたから。この時期に他の物事に気を取られるようなことはないはずです」


 猫人の協会長は秘書の言葉に満足そうにうなずく。


「では……ニムルスの件については、異人会としてはしばらく様子見とします。あの魔力には気になるところもありますが、こちらが動いて調べるとしてもG―Day終了後からでも遅くはないでしょう」


「はい。ニムルスの件については、恐らく神器機関は動くと思われます。彼らの動向を探っておけば得られる情報もあるでしょう」


「そうですわね。では……当面は神器機関の動きを見る方向でいきましょうか」


 当面の方針を決め、協会長アリシエンはティータイムの続きを始めるのであった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 某所 険しい山脈の奥地に、黒いピラミッド状の建物がそびえている。

 神器機関本部である。

 この建物は外観から別名、ブラックピラミッドと呼ばれていた。

 その上部にある事務局長室で、黒髪の男性と金髪の少女が話をしている。


「ニムルス国にある感知魔道具が面白い魔力を拾ったようだ」


 神器機関の事務局長、等々力暗静(とどろきあんせい)はパソコンの画面を見つつ楽しげにつぶやく。


「と言うと、局長の娘さんがまた何かやらかしましたか?」


 事務局長の前に立つ金髪の少女、ミーリャ・ラザスは表情を変えずにつぶやく。


「失敬だな君は。来月はもうG―Dayだ。だから伶唖れいあは異人会に回した新兵器の試射で忙しいはずだ」


「また新しいおもちゃを娘さんに送ったのですか。相変わらずの親バカっぷりですね」


「くっ。本当に……君はもう少し目上の者に対する口の聞き方を覚えたまえ。ともかく、今回の件に私の娘は関係ない。そもそもニムルスで観測されたのは闇属性の強大な魔力だ。魔力の感じから見て恐らく重力魔法だろう。それも現在扱える者がいないほどの強力な重力魔法だ」


「扱える者がいない魔法が観測されるのはおかしいと思います」


 少女は言葉づかいこそ丁寧であったが、顔は無表情であり、態度から緊張感などはまるで感じられなかった。

 もっともこの少女は常にこうであるため、彼女が何を考えているかは上司である等々力暗静にも分からない。


「扱える者がいない魔力の反応が出るということは、何らかの魔道兵器によってこの事象が引き起こされた可能性があるということだ。君にはこの件についての調査を頼みたい」


 暗静は淡々と任務を伝える。

 目の前の少女は考えていることは不明だが、命令には大旨従うことを暗静は知っている。


「私は調査とかあまり得意じゃないですが」


 それも等々力暗静の知るところである。

 目の前の少女、ミーリャ・ラザスは神器機関で最も戦闘能力の高い人物である。

 その代わり、学者揃いの神器機関の中において、学力面では多少劣る所があった。

 もっともそれは神器機関内での話であって、この世界全体でみれば彼女の学力も十分高い。


「調査と言っても、君にやってもらうのは現地での学術的な調査ではない。魔力探査の結果、現場のすぐ近くに3人の人間がいたことが分かっている。もっとも1人はあの坂谷瑛なので魔力を感知できたのはしばらく経ってからだが。ともかく、その中の1人、汽坂印世という少年に接触して色々と探りを入れてほしい」


「なるほど。了解しました」


 概要を聞くと少女は二つ返事で依頼を引き受けた。


「意外とあっさり引き受けたな。お前にも何か思うところがあるのか?」


「いえ、ただ最近瑛さんに会う機会がなかったので久々に顔を見たいと思っただけです」


「そうか……坂谷瑛は確かお前の命の恩人だったな。汽坂印世は最近この世界に飛ばされて来た人間だそうだが、しばらく坂谷瑛と行動を共にしていたようだ。恐らく今も行動を共にしているだろう。調査は特に急いでいるわけでもない。調査に差し支えない範囲であればお前の思うようにやって構わない」


 暗静はだいぶいい加減な指示を少女へと伝える。

 この少女は細かい指示まできちんとこなすタイプではないということを暗静は経験から知っていた。


「了解しました。では準備が整い次第その少年との接触を試みます」


 そう言うと、少女は軽く頭を下げ部屋を後にした。


「しかし、重力魔法……か。魔王大戦時の大魔王マグニータが好んで使ったという魔法が確か重力魔法だったな。まあ彼女は大戦で死んだと聞くし、それ以来同レベルの重力魔法の使い手は生れていないはずだが。何にせよ……面白くなりそうだ。これは伶唖にも教えてやらんとな」


 パソコンの画面を見つつ等々力暗静はつぶやいた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 グラリエン国 国際連合本部ビル 事務総長室


 黒い髪に黒い猫耳、黒い尻尾を持った猫人の女性がいる。

 名前はカルイラ・イブリンガー。

 その姿から“黒猫”の異名を持つ猫人だ。

 そして現在2人しかいないと言われるEXランクの内の1人でもある。


「どうやら、魔王テタ・トキナ・マグニータの石化が解けたようです」


 黒猫は淡々とした調子で状況を報告する。

 相手は去年国連事務総長に就任したばかりの30代の白人男性である。


「そのようだな。フレデリカ・ガイリールの動きはどうだ?」


 事務総長は落ち着いた口調で答えた。

 公式には彼と黒猫は1年前まで面識はなかったはずなのであるが、2人の様子は、まるで長年付きそったパートナーのようであった。


「フレデリカの動きは常に監視しています。彼女が動いた形跡はありません。ですので、他の要因でマグニータの石化が解かれたと考えられます。考えにくいことではありますが……」


「ふむ……。あの石化や封印も、ずいぶんと昔の物であるしな。長く放置しすぎてしまったかも知れぬ。ニムルスで事が起こったということはすでに封印も解かれた可能性が高いが、ともかく一度見に行く必要がありそうだな。ヘリは出せるか?」


「出せますが……まさか今から行く気ではありませんよね?」


「何か問題でも?」


「もちろんです。ご自分の今の立場をお考え下さい。貴方は今世界のトップに立っているのですから。昔のように好きに動ける立場ではないのですよ」


 黒猫が男をたしなめる。

 男の方はやれやれと言った表情をしていた。


「事務総長と言うのも難儀な物だな。これならまだ勇者と呼ばれていた頃の方がずいぶんと気楽なものだったよ」


 男がそう言うと、黒猫の方もやれやれと言った表情に変わる。


「それも全ては貴方ご自身がお決めになられたことです。もちろん、魔王マグニータに止めを刺さなかったことも含めて……です」


「もちろんだ。それらについて、私は後悔してはいない。ただ、このタイミングで私が事務総長の地位に就いていてしまっているのは運が悪いとは思うがね。どうせ目覚めるなら一昨年にでも目覚めてくれればすぐに動けたものなのだが」


「それは致し方のないことです。来月にはG―Dayもあります。年に一度の大イベントですから、国連の長である貴方がこれをおろそかにするわけにもいかないでしょう。G―Dayが終われば数日間自由にできる時間があります。中央大密林へはその時に向かわれればよろしいかと」


「そうだな。どうせ封印が解けているのなら既に密林内に彼女はいないだろうし、そうでなければ、あの封印は現在フムート家の者にしか解けないはずだ。100年近く放置しておいて今更あせるというのも我ながらおかしな話でもあるしな。分かった。出るのはG―Dayが終わってからにしよう。私も、現在の職責をおろそかにするつもりはないからな」


「それがよろしいと思います。公式には、魔王テタ・トキナ・マグニータも、そして、勇者天笠正二も死んだということになっています。どちらも、無闇に真実を明らかにすべきではないでしょう。魔王マグニータへの対処は、慎重かつ穏便に進める必要があります」


「分かっている。そのためにこうして私は顔まで変えているのだからな。それと、神器機関などは調べにかかると思うが、その対処は任せて大丈夫だな」


「はい、ある程度は好きにさせるべきとも思いますが、こちらから圧力はかけておきたいと思います」


「うむ。……いつもすまないな。お前には、昔から苦労をかけてばかりだ」


「いえ、私の人生は、全て貴方にお仕えするためだけに有る物だと思っておりますから」


 事務総長室は防音もしっかりしており、盗聴を防止する機能も充実していた。

 それは科学的な物に限らず、魔法的な面においても世界最高の技術が使われている。

 それを十二分に理解した上で、この2人は会話を行っていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ローレーン国 某所 石の墓場


 人里離れた荒野に立つ城の中で、1人の女性が歓喜に打ち震えていた。


「ついに……ついにこの日がやってきましたのね。トキナお姉様」


 女性の名はフレデリカ・ガイリール。

 ゴーレムマスターの異名を持つEXランクの魔王である。


「お姉様と離れ離れになってしまったこの数十年。私の中では、時間が止まってしまったかのようでした。周りだけが、私とお姉様を置いて勝手に進んで行く理不尽な世界。でも、そんな世界ももうおしまい」


 女性の顔は歓喜に満ちていた。

 見た目は、15歳ほどの少女のようである。

 だが、魔族であるこの女性の年齢を外見で判断するのは無意味であった。


 いや、そもそも何年生きたかなど、この女性にとってはもはやどうでもよいことであろう。

 今この女性の心にあるものは、ただ1つの、一途な思いのみであった。


「本当は……今すぐお姉様を迎えに行ってさしあげたい。でも今はまだ駄目。あの忌々(いまいま)しい黒猫の目がある内は……」


 フレデリカ・ガイリールは今にも飛び出したい気持ちを抑えて時を待つ。


「決行は……G―Day当日」


「G―Dayは国連主催で行われる。そして、昨年度の優勝者でもある黒猫がG―Dayに参加しないことはありえない」


「奴さえいなければ、今この世界で私を止められる者は存在しない」


「うふふふふ……」


「トキナお姉様、もう少しだけ待っていて下さいね」


 フレデリカは、綿密に計画を練りつつその時を待つ。


「あと少しで、お姉様と会える。ああ……トキナお姉様。あの忌まわしき封印を解いた暁には、私の全てを、お姉様へと捧げる準備はすでにできておりますわ……」


 少女の姿をした魔王は、歓喜の表情を浮かべて、来るべき時を待っていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 魔王テタ・トキナ・マグニータの主力魔法《グラビティ・キャノン》。

 その威力は、一撃で町数個分はあろうウホゴリラの森を消滅させるほどのものであったが、そこから発せられる魔力もまた膨大であった。


 もちろん、それを世界中全ての人間が察知したわけではない。


 だが、魔力感知に長けたもの、そして世界の実力者達はそのほとんどがこの膨大な魔力を感じとっていた。



 そして世界は動き始める。

 一見すると平和なようにも見えるこの世界に、大きな嵐が巻き起ころうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ