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02 ジャングル生活

 気を失っていた僕はしばらくして目を覚ます。

 すると僕は石像だった少女に――膝枕をしてもらっていた。

 もちろん女の子に膝枕してもらうのも僕は生れて初めてです。ハァハァします!


 すると僕に膝枕をしてくれている少女が話しかけてきた。謎言語で。

 僕の顔から言葉が通じていないことが分かったようで、しばらくするとまた頭の中に直接声が響いてきた。


『ふむ、言葉は通じぬ。か……念話ねんわの方は有効そうで良かったがの』


 彼女は僕を見下ろしつつ頭に直接語りかけてきた。


『ともかく、さっきは済まなかったの。少し魔力を吸いすぎた。おかげでわらわはある程度動けるくらいの力は戻ったのじゃが、お主を小一時間ほど気絶させてしまったようじゃ』


 いえいえ、僕ならあの経験をもう一度させて欲しいくらいです。


『そう言ってもらえると助かる。言葉に甘えて、また後で魔力を吸わせてもらうこととしようかの』


 またあの経験をさせてもらえるようである。最高だぜ!!

 ではなく、僕は今彼女の問いに返事をしていない。

 さっき念話は有効……とか言っていたけど、もしかして僕の頭の中の言葉が全部伝わっているんじゃないだろうな。


『悪いがおぬしの思っておる通りぬしの思考は全て妾にだだ漏れじゃ』


 だだ漏れだそうです。恥ずかしい。

 つまり僕が彼女を見て色々妄想するのも全て伝わってしまうという。

 なんという羞恥プレイ。

 恥ずかしすぎて僕はもう何かに目覚めてしまいそうです。ハァハァします!


『妾も悪いとは思ったのじゃが言葉も通じぬでは困るじゃろう。これについては慣れてもらうしかない。ちなみに念話を通すための伝達回路については最初の口づけの際に繋がせてもらった。これについても事後で悪いが謝らせてもらおう』


 どうやら最初のキスの時に魔法的な方法で意識を繋げられたみたいだ。


『では、まずは主の名前を教えてもらってよいかの。妾のせいではあるのじゃが自己紹介をする前に主を気絶させてしまったからの』


「はい、僕の名前は汽坂院世きさかいんせ16歳、日本の高校1年生です。学校の帰りにいきなり光に包まれて気が付いたらここにいました。多分……この世界から見たら異世界人か何かになるんじゃないかと思います」


 普通に言葉に出して自己紹介をしてしまった。

 まあ頭の中で話しかけるというのも経験がないのでこれでいいかな。

 頭の中で考えてはいるのだからトキナさんにもちゃんと伝わるだろうし。


『ふむ、異世界……日本か。言葉が通じぬ時点でもしやとは思ったが。少し嫌なことを思い出してしまうの。と、それより妾も自己紹介せねばな』


『妾の名はテタ・トキナ・マグニータ。封印される前は226歳じゃった。元々は普通の人間じゃったがその頃から魔女とか呼ばれておったし、封印される前には色々と人間やめておって魔王と呼ばれるまでになっておったの』


 まさかの魔王様です。

 でも吸血鬼とかじゃないだけ良かったかも知れない。

 もしトキナさんが吸血鬼だったら最初のキスの時点で血を吸われて、今頃僕は眷属とかになっているところだ。

 それはそれでそそられるものがあるけれど。


『ん? 吸血鬼とやらは知らぬが眷属というなら……既になっていると言えなくもないの。先程も言ったが最初の口づけの際に色々と魔術的に繋がせてもらったからの。』


 そういえばトキナさんとの間には伝達回路とやらが繋がっているのだった。

 そのおかげでこうやって会話が出来ているのだけど、それ以外にも色々と何か繋がっているのかも知れない。


『しかし……また異世界から人間が召喚されておるとはの』


 また……ということは僕の前にもこの世界に召喚された人がいたのだろうか?


『そうじゃ。というよりも、確か妾を倒すために召喚装置とかいうのが開発されたはずなのじゃがの。自慢ではないが当時の妾はこの世界で最強クラスの存在じゃった。部下も大勢おったし、ついに世界を統一する道が見えてきた。という時にじゃ。異世界から来た勇者とやらに恐ろしいほどに負けて今に至るというわけなのじゃよ』


 なんだか色々あったようだ。

 でもそれだとトキナさんが封印された時点で召喚は必要なくなりそうなものだけど。


『それが不思議なところじゃ。まあ妾の後に新たに魔王と呼ばれる存在が出たとしても不思議ではないし、他の理由で再び召喚が行われたという可能性もある。が、何にしても情報がなさすぎじゃの。外の世界に出ればそれについては知ることができるじゃろうて』


 確かに情報が少なすぎる。

 こんな遺跡の中で考えていても何も分かることはないだろう。


『では、まずはこの建物から出るとしようかの。お主の話だとここはジャングルの中だそうじゃが、しばらく歩けば村くらいはあるじゃろうて』


 その提案には僕も賛成だ。

 遺跡の中には食べ物もないしね。

 こんなジャングルの中にいては情報がどうこう言う前に遭難で死んでしまう。

 ドラゴンもいるし……、あ、ドラゴンのことを忘れていました。


「トキナさん、外に出るのはいいと思うんだけど、外ってなんか普通にドラゴンとかいたんですけど」


 心配する僕をトキナさんは自信満々な顔で見返してきた。


『主は妾の話をちゃんと理解しておったのかの? 確かに妾は復活したばかりで魔力もほとんどないが、それでも元最強クラスじゃ。野生動物ごときに遅れはとらんよ』


 魔王様とっても頼もしいです。


 そしてトキナさんと仲良く並んで遺跡の入り口まで戻ると、さっきのドラゴンがいた。

 改めてみると少しティラノサウルスっぽいかも。

 野生動物というトキナさんの評価も間違いではないのか。


 そのトキナさんは自然体のままドラゴンを眺めている。

 そして、トキナさんの右腕に強大な魔力が収束していくのを僕は感じていた。


『とりあえず焼いておくか。《フレイムバースト》』


 トキナさんが呪文のような物を唱えると目の前に巨大な業火が出現した。

 まるで炎の竜巻だ。

 その業火に巻き込まれたドラゴンは、少しの間もがき苦しんでからくずれ落ちた。

 全身こんがりと焼かれている。

 まるで竜巻のような業火に焼かれて原型を留めているこのドラゴンもたいがいだ。

 人間なら完全に炭化して灰になっているところだろう。


『さて、ではこの密林がどれだけ広いか分からぬが適当にさばいて進むとするか』


 そう言ってトキナさんは遺跡の外へと足を踏み出……そうとした。できなかった。

 ガンってなりました。

 ガラスというかバリアというか、そういう見えない何かにぶつかったようだ。


『結界……?いや、封印……か』


 トキナさんは遺跡の入り口で考え込んでしまった。

 ちなみに僕は普通に出られる。


『どうやら……妾は少し考えが甘かったようじゃの』



 僕達は一度広間に戻った。

 とりあえずこんがり焼けていたドラゴンの肉をさばいて食べる。

 肉質は筋張すじばっていたけど意外とおいしかったですドラゴン。


『しかし本当に困ったの……』


 トキナさんは遺跡の外に出ることができなかった。

 石化した状態から回復したので、僕もトキナさんも封印は解けていると思っていた。

 だがその考えは甘かったようであり、トキナさんは未だ封印されたままなのだ。

 出入口からだけでなく、天井に空いた穴から外に出ることもできなかった。


『妾の力が回復すれば封印も破れるとは思うのじゃが、まだ時間が必要なようじゃの』


 これが、しばらくトキナさんと話をして出た結論である。

 もちろん僕もトキナさんに付き合う。

 トキナさんを置いて自分だけ出て行く選択肢なんてあるわけない。

 むしろこのままトキナさんと一緒にここで暮らしてもいいくらいだ。


『そういってくれるのは悪い気はせんが、実際に暮らすとなると困ることだらけじゃと思うがの』


 確かに困ることは多そうだ。

 例えばお風呂とかね!


『その通りじゃの。まあ石材はここにいくらでもあるから風呂はどうとでもなる。トイレは……まあなんとかなる。寝床については石材から作る選択肢はないの。これはお主に頼むとするか。外に行って枯れ葉とかでもいいから何か暖かそうな物を拾ってきてくれ。後はそれっぽく妾が魔法で加工するからの』


 なんというか、トキナさんはとにかくすごい。

 少なくともトイレと風呂場は石材を魔法で加工して作ってしまうつもりらしい。

 僕は言われた通りに外へ出て、布団の代わりになりそうな物でも探すことにする。


 ちなみにトキナさんが言うには、僕はこの世界に来た時点で魔力には目覚めていたそうで、あきらかに弱そうな敵なら素手でも倒せるそうだ。

 あと武器として、石材をどう加工したのか分からないけど剣状にしたものもトキナさんに作ってもらえた。


 そうして僕は遺跡の周りを1時間ほど探索した。

 最初にドラゴンに出会ってびびっていたけど他に強い魔物はいないようだ。

 弱そうなウサギっぽい動物がいたので狩っておいた。


 正直言うと、斬るまで意識がどうかしていたのか罪悪感とかはまったくなかった。

 多分現実感がどこかに飛んでいたのだと思う。

 剣で真っ二つにして血が飛びだした時に急に現実感が湧きました。


 ちょっとへこみました。


 ドラゴンが丸焼きにされているのは見ても平気だったんですけどね。

 やっぱり今度は見た目ウサギさんな感じの動物だったのと、剣で切ったせいで血がいっぱい出たのが駄目だったようだ。


 しばらくウサギっぽい動物さんの死骸の前で黙祷していました。


 でも正直に言うと正気に戻ったのが殺してしまった後で良かった。

 しばらくサバイバルするのなら動物を殺すのは避けては通れないと思うので。

 この世界がどんな世界かまだ分からないけど、中世に近い世界とかならやっぱり早めにこういう経験をできたのはかえって良かったのだと自分に言い聞かせる。


 で、この世界はやっぱりドラゴンとかの出るファンタジーな世界なのだろうなと思いつつ密林の中を探索していたら、とうとう見てはいけない物を目撃してしまった。


 人間の死体。というか人骨である。

 死んでから相当時間が経っているものと思われる。

 そのままにしておくわけにもいかないので埋葬しておきます。


 で、この骨の人ですが……この人も日本人だったみたいです。

 僕にそれが分かった理由は、彼の荷物を拝借したからだ。

 気は引けたけど、こっちもいまだ密林の奥でサバイバルをしている身。

 頂けるものは頂いていきます。

 代わりに埋葬はできるだけ丁寧にしておきました。


 そして彼の荷物ですが、僕にとっては運のいいことにサバイバルグッズの詰まったリュックサックがあった。中にはテントも入っている。

 ひとまずの寝床としては充分だろう。

 僕は彼の荷物とウサギっぽい動物を持って一度遺跡に戻ることにした。



 遭難者の荷物に入っていた服や食器はトキナさんが魔法で綺麗にしてくれた。

 とりあえず食器を確保できたのは良かった。


 そして、風呂とトイレはすでに完成していた。

 お風呂の水は川の水でも魔法で浄化して使えるし温めるのも魔法でできるとのこと。

 うん、本当になんでもできるといった感じだ。魔法すごい。

 僕も習ってぜひとも使えるようになりたいところだ。


『主も魔力は良い物を持っておるからの。今日は色々あって疲れておるが、明日以降であれば妾が直接教えてやろう。まあ妾が特別な面もあるから必ずしも妾と同じように魔法が使えるというわけにはいかぬがの』


 魔法も教えて貰えることが決まり、僕のやる気もがぜん上がってきます。

 でもそれらもまずは明日から、今日は色々あって僕も疲れた。


 トキナさんがお風呂も作ってくれたので今日はお風呂に入ってゆっくり眠りたい。

 と、ふとトキナさんの作ったお風呂、というか湯船? を見てあることに気付く。

 湯船がここから丸見えなのですが。

 トイレは奥にあって見えないようになっているけどお風呂が丸見えですよトキナさん!


『湯船を置くようなスペースが他になかったからの』


 僕がお風呂に入る時はいいとしてトキナさんがお風呂入る時はどうするのでしょう。

 いや、常識的に考えてその時は僕が遺跡の外とかに出ないとダメか。

 でも僕は思春期真っ盛りなので色々いけないことを考えてしまいます。


『というか、お主の中では風呂は別々に入るのが確定しておるのか? 湯を沸かすのも妾がやるのじゃから二度手間になるのは面倒なのじゃが』


 なんですとぉーー!!


 そう、その通りだ。

 僕はいつから勘違いしていた。

 お風呂には別々に入るのだと。


 2人で一緒に入るという選択肢もあったじゃないかぁぁーー!!


『そこまで興奮されるとさすがに妾も恥ずかしくなってくるの』


 恥ずかしがっているトキナさんも最高にかわいですっ!

 でも、ここで僕は考えなきゃいいことを考えてしまう。


 黒髪ぱっつんな可愛いトキナさんと一緒にお風呂とか入ったら確実に僕の思春期が暴走してそれはもういけないことをしてしまう確率が100%超えてしまうのですが。

 とても我慢できる自信はないのでこれは正直に話さないといけないです。

 それでそんなケダモノとは一緒にお風呂に入れませんと言われたらそれまでだ。

 黙ってお風呂に入って我慢できなくなった時にトキナさんに拒否されたらそれこそ僕は立ち直れる自信がありません。


 そもそもこれから一緒に暮らすというのに、初日にそんなことになったら気まずくて明日以降まともに生活できなくなるのは確実です。

 それ以前に、正直言うと僕はトキナさんを一目見た時から好きになってしまっていたので、そんな彼女に無理やりいけないことをするとかありえません。


 もちろんお風呂には全身全霊全力で一緒に入りたいけれど!


『その……なんじゃ。全力で暴走しておるところ悪いのじゃが妾もバカではないからの。お主が考えておるようなことは、一応……分かった上で言っておるのじゃがの』


 思考が全部トキナさんにだだモレなのをすっかり忘れて暴走していました。

 でも、全部分かった上でって……。

 つまり、その、それはつまり最後まで含めて全部いいってことなのでしょうか?


『そもそも魔力を分けてもらうためとはいってもじゃ。妾とて、気もない相手に自分から口づけを迫るような人間ではないのじゃがの。……つまりはそういうことじゃ』



 ――全ての懸念は払拭された。



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