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皇帝と教皇

政務に勤しむフリードリヒ2世の前にベルリン教皇ルートヴィヒ4世が現れた。

「これはこれは教皇聖下」

玉座から降りて皇帝自ら教皇を迎える。


「御多忙の所、申し訳御座いませぬな」

金と宝石できらびやかに飾られた教皇冠きょうこうかんに、黄金で豪華に装飾された白い服を着た銀髪の老人は、皇帝に跪く事なくそのままの状態で話す。


「いえいえ、滅相も無い。聖下であれば戦場に居ようとも歓迎致します」


神聖ヴァルキュリア帝国には、「神聖ヴァルキュリア皇帝」と「ベルリン教皇」の二人の指導者が存在する。皇帝は権力を、教皇は権威を握っているとも言われている。

ベルリン教皇はヴァルキュリアにて信仰されている「ノルド教」の最高聖職者で、皇帝と同等の地位だった。ゲルマニア・ベルリンの地に教皇庁を有してさらに数多くの教皇領を持ち、また多くの司教領をも事実上管轄下に置いている事から莫大な経済力と武力を手にしていた。

さらに教皇は、帝国で唯一皇帝の戴冠式を行う権限を持っている。戴冠式ができなければいくら選帝侯が次期皇帝を選んでも、それは正式な皇帝とは認められない。つまり、教皇なくして皇帝の地位は存在しえないという形が出来ているため、如何に皇帝と言えども教皇を蔑ろにはできない。


「それで、今日はどのような御用件でしょうか?」


「アフリカにて敵軍に大勝利を収められたと聞いたものでして、そのお祝いにと思いましてな」


「それはまた、ベルリンからわざわざ光栄に御座います」


「今回もまたヴァレンシュタイン公爵の功績とか。皇帝陛下は優れた臣下を持てて幸せ者ですな」


「あの者はいずれ世界一の名将となる事でしょう。そして私はやがてこの世を統べる皇帝となるでしょうなぁ。はははッ」

フリードリヒ2世は教皇を前に高らかに笑う。

一方、ルートヴィヒ4世は一瞬眉を細める。実は二人の関係は決して良好なものではない。フリードリヒ2世は宮廷から徐々に教会勢力を駆除していき、教皇の存在を有名無実化しようと目論んでいた。一方、教皇も皇帝を廃して教皇を中心とする神政国家を目指して影で暗躍している。


「しかしながら、近頃は帝国領内でも反乱が多発しているように見受けられます。やはり私の忠告に従って国外侵略から国内維持へ政策を転換されるべきではないですかな?」


フリードリヒ2世が他国へ侵略を繰り返すのには理由があった。それは皇帝領を増やす事である。

ヴァルキュリアには皇帝が支配する領地の他に、貴族や教皇、司教達が統治する地域が数多く存在し、それ等が大きな力を持っていた。そのため、フリードリヒ2世は他国へと侵略して領土を広げて皇帝領を増やす事で他を圧する程の経済基盤を築こうとしているのだ。

教皇としては皇帝の力が増大して皇帝と教皇の権力バランスが崩れてしまう事を懸念して、国外への侵略を控えるように主張し続けた。また、皇帝のこの侵略戦争により国内は疲弊して民の生活にも支障が出ていたのも事実で教皇を支持する民衆も存在した。


「いやいや、このユーラシア大陸全土を平定するまで今の勢いを衰えさせるつもりはありません。心配せずともいずれ戦争は一段落着きます」


「左様ですか。・・・では、私はそろそろ失礼致します。急に訪ねて申し訳ありませんでしたな」


「もうお帰りになられるのですか?もう少しゆっくりなされてはどうです?」


「いや。ベルリンでやる事が多いので、これにて失礼します」

そう言ってルートヴィヒ4世は玉座の間から出ていった。


教皇の姿が見えなくなると、フリードリヒ2世はさっきまでの笑顔から一変してまるで見下すかのような目を向けた。

そして、広間の端に控えていた帝国宰相ジグマリンゲン侯爵が近付く。

「おそらく、教皇聖下は陛下のご様子を探りに参られたのでしょう」


ジグマリンゲンの言葉にフリードリヒ2世は鼻で笑う。

「ベルリンに閉じ籠ってこそこそと下らぬ策略を巡らすしか脳の無い老いぼれめ」


皇帝はそう言うが、ジグマリンゲンは教皇が謀略家として並々ならぬ相手として危険視していた。教皇という立場を武器にして大胆な行動に出られてはどんな事態が引き起こされるか分からない。

「やはり、教皇聖下をこれ以上野放しにしては、いずれこちらの脅威になるのでは?アジア征服を前に後顧の憂いは断っておくのが上策と思いますが」


「構わぬ。宮廷にいる教皇派さえ追い出せばそれでいい。教皇に自分から行動を起こすだけの勇気があるとは思えん」


「・・・ヤー,オイレ・マイエステート」

皇帝の考えに、ジグマリンゲンはやや不服そうにする。

教皇の恐ろしさをフリードリヒ2世自身もよく理解している。だからこそ、慎重に事を進めなければ確実に返り討ちを受けてしまうと内心では考えていた。




コンスタンティノープルを後にしたルートヴィヒ4世は一路ベルリンを目指して馬車で向かっている。

その道中、供の司教から彼は驚きの報告を受ける事となった。

「聖下!先程、財務大臣ランツフート伯爵が謀反の疑いにて爵位と領地を没収されたとの事に御座います」


「何だと!?おのれフリードリヒめっ」


ランツフート伯爵は教皇派貴族として知られている人物で、信仰心の厚く、司教達との交流も盛んな男だった。財務大臣という要職に就いているという事もあって、ルートヴィヒ4世にとっても手駒に出来れば非常に有益な人物だったのだが。これが、宮廷から教皇の権威を取り除こうと目論む皇帝の陰謀である事を教皇はすぐに察した。

「まったく。第3皇子だったあやつが誰のおかげで皇帝になれたと思っておるのだ!」


元々フリードリヒ2世は先帝の嫡男でもなく、能力的にも周囲の評価はそれ程高くはなかった。そのため、当時の選帝侯達の間でも次期皇帝には相応しくないと考えられていた。だが、そんな彼の方がコントロール下に置きやすいと踏んだルートヴィヒ4世の強い意向もあってフリードリヒ2世が皇帝に即位する事となった。

当初は皇帝を傀儡に高い権勢を振るっていたが、次第に両者の間には亀裂が生じフリードリヒ2世が外征政策で成果を上げ続けるようになると両者の立場は逆転するようになり現在に至る。


「今後、如何なされますか?このままでは我等教会勢力は政治の場から完全に追い出されてしまいますぞ」


教皇は腕を組んで、目を閉じ考え込む。

「例のヴァレンシュタイン公爵。あいつに少し恩でも売っておくか」


「恩、ですか?」


「新品のゲフィオンを50機ほどくれてやれ」


「ご、50機もッ!し、しかし、それは」


「よい。あいつはまだ若いからな。恩を売って、少し可愛がってやればすぐこちら側に引き込めよう」

帝国の若き英雄にして、ヴァルキュリアの双壁と評されるラルフ。教皇軍の軍事力にラルフの戦略眼が加われば、おそらくあのフリードリヒ2世と言えどもかなり手を焼く事になる。手駒にできればこれほど心強い者はいない。

さらに、ヴァレンシュタイン公爵は選帝侯という地位にいる事もあって、ランツフート伯爵のように簡単に排除される心配は無い。今回のルートヴィヒ4世の着眼点は流石と言う他ないだろう。

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