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日本の知恵伊豆

宝暦1937年2月28日。

極東に浮かぶ島国・日本ヒノモトにヴァルキュリアの大艦隊が向かっている。

その知らせを日本側が知ったのはヴァルキュリア皇帝が日本遠征を決定した日から13日経ったこの日だった。と言っても日本人の全てがその情報を得たわけではない。

日本は「天皇」を国家元首としながらも政治の実権は大坂幕府の政委大将軍が握っているという複雑な政治体制が敷かれている。ヴァルキュリア海軍が日本に向かっている事を知るのはこの大坂幕府の中でも上層部のみである。


幕府の置かれている摂津国大坂では、密かに対ヴァルキュリア戦に備えるべく、幕府の実力者の老中首座・松平政綱まつだいら まさつなが動いていた。

大坂幕府の本拠地である大坂城は漆塗りの壁に黄金で装飾された5層の天守閣に、二の丸、三の丸、総構えと3重の堀を構えた壮大な城だった。大坂は経済と政治の中心地という事もあって日本一の賑わいようで、日本の豊かさが伺える。

政綱は大坂城にて海軍総裁の島津義昭しまづ よしあきと老中の石田光徳いしだ みつのりと協議に入っている。

「島津殿、時間は少ないが、できる限りの用意をしてくれ。九州の守護達に命じて砲台を整備し、ヴァルキュリアを1人たりともこの日本の土を踏ませてはならん」


政綱の言葉に義昭は御意、と言って答える。

そして今度は光徳に指示を出す。

「秦国やインドネシア諸島諸国に支援を要請するのだ」


なぜ、これほど早い段階で、日本がヴァルキュリアが攻めてくる事を察知できたのかというと、元々外国の情報収集を重視していた政綱が、同じくヴァルキュリアの脅威に晒されているブリタニアから情報を得ていたからだった。


「それで、今の状態で我等がヴァルキュリアに勝てる可能性はどのくらいあるのだ?」


政綱の問いに義昭は一瞬目を逸らして、とても言いづらそうにする。

「・・・限りなく低いかと。ブリタニアからの情報では敵の艦隊は戦艦45隻との事ですが、おそらく途中で属国の艦隊とも合流して少なくとも60隻には戦力が膨れ上がるでしょう。対して、こちらの戦艦は35隻と圧倒的に不利です」


「確かにそうだ。しかし、敵は長距離の航海で疲れも溜まっていよう。それに敵にはここまで来てしまえば北のウラジオストク基地以外には補給が行なえる基地は無い。つまり、敵の進撃さえ停滞させれば補給の行なえない敵は物資が無くなり自滅する事にもなる。我等にもまったく勝機が無いわけではないぞ」

誰もが恐怖と不安に駆られる中、政綱はまだ希望を捨ててはいなかった。


島津義昭は、九州の守備を現場で指揮すべく筑前国・大宰府へと急ぎ向かう。

そして、石田光徳も政綱からの命を実行すべくその場から去ろうとする。

「そういえば、光徳。そちとはまだ話があった」


部屋から出るギリギリの所で足を止めて、政綱の方に身体を向ける。

「何でしょうか?」


「兼ねてから話を進めていた『維新十三条』についてだ」


「し、しかし今はそれどころではッ!」


「こんな状況だからだ。大陸の脅威に対抗できるように我が国は生まれ変わらねばならないのだ」


「・・・分かりました」

そう言って光徳は再び政綱の前に座る。

維新十三条とは、政綱が草案した新国家体制の基本方針である。これまでは緩やかな形で実現していこうと考えていたのだが、ヴァルキュリアがアジアへと勢力を急速に拡大している事に危機感を覚え改革を急ぐ必要性が生じていた。複雑化した国家体制を一新して日本という国を守る。それが政綱の願いだった。


維新十三条の内容は、

・上下両院の設置による議会政治

・政委大将軍は行政府の長と上院議長を兼任

・上院は公家及び武家で構成

・下院は全国の守護で構成

・幕府の解体

・海軍の増強

・士農工商の撤廃

・庶民への選挙権

・能力・実績主義

・新しい通貨制度の制定

・近衛師団の創設

・教育体制の充実

・官位の有名無実状態を解消


世界的にも珍しい民主共和政の政治体制を目指す内容となっている。これはアメリカ連邦の国家機構を参考にしたものだが、日本の国情も考慮して政綱なりに考案されている。

天皇を頂点に、徳川家が行政権を担う。そしてそれを日本の武家と公家、そして庶民が支えるという国民全てで国家を機能させるというのが政綱の理想だった。

「これが実現できれば、この国はこれまで以上に一つに纏まり、異国からの脅威に対抗できる。今の日本に必要なのは古い制度を徹底的に破壊する勇気だ」


「仰る通りです。しかし、それを皆に納得させるのは容易な事ではありません」


「分かっている。だが、だからと言って諦めるわけにはいかない。今、私は公方様にこの維新十三条について話を進めている」


「それで、公方様は何と?」


「まだ納得はして下さらぬが、否定はなさらなかった。どうにか説得すれば公方様も分かって下さるかもしれぬ」


「公方様さえ御認め頂ければ、幕臣達を納得させるのはそう難しくはありません」


「その通りだ。だからお前は朝廷の公卿に協力者を作っておいてほしい」


「分かりました。全力を尽くします」


「ヴァルキュリアが迫っているこの状況で忙しいとは思うが、日本の未来のためにも頼む」

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