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帝国の諸侯

宝暦1937年2月15日。

ラルフの指揮するヴァレンシュタイン騎士団は北アフリカから帝都コンスタンティノープルへと凱旋した。

ラルフとヴァレンシュタイン騎士団の圧勝劇に帝都の庶民は熱狂し、その英姿を人目見ようと凱旋セレモニーが行なわれているコンスタンティノープルのメインストリート「ラインフェルデン通り」へと集まっている。

通りの両脇には様々な人種の人々が入り混じっていた。ゲルマニア人、イタリア人、エジプト人、インド人とヴァルキュリアの支配地各地の住人が次々とこの帝都へと移り住んできている。

ヴァルキュリア万歳ハイル・ヴァルキュリアヴァルキュリア万歳ハイル・ヴァルキュリア!」

数万を超す民衆の熱狂的な歓声は、帝都全域を圧する程の勢いがある。



ラインフェルデン通りを進み、ラルフ達は神聖ヴァルキュリア皇帝の居城にして帝国の栄華を象徴している「ヴァルハラ宮殿」へと入る。熱を帯びた民衆の歓迎を受けたために凱旋セレモニーは予定よりやや遅れて宮殿に到着した。

豪華絢爛な建物と広大な美しい庭園からなる宮殿で、敷地の広さは72平方キロメートルを誇る。

宮殿に入ったラルフ達は玉座の間へと入り皇帝フリードリヒ2世への謁見に向かう。まずラルフが先頭に立って大きな扉を潜って玉座の間へ入る。

そして数歩遅れて、クールラント,ユリア,ロンメルの順に中へ入る。

ラルフが玉座の前で止まると、後ろの3人も彼の後ろで横に並んで足を止める。玉座の間には既に大勢の貴族や司教達が集まっている。ここにいる者達は全員この帝国の支配階層に位置する者達である。


しばらくすると、玉座に皇帝フリードリヒ2世が現れる。

白髪に、まるで彫刻のような厳つく、彫の深い顔立ちをした威厳に満ちた容姿の男で、彼こそが神聖ヴァルキュリア帝国の征服帝と呼ばれる人物だ。

フリードリヒ2世は、全名を「フリードリヒ・コンラート・フォン・ヴァルキュリア」と言い、神聖ヴァルキュリア帝国第38代皇帝である。


神聖ヴァルキュリア帝国は元々ヨーロッパ・ゲルマニアにある一つの王国に過ぎなかった。しかし、約800年前にヴァルキュリア帝国初代皇帝カール1世によってヨーロッパ全土を支配し、アジア征服の野心を叶えるべくコンスタンティノープルへの遷都を敢行した。

やがては世界の全てを支配すると誰もが思ったが、結局そうはならなかった。

カール1世の急な崩御である。

これによってヴァルキュリアの征服計画は一旦白紙に戻ったものの、その後も100年間は外征を繰り返して属州を増やしていき、帝国の基盤を固めていくが、それ以後の帝国は内政重視へと方針を転換し、帝国の領土拡大はそこでストップしてしまう。だが、この間に築かれた大帝国としての秩序と制度は現在の征服帝の征服事業を支える重要な土台となっている。

フリードリヒ2世はカール1世の再来とも言われ、その能力は実績によっても証明されている。

「ヴァレンシュタイン公爵、こたびの武勲は誠に見事であった。今回ほどの圧勝劇を他に余は知らぬ。今後も帝国の繁栄のために力を尽くしてくれ」


皇帝から言葉を賜り、ラルフがそれに答える。

「ヤー,オイレ・マイエステート」

ヴァルキュリア語で「はい、陛下」を意味する言葉を優雅に述べると、続いて個性に乏しい発言を口にする。

「帝国と皇帝陛下の恩ため、帝国と陛下の敵をことごとく排除する所存に御座います」


「うむ。そなたの武勲に報いるために、エメラルド騎士十字勲章を授与する」


ヴァルキュリアでは全ての勲章には宝石が付いており、それによってランク分けがされている。今回ラルフが授与されたエメラルド騎士十字勲章はランク的にはそれ程高くはないが、彼の年頃で授与された前例がなく最年少記録が更新された。



勝利の報告と勲章の授与を終えたラルフは、ロンメル達と別れると休む間もなく別の広間へと入る。

広間の中央には大きな縦長のテーブルが置かれて、そこには左側に6人、右側に7人が既にいる。ラルフは左側にある空いた席に座った。


すると、彼の目の前に座るゲオルク・ヨアヒム・フォン・ブランデンブルク侯爵が腕を組んで口を開く。

「この度は、再び最年少記録を更新されて、さぞ気分がいいでしょうなぁ。しかし、調子に乗っているとその内痛い目を見ますぞぉ」

嫌みがましく言うブランデンブルク。他者を圧する程の風格と気迫を備え、威厳に満ちた容姿をしている。そんな彼に言われてはどんな言葉も現実味を帯びて聞こえるだろう。

だが、ラルフは特に意に介する事なく彼の言葉に答える。

「別に調子に乗ってなどいません。私はただ為すべき事を全力で果たしたまでのこと」


ラルフの返答が面白くなかったのか、ブランデンブルクは小さく舌打ちをする。

二人のやりとりを見て、二人よりも奥の席に座る白い司教服に身を包んだ白髪の老人がラルフの方を見る。

「そうは言われるが、ヴァレンシュタイン公爵閣下はまだ若い。もっと自分の功績を誇ってもいいのでは?若い内はそのぐらいがちょうどいいと言うものですじゃ」

彼はこの場にいる中では最年長の大司教・マインツ大司教である。


何か言おうとするラルフだが、それと同時に扉が開き全員の視線がそちらへと移る。開いた扉からはフリードリヒ2世が入ってきた。

それを確認すると椅子に座る14人は音を立てないように静かに立ち上がりフリードリヒ2世の方に向ける。

背筋を伸ばして右手に握り拳を左胸にあてると、右手をピンと張って腕を斜め上に、掌を下側に突き出す。これがヴァルキュリア式の敬礼である。

そして、彼等は一斉に「皇帝万歳ハイル・カイザー!」と叫ぶ。


広間の一番奥にある豪華に装飾された席に座ると、フリードリヒ2世が合図をする。頭を下げる14人は皆同時を頭を上げて席に着く。

皇帝の前にいるこの14人は、ただの貴族ではない。彼等は選帝侯せんていこうと呼ばれる存在である。選帝侯とは神聖ヴァルキュリア皇帝に対する選挙権を有した諸侯のこと。ヴァルキュリア帝室の中から最も相応しいと思う者を選帝侯達が選挙で次の皇帝を選出する。それがヴァルキュリアの仕組みだった。

選帝侯は、世俗諸侯が8人、聖界諸侯6人で構成されている。

世俗諸侯

ハプスブルク大公家

ジグマリンゲン侯爵家

ブランデンブルク侯爵家

ヴァレンシュタイン公爵家

ヴィッテルスバッハ侯爵家

ボヘミア公爵家

カレンベルク侯爵家

ヴュルテンベルク公爵家


聖界諸侯

マインツ大司教家

トーリア大司教家

ケルン大司教家

ザルツブルク大司教家

ロートリンゲン大司教家

ファルツ大司教家


この選帝侯は皇帝の選挙権を持つため、他の帝国貴族に比べると別格の権威を誇っている。


フリードリヒ2世が選帝侯達を見渡す。

「今日、皆に集まってもらったのはかねてより予定していた極東征服についてだ。しかし、秦国の国力は侮れん。そこで秦よりもさらに東にある島国・日本ヒノモトを屈服させようと思う。諸侯等はどう思うか?」


フリードリヒ2世に応じてブランデンブルク侯爵が発言を求めた。

「日本の国力は脆弱と聞いております。皇帝陛下のヴァルキュリア海軍をもってすればあのような小さな島国の一つや二つなど、容易く手に入れられましょう。日本を征服し、秦国に対して二正面作戦が実行できれば、如何に秦国と言えども叩くのは容易。帝国の長年の悲願だった大陸制覇が陛下の御手によって実現する事となりましょう」


ブランデンブルク侯爵の言葉にフリードリヒ2世は機嫌の良くしたのか、うっすらと笑みを浮かべる。

「ヴァレンシュタイン公はどう思う?」


「日本を征服する事自体はそう難しくはないのでしょう。ですが、海路を使って日本に向かうのには、秦国が要塞を築いているマラッカ海峡を通る必要があります。如何に陛下の海軍と言えども海峡突破は容易ではないでしょう」


「それが何だというのだ?そんなにマラッカの秦軍が恐ろしいなら、別の航路を使えばいいではないか?」

そう言って笑い声を上げるブランデンブルク侯爵。


「ただでさえ長い道のりだ。遠回りなどしてさらに長距離の遠征ともなれば兵達の疲労も無視できん。そんな状態で日本を征服するのは至難の業と思うが?」


淡々と述べるラルフに、ブランデンブルク侯爵は眉をひそめる。

「まだ二十歳を過ぎたばかりの青二才が、知った風な口を聞くでないッ!貴公は陛下の作戦を愚弄する気かッ!」

ラルフの事をあまり快く思っていない彼にとって、ラルフの態度が一々感に触るらしい。声を張り上げて、広間に彼の声が響く。


「止めぬか。皇帝陛下の御前であるぞ」

帝国宰相ジグマリンゲン侯爵が止めに入る。


「・・・失礼致しました」

そう言ってブランデンブルク侯爵はフリードリヒ2世に頭を下げる。

そして今度はフリードリヒ2世に意見を述べる。

「陛下、どうか私に日本征服を御命じ下さい!必ずや日本を陛下に献上して御覧に入れます」


選帝侯の全員がフリードリヒ2世の方を注目する。

「では、ブランデンブルク侯爵に地中海艦隊の指揮権を委ねる。戦艦45隻,ガーディアン輸送艦30隻だ。この戦力を持って、日本を奪ってみせよ」


「ヤー,オイレ・マイエステート!」

ブランデンブルクが威勢よく遠くまでよく響く声で叫ぶ。

そして、彼の声が止むと、選帝侯が全員一斉に席から立ち上がって、ヴァルキュリア式敬礼を行ないながら「皇帝万歳ハイル・カイザー!」と口を揃えて叫んだ。


こうして、神聖ヴァルキュリア帝国の日本遠征が決まった。

ヴァルキュリア海軍最強と謳われる地中海艦隊が南から、極東方面軍ウラジオストク基地の部隊が北から攻める事で日本を南北から圧迫して奪い取る。しかし、極東方面軍の海軍は輸送艦しか保有しておらず海上戦力は皆無と言ってもいい。つまり、ウラジオストク基地の部隊を動かすには、まずブランデンブルク侯爵が日本海軍を全滅させる必要がある。ブランデンブルク侯爵の勝敗が日本征服の成否を分けると言っても過言ではない。だが、ヴァルキュリアの歴史上、選帝侯が指揮する軍が負けた事は無い。ましてブランデンブルク侯爵はヴァルキュリアの双壁と称される程の名将である。彼の敗北を心配する者などいなかった。ただ一人、ラルフ・フォン・ヴァレンシュタイン公爵を除いて。

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