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魔導戦記ヴァルキュリア  作者: ケントゥリオン
ブランデンブルクの乱
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終わりの始まり

参謀本部総長に就任したラルフは、傷ついた軍の再編成などで大忙しの日々を送っている。そんな彼を訪ねて第1皇子ヨーゼフ・ゲルハルト・フォン・ヴァルキュリアが参謀本部に姿を現した。

ヨーゼフは、アジア遠征に備えて大軍を率いてアジアに向かっていたのだが、後にブランデンブルクの乱と称されるようになる先の内戦を受けてヨーロッパへと戻り、ついこの間まではブランデンブルク軍の残党狩りをしていた。

「ヴァレンシュタイン公、いや今はヴァレンシュタイン大公か。単刀直入に言うが、今日は頼みがあって来た」


「何でしょうか?」


「ルートヴィヒ4世を教皇の座から引き摺り下ろすのに協力してもらいたい」


「・・・それは、皇帝陛下のご意思でしょうか?」


「いや、俺の個人的な頼みだ」


「では、またヴァルキュリアで内戦を起こそうとヨーゼフ殿下は言われるのですか?」


「これ以上、あの古狸に教皇を任せていたら、俺達から手を下さずともいずれ内戦は起きるだろう。その前に先手を取る!」


「・・・恐れ多いことでは御座いますが、お断り致します。陛下のご承諾もないままでは、民衆の心は教皇側に靡くでしょう。それでは、帝国中を敵に回すようなものです」


「今回の内戦に、教皇が関わっていたことは明白だ!それを皆が素知らぬ顔だ!ヴァレンシュタイン大公はブランデンブルクが謀反の疑いを掛けられた時は常に彼を擁護していたと聞いたが、貴公は悔しくはないのか?」

ヨーゼフは、次期皇帝の最有力候補である。そして彼はもし皇帝になった暁にはブランデンブルクとラルフの2人にヴァルキュリアの全ての軍事力を統合させ指揮下に置かせようと考えていた。将来の右腕をもがれたような思いがヨーゼフの怒りを掻き立てているのかもしれない。


「SSが調べても何の証拠も出なかった以上、いくらこちらが問い詰めても濡れ衣だと言い張られてはどうしようもないでしょう」


「・・・貴公に言うことは分かる。分かるが、いや、何でもない。邪魔したな」

そう言ってヨーゼフは早々と部屋から出ていった。

そして、ヨーゼフと入れ替わるように別の扉からユリアが中に入ってきた。

「ふん、話に乗ればいいものを。本当はお前だって教皇を討ちたいくせに」


「盗み聞きとは趣味が悪いな。それと、それは本気で言っているのか?」

表情は平然を装っているが、口調が少し不機嫌そうにユリアには聞こえた。

しかし、ユリアはそれにはお構いなしに話を続ける。

「まさか。お前が感情だけで動く奴でないことはよく知っている。だが、今やお前は大公閣下だ。その地位と権限をもっと有意義に使ったらどうだ?こんな狭い部屋でつまらん仕事をずっとしていないで」


「余計なお世話だ。それに、やりたいことならあるさ」


「ほう。それは?」


日本ヒノモトの知恵伊豆を倒すこと、それだけだ」

富にも名誉にも栄光にも興味のないラルフが今、唯一情熱を傾けられることがそれである。

今やラルフの持つ権威と権限は、ヴァルキュリアでは最高位の官職の帝国宰相の在任者のジグマリンゲンをも上回り、臣下の中では最高の地位にいると言ってもいいだろう。それほどの男が極東の島国に御執心とは失笑ものだ。





そして、ヴァルキュリアのうら若き英雄の関心を一身に受ける知恵伊豆こと松平政綱はというと、ヴァルキュリアが内戦で身動きの取れないうちに日本の大改革に取り組んでいた。

彼が草案した維新十三条の中にあった幕府の解体が遂に実行に移された。幸いなことに徳川将軍家が新たに創設される新国家体制の行政機関となる「台閣」の長・太政大臣の地位と立法機関となる「皇国議会」の上院議長の地位を約束することで納得してくれたことが国内の反対を押し切る原動力となった。

だが、それでも反抗勢力は存在する。幕府派の人間などは政綱を将軍家を裏切った奸臣呼ばわりする者もいたが、ヴァルキュリアから何度も日本を救った彼の名声を覆すことはできなかった。新国家に対して幕臣が挙兵する事件も多々あったが、それも今では終息に向かっている。


そして政綱は、台閣のナンバー2と言える左大臣と国内行政のほとんどを一手に統括する内務省の長・内務卿の地位に就いた。

身分制度の撤廃や能力主義の人材登用も進めてはいるが、中々浸透せず最終的な目標である一般庶民の政治参加はまだ先になりそうだ。


政綱は瀬戸内海に建設された幾つもの水城の視察を行っている。この城は、ヴァルキュリアが攻めてきた際の防衛戦のために建設されたものだが、その他にも新国家体制樹立に反抗するであろう国内勢力に備えてのことでもあった。しかし結局、国内では内戦と言えるような戦いは起きておらず、今現在これ等の水城が実戦で使用されたことは1度もない。

政綱は天守閣最上階から瀬戸内海の海を見渡す。

「ヴァルキュリアは遅かれ早かれこの日本に大軍を送り込んでくるだろう。神聖ヴァルキュリア皇帝の第一目標はユーラシアの制覇らしいからな。だが、こちらにも希望がないわけではない」


「ブランデンブルクの乱、ですか?」

そう答えたのは新国家樹立に際して台閣ナンバー4の内大臣の座についた彼の右腕である石田光徳だ。


「その通りだ。あの戦いでヴァルキュリアは最精鋭部隊の2つをぶつけ合うという事態に陥った。これは彼等にとっては大きな痛手だが、こちらとしては願ってもないことだ。おそらく、ヴァルキュリアがアジアに総攻撃を仕掛けてくることは今年の冬まではないはずだ。国内の再建に力を注がねばならぬだろうからな」


「いっそ、あの内戦でヴァルキュリアが滅亡してくれればよかったんですけどね」


「ふふ、そうだな。だが、ヴァルキュリアの選帝侯が謀反を起こしたというのは歴史上初のことだ。もしかしたら、この内戦はヴァルキュリアの滅亡の始まりかもしれんぞ。・・・根拠はないがな」


「それでは我々はあの内戦が滅亡の始まりであることを祈りながら、冬に来るであろう戦いに備えるとしますか」





宝暦1938年5月25日。

神聖ヴァルキュリア皇帝フリードリヒ2世は突然、遠地にいる者も含めて選帝侯全員にヴァルハラ宮殿への召集命令を出し、この日ヴァルハラ宮殿で会議が催された。

「今日集まってもらったのは、先の内戦により臣民の間に立ち上がりつつある不安についてだ」


フリードリヒ2世の言葉を受けて、選帝侯の中では最高齢のマインツ大司教が口を開く。

「選帝侯の席が2つも同時に空白になるのは前代未聞のこと。ここは、急ぎ新たに別の家を選帝侯に立てて、空いた席を埋めるのが肝要かと。でなければ臣民に示しが着きませぬ」


マインツに続いて、ヴュルテンベルク公爵が意見を述べる。

「陛下、それも大事ではありますが、今回の内戦をヴァルキュリア滅亡の兆しと見る者も存在します。ですが、ヴァルキュリアの力は今も健在であることを内外にアピールするべきでしょう」

これまで嫌っていたブランデンブルクが死んでせいせいしたと思ってはいるが、先の内戦では軍の指揮を任されていながら、まったく活躍できずにラルフとの差をさらに広げられてしまったことでヴュルテンベルク公爵は少し焦りを感じていた。


この勢いに乗らんとばかりにカレンベルク侯爵が席から立ち上がる。

「戦争となれば望むところ!ヴァルキュリアのさらなる発展のため!まずは目障りな唐、そして日本を滅ぼし、この世界の支配者が誰であるかをはっきりさせるのです!」

極東方面軍司令官を務めるカレンベルクとしては、唐への宣戦布告をフリードリヒ2世に許可してほしい所だった。一気にラルフとの開いた差を詰める絶好の機会なのだから。それにあまり時を費やすと、アジア遠征の総指揮をラルフに任せかねない、そう思ったカレンベルクはしつこいぐらいアジア遠征の必要性を主張した。


彼等に続いてヴィッテルスバッハ侯爵とボヘミア公爵もアジア遠征に賛同する。だが、教皇の犬でもある聖界諸侯は皆、戦争は延期して国内の復興に力を注ぐべきだと唱える。

選帝侯の中で議論が白熱する中、唯一ラルフだけが一言も発せずに呆然としている。

それに気付いたフリードリヒ2世がラルフに意見を求めた。

「今回の内戦で、ヴァルキュリアの軍事力に致命的なダメージを負ったことは無視できない事実です。ですが、だからと言って悲観する必要はありません。ヴァルキュリア自体は依然として衰えてはいません。それを内外に知らしめるべきでしょう」

穏やかな美声で意見を述べると、ラルフは突然立ち上がる。

「皇帝陛下、大公そして参謀本部総長の地位を頂いたからには、必ずや陛下に勝利の美酒を献上致しますことをお約束申し上げます」


こんなやる気と生気に満ちたヴァレンシュタイン大公は初めてだ、とこの場に集まっている者は誰もが思った。

フリードリヒ2世も思いもしなかったラルフの行動に一瞬唖然とする。

「・・・あ。ああ、期待しておるぞ、ヴァレンシュタイン大公」


「つきましては陛下。今後、全ての作戦指揮は我が参謀本部に任せていただきたいのですが」


フリードリヒ2世がわずかに眉をひそめる。

「何?・・・余にも口出しはするな、と貴公は言いたいのか?」


「恐れ多いことでは御座いますが」


あまりにも単刀直入過ぎるラルフの言葉に他の選帝侯たちはまるで自分のことのように冷や汗を流しながらフリードリヒ2世の機嫌を伺う。

しかし、当の皇帝は面白い、と呟きながら笑い声を上げた。

「よかろう!以後、全ての作戦指揮は貴公に任せる!」



皇帝から今後の全軍事作戦の指揮を任されたラルフは、参謀本部に戻ると早速、クールラントとロンメル、ユリアの3人を自分の下に集めた。

ラルフが皆の前に姿を現すと、突如ロンメルが前に進み出た。

「大公閣下、今まで中々機会が御座いませんでしたので、今更ながら申し上げます!大公へのご昇進、おめでとう御座います」


ロンメルの祝いの言葉を聞いてラルフは穏やかな笑みを浮かべる。

「私は公爵から大公へ1つ上がったに過ぎん。それよりも貴公の大将昇進の方が立派さ」


「いいえ、全ては大公閣下の御力の賜物です」

ヘルマン・ロンメルは皇帝軍士官学校卒業後、ラルフにその才能を見出されてヴァレンシュタイン騎士団オルデンに籍を移して順調に実績を積んで昇進を重ねてきた。ヴァルキュリアでは平民階級は功績を立ててもそれに見合った恩賞が出されないのが当たり前になってしまっているが、ラルフはそんな悪習に囚われずに功績に見合った恩賞を与えてきた。その結果、ロンメルはヴァルキュリア史上初の大将の地位を手に入れたのだ。


「私はただ、貴公の戦果にできる限り報いてきただけだ。・・・今回もロンメルには大事な仕事を頼むつもりでいる」


「何でしょうか?」


「アフリカに行ってアフリカ同盟との講和を取り纏めてきてもらう」


「こ、講和、ですか?しかし私は外交交渉は・・・」


「心配するな。エリーザベト皇女殿下が全権大使として向かう。ロンメルには殿下の随員武官を務めてもらう。政略はともかく戦略的にこちらが不利な条約を結ばされないよう殿下をサポートしてやれ」


「ヤー,マイン・ヘル!」


「それと、クールラントにはブリタニアへ行ってもらう。あの国の経済は崩壊寸前、財政破綻も近いだろう。ブリタニア総督府情報部の話では革命の機運まであるそうだ。ブリタニア全土を併合するなら今が絶好の好機」


「では、私にブリタニアと結んだ休戦協定を破棄して侵攻せよ、と?」


「ふふ、そうもいいが、できるだけ平和的にブリタニアを手に入れて来い」


「ヤー,マイン・ヘル!」


ブリタニアの経済は南北で大きな開きが出来ている。ブリタニア王室が支配する北部は、度重なる戦費の支出と軍事的敗北、さらにはヴァルキュリアが仕掛けた偽札による経済混乱作戦で1度の食事にも札束が必要、と揶揄されるほどの経済不況に陥っていた。対してヴァルキュリアが実効支配をする南部では、帝国都市シュロースなどにヴァルキュリアの各地から多くの商人が商売にやって来て様々な珍しい品々が行き交い、多くのブリタニア人も戦災地復興の作業員として働いているので仕事に困ることもない。経済は非常に安定していると言えるだろう。

北部に住むブリタニア人の中には、この悲惨な状態から抜け出したいと自らヴァルキュリアの支配に下るしかないと主張する親ヴァルキュリア派と自分達をこんな状態に追いやったヴァルキュリアを許すなと主張する反ヴァルキュリア派が市民の間で度々衝突する事件が増えているという。


「この事態をブリタニア政府が抑えられなくなりつつある今、ブリタニア人の心は王室から離れ、新たな救いの手を求めるだろう」


ラルフが悪意に満ちた表情で話していると、横からユリアが鼻で笑う。


「ふん、相変わらず恐ろしい奴だな。お前、正体は悪魔だろ」


「さてな。それよりユリア、お前は私と共に帝都に留まれ」


「私は、お前の夜伽の相手か?」


ユリアの言葉にラルフは呆れたような表情をする。

「戯け。アジア遠征作戦の計画を練るのを手伝ってもらうだけだ」


「ふふ、そうか。つまらん」


上品さの欠片もないユリアの言動にクールラントに溜息をつき、ロンメルは苦笑いを浮かべる。


ラルフはふいに近くのテーブルに広げられている世界地図のアジア辺りに目を向ける。

ブリタニアとアフリカを抑え込んでしまえば、次はアジアだ。そうすれば、やっと知恵伊豆、お前とまた戦える。私の持てる全ての力を行使して、お前を私の足元に跪かせてくれる。

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