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魔導戦記ヴァルキュリア  作者: ケントゥリオン
ブランデンブルクの乱
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栄光と名誉

ヴァルハラ宮殿の庭園まで引きずられてきたザフリードのコックピットのハッチが整備兵によって強引に外された。

「公爵閣下、ご無事ですか!?」


整備兵の声にラルフは若干の反応を見せるも、何の返事もしようとはしない。

無事な姿に安堵する整備兵だが、どうも様子のおかしい公爵閣下に戸惑ってしまう。

「ぶ、ブランデンブルクはクールラント将軍の部隊と交戦中の際に戦死したという報告が入りました。この戦いは閣下の勝利で御座います。おめでとうございます!」


「・・・そうか。ご苦労だった。下がれ」


「は?は、はい。失礼致します、閣下」


整備兵が去ってコックピットに1人残るラルフ。

頬を伝う冷たい何かを感じて、ラルフはそれを手でふき取ってみると液体が付いている。

「なんだこれは?私の涙?・・・ふん、まさかこの私が泣くとはな」

ラルフは自嘲気味な笑みを浮かべながらゆっくりと外に出る。この涙がブランデンブルクの死を悼んでのものなのか、彼に負けた悔しさなのか、それともその両方なのか、色々な思いがラルフの脳裏を過ぎるせいでよく分からない。


と、そこへユリアが姿を現した。それを視認したラルフは慌てて涙を拭い去るとコックピットから出た。

ザフリードから飛び降りてユリアの下まで歩みを進める。

「戦況はどうだ?」


「問題ない。帝都内部に侵攻してきたブランデンブルクの精鋭部隊は全て撃破した。水掘の外にいる部隊はほとんどが散り散りになって逃げ去り、残りも混乱の中で同士討ちをしだしてな。もうこちらが手を下すまでもない」


「・・・降伏勧告は?」


「必要ないだろう。勝手に自滅してくれるなら。奴等はしょせん皇帝に弓引く反逆者だ」


「ダメだ!すぐに降伏勧告を出せ!これ以上の犠牲こそ必要ない!」


いつになくむきになるラルフにユリアは少し驚いた様子を見せるが、すぐに「分かった」と最高司令部に降伏勧告を出すよう伝えに戻る。



ヴァルハラ宮殿の玉座の間にいるフリードリヒ2世もブランデンブルク戦死の報を聞いて安堵した。

「そうかそうか、ヴァレンシュタイン公はやってくれたか」


勝利に喜ぶフリードリヒ2世に、ジグマリンゲンが祝いの言葉を述べる。

「おめでとうございます、陛下。これも全て陛下の御威光の賜物です。それに今回の内戦で今後陛下に敵対しかねない教皇聖下の虫もかなり炙り出せたことでしょう。今回の内戦に教会勢力が絡んでいることは明白です。それを暴き出せれば、ルートヴィヒ4世を教皇の座から引きずり落とすことも叶いましょう」


「うむ。すぐにSSに調査を命じよ」




コンスタンティノープルから遠く離れたベルリンでは、密かにとある集会が催されている。

「教皇聖下、今回の内戦でブランデンブルクは死に、今後我等の手足となってくれるであろう貴族も多数が天に召しました。これで宜しかったのですか?」


「構わぬ。奴等はしょせん捨て駒よ。このまま生かしておけばそれほどSSに感付かれるやもしれん。それに今、クザーヌスが代わりを用意しに帝国各地を回っておるわ」


クザーヌス枢機卿は、数日前に自ら宣教師としてノルド教の信仰が進んでいない西アジアへと出立した。しかし、宣教師というのはあくまで建前である。本来の目的はいざという時に教皇に味方する同志を募ることにある。


「それにしてもこの内戦は予想よりも早く終わったものですな。我等の予想では後1週間は掛かるものと思っておりましたが」


「皇帝側もブランデンブルク側も短期決戦を望んでいたでしょうから。それが原因でしょう」


「もう少し長引いていれば、あの憎き皇帝の首も落ちたやもしれなかったのに。惜しいかったですな教皇聖下」


「ふん、ブランデンブルク如きでは皇帝には勝てん。それは初めから分かっておる。だが、奴は奴なりに最大限我等に貢献してくれた。ここは彼に、皆で感謝の祈りを捧げようではないか」

ベルリン教皇ルートヴィヒ4世は不敵な笑みを浮かべている。まるで全てが自分の思い通りであるかのように。




ブランデンブルク亡き後、反乱軍の残党を率いていたラオジッツが北アフリカにて戦死。ブランデンブルク軍は完全に崩壊し、あとは小規模な残党が各地で盗賊やテロリストとなって活動をする程度になった。

また、この内戦に教皇が関与しているという証拠を求めてSSは必死に調査を進めたものの、結局何の証拠も出てはこず、ブランデンブルク単独の反乱だったとして話は片付いてしまった。

そして、行方不明になっていたハプスブルクが発見されるも、内戦時での失態からフリードリヒ2世は激怒して謁見することすら許されなかった。



宝暦1938年5月17日。

ラルフ・フォン・ヴァレンシュタインは公爵から大公へと爵位を進めた。ヴァルキュリアの歴史上、ハプスブルク大公家以外の者で特例として大公位を得た者は少なからず存在するが、その中でもラルフは最年少という誇らしい栄誉を得た。これはフリードリヒ2世の強い意向もあって実現したことである。ヴァルキュリアの双璧の片方が反逆者になったという事実から世論を、若く才能溢れる英雄へと向けさせようという意図があってのことだ。しかし、この措置には反対意見もあった。ジグマリンゲンなどはハプスブルク大公家には屈辱的過ぎるとして帝室と大公家の間を不安に感じたのだ。

だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。ハプスブルクは自ら参謀本部総長の職を辞して、その後任にラルフを指名した。

こうしてラルフは2代目参謀本部総長に就任し、事実上ヴァルキュリアの軍権を独占することになった。

ラルフは、ブランデンブルク討伐に功績のあったロンメルとクールラントを大将に昇進させ、ユリアにも中将の地位を与えた。


今回の内戦の発端であるブランデンブルク侯爵家はヴァルキュリアの慣例に則れば、一族全員の財産を没収した上で全ての地位と爵位の剥奪、または処刑するところだが、ラルフは選帝侯の反逆罪は前例が無いことを持ち出して、家門と領地の存続だけは許して欲しいとフリードリヒ2世に嘆願した。それが功を奏して、ブランデンブルク家は選帝侯と侯爵の地位は剥奪されたもの、男爵家として存続することが許された。しかし、領地の大部分は奪われて辺境の地へと移り住むことになり、もうかつての栄光とは無縁の日々が待っていることだろう。


この内戦で、ヴァルキュリアの勢力図は大きな変化を迎えることになった。ブランデンブルク侯爵家が失脚し、ハプスブルク大公家も以前ほどの勢いを失った。そして、その穴を埋めるようにヴァレンシュタイン大公家が台頭してきた。今のラルフの権勢はハプスブルク大公家全盛期時代と同等、いやそれ以上のものだろう。それだけの栄光と名誉を手にしてもラルフの心が満たされることはなかった。元々そういったものに興味がないので当然と言えば当然なのだが。

だが、ラルフはようやくとある結論を導き出した。この戦いで私が手に入れた物は、全て得た物ではなく他者から奪い取ったのだ。今回だけではない。これまでに得てきた地位や領地も全ては元は誰か別の者の所有物。違うものといえば、選帝侯と公爵の地位とヴァレンシュタイン公爵家の領地ぐらい。

勝者は敗者から全てを奪い取る、これがヴァルキュリアのやり方だと分かってはいたが、改めて考えてみると残酷な話だ。栄光と名誉、そんなもののためにヴァルキュリアは国外に対してだけでなく、国内でも醜い争いを建国以来ずっと繰り返してきた。そして、内に秘めていた不満が爆発して遂に選帝侯の謀反という最悪の事態を招いてしまった。誰かがこれを変えなくては、いずれまた選帝侯の誰かが謀反を起こす日も来るに違いない。


ラルフ・フォン・ヴァレンシュタイン、この年21歳。今まで考えもしたことのない神聖ヴァルキュリア帝国のあり様について、ささやかではあるかもしれないが疑問を抱いた瞬間だった。

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