コンスタンティノープル攻城戦
帝都では、フリードリヒ2世の命により避難命令が出されており、市民は安全な地へ避難させる一方で動員可能な全ての戦力で帝都の守りを固めていた。
ヴァルハラ宮殿の玉座の間には、玉座に座すフリードリヒ2世の前にラルフとジグマリンゲンを筆頭に大勢の貴族と将軍が集まっていた。
フリードリヒ2世はハプスブルクの大敗と行方不明の方を聞いてからというもの落ち着かない様子でいる。
「ヴァレンシュタイン公、まだハプスブルク大公から連絡はないのか?」
「御座いません。ブランデンブルク軍からも捕虜にしたという報告は届いておりません。おそらくは戦死されたのかと」
「左様か。で、帝都の守りはどうだ?」
「情報ではブランデンブルク軍は50個師団以上とのこと。その半数にも満たない戦力で支え切るのは困難でしょう。今、アジアからの援軍がこちらに向かっていますが、間に合う可能性は低いかと」
ラルフの言葉にフリードリヒ2世に不安がよぎる。
「今の我が軍の戦力は?」
「もうじきヒスパニア属州、ガリア属州からの増援が到着しますので、それ等も含めれば30個師団といったところでしょうか」
「勝てると思うか?」
「率直に申しまして、かなり厳しいかと存じます」
「・・・そうか」
これだけ厳しい状況下でもフリードリヒ2世は、巨大な軍事力を有するベルリンの教皇庁へ援軍要請をしようとはしなかった。教皇軍の武力さえあれば、皇帝軍はブランデンブルク軍と互角の兵力で戦えるだろう。しかし、フリードリヒ2世のプライドがルートヴィヒ4世に援軍を頼むことを良しとしなかったのだ。
しばらく静けさが玉座の間を覆うが、それをクールラント伯爵が打ち破る。
「ギリシャ属州より反乱軍の艦隊を発見したとの報告がありました。やはり、ダーダネルス海峡を通ってこのコンスタンティノープルを目指すつもりかと」
それを聞いたフリードリヒ2世は苦々しい表情を浮かべながらラルフの顔を見て意見を聞く。
「おそらく、帝都を目指すと見せかけてアナトリア西部イズミル辺りにて主力部隊と合流し、補給物資を供給するものと思われます」
「では、それを邪魔するのか?」
「いえ、ここで下手に動いては状況を不利にするだけです。ここはコンスタンティノープルに全戦力を集結させ決戦に及ぶしかないでしょう」
2日後、ブランデンブルク軍は帝都の西側の少し離れた場所に全軍を布陣させた。
コンスタンティノープルは、アジアとヨーロッパを結ぶ東西交易ルートの要衝であり、また天然の良港である金角湾を擁している世界最大の都市である。長年に渡ってヴァルキュリアの帝都の座を守っているだけあって、歴代皇帝によって度々城塞化がなされ、城壁の守りも非常に強固となっている。
コンスタンティノープルの主要な城壁は、内側から「ロタール帝城壁」、「ジギスムント帝城壁」、「ルドルフ帝城壁」の3つになる。
とくにルドルフ帝城壁は、建造に30年を要しておりヴァルキュリアで最大規模の城壁だ。高さは17m。外壁側には幅300mもある人口の水掘が存在する。この水堀によりコンスタンティノープルは陸地からの攻撃に強かった。水堀を渡るには「ラインフェルデン大橋」、「ヴァイマル大橋」、「フォリムハイム大橋」のどれかの橋を渡るしかない。ラインフェルデン大橋は、帝都のメインストリートであるラインフェルデン通りに通ずる橋で、ここを真っ直ぐ進めばヴァルハラ宮殿へと到達できる。
ブランデンブルクはラインフェルデン大橋から3km離れた地点にいた。
彼は部下達に攻撃前に作戦の確認を行っていた。
「貴様等も分かっている通り、帝都の守りはおそらく世界最強と言っても良かろう。だが、コンスタンティノープルを制しない限り我等に勝利はない!我が本隊はラインフェルデン大橋から、ラオジッツはヴァイマル大橋から、パリツーダ伯爵はフォリムハイム大橋から攻め上る。ルドルフ帝城壁さえ突破できれば、戦況は圧倒的にこちらが有利になる」
ブランデンブルク軍は正面から帝都への攻撃を仕掛ける作戦でいる。普通に考えれば無謀であるが、彼等にも勝算がまったくないわけではない。ここまで進軍する途中で、ブランデンブルクはエジプト属州に存在する皇帝工廠から新型の列車砲「ウルバン砲」を10基鹵獲していた。列車砲は陸上では運用が困難な大口径・大重量の火砲を列車を利用することで移動を可能とさせた大砲のことである。このウルバン砲さえ使えば、帝都の城壁にも致命的なダメージを負わせられるはずだ。本来なら城壁の内側にも易々と砲弾を撃ち込める兵器なのだが、今後の戦略も考えると帝都を砲弾の雨で完全に焼き払ってしまうわけにはいかない。さらに言えば、そのような行為はブランデンブルクの選帝侯としてのプライドが許さなかった。
宝暦1938年5月11日。
まだ薄暗い夜明け前、ブランデンブルク軍は全軍で一斉攻撃を始めた。
戦いはルドルフ帝城壁を渡れる3つの橋で同時に開始された。数で勝るブランデンブルク軍は勇猛果敢に城壁に挑むも、ヴァルキュリアが誇るルドルフ帝城壁はそう簡単には落ちそうにない。
城壁の上には多数のガーディアンが銃撃を行い、城壁の所々には大砲用の隙間が空いておりそこから次々と砲弾を放っている。しかし、ブランデンブルク軍には奥の手がある。
「閣下、ラオジッツ将軍より列車砲、砲撃準備完了との報告が入りました」
「よし、砲撃開始だ!城壁を突き崩してやれ」
「ヤー,マイン・ヘル!!」
ウルバン砲は全てヴァイマル大橋方面のラオジッツ軍に配備されている。ここから一気に一点突破を図る作戦だ。
「撃ち方始めええ!!」
ブランデンブルクの砲撃命令を受けてラオジッツは高らかに砲撃命令を下した。10基のウルバン砲から一斉に砲弾が放たれ、戦場の頭上を通り抜けながら真っ直ぐルドルフ帝城壁に目掛けて飛んでいく。
砲弾は城壁をぶち抜く勢いで着弾すると共に激しい爆発を起こし城壁を粉砕しようとした。その途轍もない威力にこれまで世界最強と誰もが思っていたルドルフ帝城壁が着弾点を中心に崩れ出した。
「城壁に亀裂が入った!我等の勝利はすぐそこぞ!」
「このまま押し切るぞ!全軍突撃!」
第2射が始まる前にブランデンブルク軍は前線指揮官達の判断によりヴァイマル大橋の渡河を試みる。
彼等は帝都に進軍する途上に反乱軍に加わった者達であり、元々ブランデンブルク軍の指揮系統には入っていなかった部隊である。そのため、彼等は自らの功績のためにラオジッツの命令を待たずに前面攻勢に出てしまった。
この知らせはすぐにラオジッツの下にも入る。
「・・・しょせんは寄せ集めか。こうなったら止むを得ん。第2射急げ!奴等を援護しろ!」
ルドルフ帝城壁の前線司令部では、ウルバン砲の威力に大騒ぎだった。
「報告します!ヴァイマル方面の敵軍が攻勢に出ました!」
「急ぎ第5中隊を増援に送れ!絶対に敵を帝都に入れてはならん!」
「第8中隊も最前線に投入せよ」
そこにラルフが現れ、司令部にいる将校たちは最高指揮官の登場に慌てて敬礼をする。
ラルフは軽く手を上げてそれに応えると、前線司令部の中央に広げてある地図に視線を向ける。
「ブランデンブルク侯はラインフェルデン方面から来ているのだな?」
もはやただの反逆者になったブランデンブルクに今でも「侯」と付けていることに将校たちはやや戸惑いを見せるも、前線司令官にして帝都防衛長官を務めるSS少将のモーンケ伯爵がラルフの問いに答える。
「は、はい。ブランデンブルクの軍旗をラインフェルデン方面で確認しております」
「では、ラインフェルデン方面に展開している部隊の内第3大隊を全てヴァイマル方面に回せ」
「宜しいのですか?敵の本隊がラインフェルデン方面にいるのは明白です。ここの守備戦力を他に回しては、敵に突破される恐れが・・・」
「構わぬ。策は用意してある。」
「や、ヤー,マイン・ヘル!」
ラルフの指示によって、ラインフェルデン方面の防衛は手薄になる。さらにブランデンブルクは数機のガーディアンを水上輸送できる輸送艇を次々と持ち込ませて水掘からも部隊を渡河させようとした。
とはいえ、水上に無防備のままやって来た部隊と城壁の影に隠れながら銃撃してくる部隊とでは優劣は歴然だ。ブランデンブルク軍の地理的不利に変わりはない。
その中で、ブランデンブルクは自らガーディアンに搭乗して自ら前線指揮を執るべく前線へとやって来た。その姿を見てブランデンブルクの兵士は士気を上げてさらに勢い付く。
戦闘が始まって2時間が経過しようとする頃、ラインフェルデン方面の戦局は徐々にブランデンブルク軍の方へと傾き出した。
その様を見て、ブランデンブルクは違和感を感じる。
「おかしい。ヴァレンシュタイン公であれば、もっと強固な防衛体勢を整えられたはずだ。そうして時間を稼ぎ、アジアからの援軍を待つものと思っていたが。何かの罠か?・・・まあいい。例えどんな小細工を用意しようとも全て蹴散らしてくれる!全軍に通達!待機中の水上艇を全て出せ!全面攻勢に打って出る!我に続けええ!!」
ブランデンブルクが遂に自ら動き出した。ラインフェルデン方面のブランデンブルクは大挙して橋に殺到した。当然、守備隊も応戦するが、水上艇からの援護射撃もあってブランデンブルクの勢いを止められそうにない。
それを確認したラルフは次の手を講じる。
「ラインフェルデン方面の全ての部隊は市街地に後退し、クールラント中将の指揮の下、敵を迎え討つ戦線を整えろ。それとこの司令部も撤収させた方がいい。少ししたら、ヴァルハラ宮殿の最高司令部に移動する」
「「ヤー,マイン・ヘル!」」
城壁からの攻撃が無くなり、ブランデンブルクは一気に橋を渡り切り、城門を破壊して帝都の内部へと入ることに成功した。
「よし!帝都の中に入ったぞ!このまま敵を追い詰めるぞ!」
ブランデンブルクはルドルフ帝城壁の上に上り、兵達に城壁の内側に入ったことをアピールして彼等の士気を鼓舞する。
「このルドルフ帝城壁さえ突破してしまえば、残る2つの城壁は恐れるに足らん!後方の部隊も全て帝都内に移動させる!急げ!」
着々と撤収準備の進むラルフのいる前線司令部にも、ブランデンブルク軍の動きがすぐに知らされている。
「ラインフェルデン大橋より敵の主力部隊と思われる部隊が迫ってきます!」
それを聞いてラルフは小さくほくそ笑む。
「ブランデンブルク侯。正面からこの帝都を攻めた、あなたの負けです」
ラルフが手を軽く振って指示を出す。
すると、突然ラインフェルデン大橋が倒壊を始めた。勿論、橋の上を進軍中だったブランデンブルク軍の主力部隊も崩れた橋と一緒に水掘の中へと落下していく。
その様を城壁の上にいるブランデンブルクは、自分の目で目の当たりにした。
「な、何!?」
橋を渡り切れた部隊は1個師団にも満たない。部隊の大半は水掘の底へ沈んでしまい、橋にまだ入っていなかった部隊は混乱状態に陥ってしまう。勝ち目がなくなったと逃げ出してしまう部隊もあれば、混乱を収拾して次の指示を待とうとする部隊など、対応は様々である。利害関係など様々な理由で寄り集まっただけの寄せ集め部隊というだけあって、1度勝機を見失うと一気に脆くも崩れてしまうものだ。
これがラルフの対ブランデンブルク戦のために考え出した秘策である。元々、ラインフェルデン大橋を初めとする3つの橋、さらにはルドルフ帝城壁は、当時は最先端とされた技術で作られている。それは魔導石を使ったレンガ造りの城壁と橋だ。これは帝都に設置されている管制室から魔力による操作で自由にレンガの脱着を可能にする技術で、本来は建設の際や改修工事などの作業の効率化を図って導入されたもの。
「しかし、これを一斉にパージしてしまえばこれほど効果的な落とし穴はない」
ラルフの策により、他の2つの橋を巡って交戦しているブランデンブルク軍も身動きが取れなくなる。ラインフェルデン大橋と同様、橋を崩壊させられる恐れがあるからだ。
彼等にはもうアジアから迫る増援部隊と交戦して駆逐されるしか未来はない。
敵を倒すことなく、事実上戦闘不能に追い込んでみせたラルフの手腕には敵味方問わず度肝を抜かれただろう。あとは、帝都の市街地にのこのこ乗り込んできたブランデンブルクを全力で迎え撃てばいいだけだ。




