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魔導戦記ヴァルキュリア  作者: ケントゥリオン
ブランデンブルクの乱
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足並みの乱れ

ブランデンブルク謀反の真偽を確かめるためにアフリカへと派遣されたヴュルテンベルク公爵からの報告を待っている間も帝都では、謀反に備えて防衛体制を整えている。

そんな最中、ハプスブルク大公がラルフの下に付くことに不満を持ち、せめて自分の面子を立たせようと改めて選帝侯や将軍、諸侯を交えた御前会議を執り行った。

ハプスブルク大公の強い意向もあってフリードリヒ2世も許可を出したが、謀反時の指揮権はラルフに委任する事に決まったというのに今更このような大掛かりな会議が必要なのかとフリードリヒ2世は感じていた。

会議開始の瞬間、フリードリヒ2世はその疑問をハプスブルクにぶつけた。

「大公よ。余は指揮権をヴァレンシュタイン公に託すと言ったはずだ。にも関わらず、何故に今更御前会議などを開くのは、余を含め皆にも説明してもらおうか。でなければ、ヴァレンシュタイン公にも不満が残るであろう」


「・・・では、ご説明致します。もし、仮に北アフリカ戦線の全軍が反乱軍と化せば、最大で40個師団。いえ、周辺諸侯を巻き込めばもっと膨れ上がるでしょう。それが挙ってこのコンスタンティノープルに攻め込んでくるのです。このような事態はヴァルキュリア史上存在せず、皆も動揺しておりましょう。混乱を避けるためにも今一度、我等全員の意思統一が必要と思い、この場を設けさせて頂いた次第です」


「なるほど。ならばいい。続けよ」


「御意。ブランデンブルク侯がこの帝都へ攻め込もうとするなら、おそらく海路から主力を移動させてくるだろう。地中海の海上戦力は今は全て大西洋へ行っているからな。ブランデンブルクには北アフリカ戦線への補給船団護衛用に彼の私設艦隊が地中海にある。つまり、地中海で最大の武力を今持っているのはブランデンブルクというわけだ」


ハプスブルクの説明を回りくどいと感じたのか、ジグマリンゲンがめんどくさそうな表情を浮かべながらではどうするのか、と対応策を求めた。


「わずかに残っている艦艇を全てこの帝都近海に集め、帝都の砲台と連携して敵艦隊を迎え撃つのだ。敵は長い船旅で少なからず疲れていよう。そこを一気に叩く!その間に主力部隊が陸路を通って北アフリカへと侵攻し、奴等の後方基地を奪取する。行き場を失った奴等は海の上で野たれ死ぬことになるだろう」


会議に集まった者が皆ハプスブルクの考えに感嘆の声を漏らす。

しかし、その中でラルフだけが懐疑的である。猛将と呼ばれるほどのブランデンブルクなら堂々と陸路を通ってくるのではないか。それに陸路ならば、ブランデンブルク側に付いた貴族とも合流できるし、周辺諸侯への脅しにもなる。もし、ブランデンブルクが陸路を通ってきたとしたら、相手は勇猛果敢な精鋭部隊、対するこちらは寄せ集めの混成部隊。勝敗は明らかだ。ここは陸上戦力も海上戦力も全てコンスタンティノープルに集結させるべきである。

ラルフがそう意見を述べると、ハプスブルクは顔色を一変させて不機嫌そうにする。しかし、皇帝より指揮権を賜ったのはラルフであり、彼の言葉には大公と言えども逆らえない。だが、ここで退いては大公の名折れである。

「では、こういうのはどうだ?私が全軍の半分の戦力を率いて出撃し、先行しているヴュルテンベルク公爵と合流し、ブランデンブルクの進軍ルート周辺を領地にしている諸侯の軍勢を徴集する。そして、その戦力を持ってブランデンブルクと戦いつつ後退し、この帝都に誘い込む」

あくまでも自分の作戦を通して全体の主導権を掌握しようとするハプスブルク。帝国最高の貴族にして帝国唯一の大公であるプライドが、ハプスブルクのラルフへの対抗心に火を点けているようだ。

彼の熱意には会議に集まった者のほぼ全員が唖然とし、フリードリヒ2世のやむを得ず勅命で許可を出した。




ブランデンブルク謀反の噂は、どこから広まったのか国外にも伝わりつつあった。

特に海外の情報に敏感な日本ヒノモトにはすぐにもたらされた。大坂幕府大老・松平政綱は、大坂にて日本の新たな国造りと軍備増強を推し進めていた。

そこに舞い込んだヴァルキュリア国内での内戦の噂は、政綱にとっては朗報だった。すぐに幕府の重役達を集めて会議を開いた。

幕府の本拠地である大坂幕府の一室で、集まった重役達は度肝を抜かれた。

「まさか、あのヴァルキュリアで内戦とは・・・」


「だが、これは好機です。内戦が長引けば、環太平洋経済連合の組織造りとわが国の軍備拡張等を行う時間が稼げます」

そう言ったのは政綱の側近にして老中の石田光徳いしだ みつのり

彼の言葉に政綱はその通りだ、と答えた。

「まだ情報が不足しているが、もし内戦が事実ならこれはまたとない好機となる」


政綱が言い終えると、海軍総裁の島津義昭しまづ よしあきが口を開く。

「いっそ、アメリカに反乱軍の支援でも要請したらどうです?もし、反乱軍側が勝てばヴァルキュリアの国内は大混乱に陥るでしょう。そうなれば、もう戦争どころではなくなります」


義昭の提案に政綱は理解を示しつつも、苦い表情を浮かべる。

「それは無理だろう。今のアメリカとヴァルキュリアは休戦状態にある。政治的に考えてヴァルキュリアの内戦に干渉すべきではない。それに、今のアメリカの世論は反戦へと傾きつつある。アメリカ海軍は大西洋艦隊が全滅させられ、ガリア遠征軍も壊滅状態に追いやられて逃げ帰ってきた。結果がこれでは、アメリカの国民は誰も戦争再開など望みはしないだろう」


「アメリカの連邦政府は国民から強い反感を買っているとか。アメリカ政府としてはヴァルキュリアよりも今は国民の感情を抑える方に力を向けねば次の選挙が危ないと考えているでしょうし」


「それに唐にも、軍事力を外に向けるだけの余力は無いかと。最新の情報ではヴァルキュリア極東方面軍は突如動きを止めたという話ですが」


「では政綱様。我等はヴァルキュリアの内戦には・・・」


「一切関わらない。この隙を利用して我々は己の足場を固めるのだ」




ヴァルキュリア軍極東方面軍は、総司令官のカレンベルク侯爵の命令により全ての軍事行動を一時停止している。カレンベルクは中央アジアのカザフ属州アルマトイ帝国都市シュロースに構えている極東方面軍総司令部にいた。中央アジアだというのにまるでヨーロッパにいるかのような都市設計をした帝国都市シュロースのほぼ中央に宮殿が存在する。ここはカザフ総督府なのだが、この中に極東方面軍総司令部は設置されている。

カレンベルクは自室で目の前にユーラシア大陸の地図を広げながら優雅に紅茶を1人飲んでいた。

誰もいない中でカレンベルクは静かにほくそ笑む。

「ブランデンブルクが反乱を起こした。これで奴もブランデンブルク侯爵家も終わりだな。ヴァレンシュタインとハプスブルクの間にも亀裂が入っているようだし、今後この2人が潰し合って一方が倒れてくれれば、私が大公の座を手に入れ、ヴァルキュリアの全てを掌握することも可能になる」


カレンベルクは地図上のヨーロッパに向けていた視線を横にずらして中央アジアに向ける。

「極東方面軍の第二陣としてアジアに来ているヨーゼフ殿下もそろそろヨーロッパへ移動を始めるだろう。そうなれば、私がこの内戦で武勲を立てる機会は無かろう。なら、関わらないに限る」

この内戦はヴァルキュリアを2分し、帝国史上最大の事件になるかもしれないというのに、自分に特が無ければ動かないと言い出すカレンベルク。それどころか、もしブランデンブルクが勝利した時のことも考えてあえて動こうとしなかったのだ。





宝暦1938年5月5日。

ハプスブルク大公率いる帝都から引き連れてきた軍団24個師団、移動途中で合流した軍団合計7個師団はユダヤ属州エルサレムまで進出していた。帝都で決めた作戦ではもっと北に布陣する予定だったのだがハプスブルクの意向により南下を続けていた。

「ええい!なぜたったの7個師団しか集まらんのだ!この辺りの領主どもは一体何をしておる!」


苛立ちを募らせる大公に幕僚達は怯えた様子を見せる。

「こ、この辺りの貴族の軍団の多くは、極東方面軍に部隊を投入しているはずですので、そのためかと・・・」


「だとしても少なすぎる」


「では、直ちに帝都へ引き上げますか?」


「馬鹿を言うでない!一戦もせずに逃げられるはずがあるか!敵の戦力は最大で40個師団だったな。対するこちらは31個師団。まともにぶつかっては勝ち目はないが、敵は反乱軍だ。兵士達の中には動揺している者も多かろう。それが敵の動きを鈍らせる。我等はそこを突くのだ」


そこへ慌てながら兵士が駆け込んできた。

「ほ、報告します!南より大軍が押し寄せてきます!」


その報告にハプスブルクは仰天した。

「な、何だと!あり得ん。いくらなんでも早すぎる。もう1度確認して来い!」


この地に布陣したとして、ブランデンブルクと接触するにはまだ最低でも3日は要するだろうと予想していた。そもそも先行しているヴュルテンベルク公爵がいるのだからブランデンブルクよりも先に彼と合流していなければおかしいではないか。

「まさか、ヴュルテンベルク公が敗れたとでも言うのか・・・」

ハプスブルクは敵との接触は無いと考えて気を抜き、兵士達を町に放って生き抜きをさせていた。急いで呼び戻さねば取り返しのつかないことになる。

「今すぐ戦闘用意!町に行った奴等も全員呼び戻せ!!」


ブランデンブルクに味方した貴族が多いのか、ブランデンブルクの軍勢は偵察隊からの報告では50個師団以上はあるそうだ。

「これではとても勝負にならん!撤退!全軍、撤退だ!」


「た、大公閣下!北より敵の別働隊が現れました!このままでは我が軍は南北から挟み撃ちにされます!」


「な、何だとッ!クソッ!今すぐに撤収するぞ!」


「で、ですが、まだ未帰還の兵が大勢いますが」


「放っておけ!このままでは我等も全滅するのだぞ!」


ハプスブルクは兵を見捨てて1人で逃げる勢いで撤退を始めた。しかし、結局すぐにブランデンブルク軍に追いつかれ、交戦状態に突入した。戦いは終始ブランデンブルク軍の優勢で進み、ハプスブルクは命辛々逃げ延びるも、部隊の7割を失うという大失態を犯してしまった。その後、ハプスブルクは自力で帝都に戻ることが困難になり、しばらくは自身の安全を図って身を潜めた。

ブランデンブルクの謀反の事実は、ハプスブルク大公の大敗という結果と共にあっという間に世界中に報じられた。

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