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魔導戦記ヴァルキュリア  作者: ケントゥリオン
ブランデンブルクの乱
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決起

ヴァルハラ宮殿にて、フリードリヒ2世の下に親衛隊少将ハンスマイヤー子爵が悪い知らせを持って現れた。

「アフリカにて活動中だったSSとの交信が次々と途絶えています」


「どういうことだ?」


「北アフリカ戦線総司令部に問い合わせてみたのですが、知らぬの一点張りで」


元々SSは独立した指揮系統で動いており、その行動には謎も多い。北アフリカ戦線総司令部が彼等の異変に気づかなかったとしても何の不思議もない。フリードリヒ2世はアフリカ軍のゲリラにでも襲われたのであろう、という考えに至った。


「しかし、SSは小規模な部隊を複数アフリカに送っておりました。その彼等が次々と消息不明になっているのです。これはあまりにも怪奇ではありませんか?」


「アフリカで何か起きようとしていると言いたいのか?」


「・・・断言はしかねますが。・・・それに、アフリカについてはまた新たな噂が流れています」


「ふん。また噂如きにうろたえおって。で、どんな内容だ?」


「はい。北アフリカ戦線の各部隊が、次々と北上を始めているというのです」


「北上?そんな報告は聞いとらんぞ」


「事実を確認しようにも、現在アフリカに派遣したSSとは交信できず、アフリカ内の情報はほとんど遮断状態にあり、」


「すぐに確認させよ!」

フリードリヒ2世が怒鳴り声を上げる。

ハンスマイヤーは怯えたような声で、はい、と返事をすると逃げるようにその場から立ち去った。




どこから流れたのかは不明だが、ハンスマイヤーの言った噂は事実である。現在、北アフリカ戦線は総司令官ブランデンブルクの命令で全軍北上を始めていた。北アフリカ戦線の高級将校のほぼ全員は既にブランデンブルクの謀反に賛同している。これも教皇が色々と根回しをした賜物だろう。しかし、兵士にはまだ、この北上命令が謀反の実行であるとは伝えられていない。彼等は訳も分からないまま上からの命令に従っているだけである。


ブランデンブルクは自軍の移動が予定通り進んでいるのを地図で確認して安堵する。

そこへブランデンブルク騎士団オルデンのナンバー2とも言えるラオジッツが現れた。

「閣下、アフリカ同盟との密約は成立しました。我等が勝利した暁には、地中海沿岸部以外の全ての領土を返還する代わりにとうぶんの軍事行動は控える、という内容で」


「よし。これで後ろを気にせず戦える」


「帝都から迎え撃ってくるのは、おそらくヴァレンシュタイン公爵となるでしょう。ヴァルキュリアの双璧が相打つ形となりそうですな」


ブランデンブルクは嬉しそうに笑みを零す。

「ふふふ。そうだな。これで、ようやく奴と俺、どちらが真に最強の将軍なのかをはっきりさせられるというわけだ」


「・・・侯爵閣下、教皇聖下への使者はもうお出しになりましたか?」


「無論だ。教皇聖下を欠いてはこの謀反の大義名分が立たんからな」


「そうですな」

こんなに活き活きとした閣下は久しぶりに見た、とラオジッツは思った。これまで悩まされていたこと全てから解放された故か。それとも、あのヴァレンシュタイン公と本気で戦えることが嬉しいのだろうか。

「それで、進軍ルートはどうなさいますか?陸路を通っていきますか?それとも1度地中海に出て海路から行きますか?」


「両方だ。我等本隊はまずエジプト属州カイロに迎い、敵の注意を引き付ける。その隙に別働隊を海から攻め込ませる。地中海艦隊は今は大西洋にいる故、1度注意をこちらに向けてしまえば、別働隊は楽にコンスタンティノープルに近づけるはずだ」


「なるほど。それは良いお考えです」




ブランデンブルクが帝都に迫ってくる、という噂はますますヨーロッパ中に広まった。

事実確認をしようにも、アフリカに派遣した部隊はほとんどが未帰還なのだから、確かめようがない。

フリードリヒ2世は現在帝都にいる選帝侯を集めて緊急会議を開いた。

とはいえ、急なこともあって、集まった選帝侯はジグマリンゲン侯爵、ハプスブルク大公、ヴュルテンベルク公爵、そしてラルフの4人だけである。

聖界諸侯は全員が教皇の呼び出しを受けて不在であり、カレンベルク侯爵は極東に、ヴィッテルスバッハ侯爵はマダガスカルに、ボヘミア公爵は自身の領地に行っているためだ。

会議が始まって早々ジグマリンゲンがブランデンブルクの謀反を訴えた。

「これ等の情報だけでも、ブランデンブルクが帝国に反旗を翻したのは明白です!皇帝陛下、すぐにも討伐軍を!」


ジグマリンゲンの言葉に珍しくラルフが自分から口を開く。

「以前にも申しましたが、そのようなことは!」


「無い、と断言できますかな?この状況は明らかに異常です。討伐軍が駄目とあらば、せめて調査のために軍勢を派遣することを提案致します」


ジグマリンゲンの提案にヴュルテンベルクが賛同する。

「それが良いでしょう。妙な噂のおかげで皆が疑心暗鬼になっていますからな。それは急いで取り払った方がいい」

ヴュルテンベルクはずっとブランデンブルクを毛嫌いしており、これを機に追い落とせれば、と考えていた。

「なんでしたら、その調査隊の指揮はこのヴュルテンベルクが引き受けましょう」


「・・・では、貴公に命じる。10個師団を率いて、アフリカへ向かえ」


「ヤー,オイレ・マイエステート!」


皇帝からの勅命が下った。これでフリードリヒ2世がブランデンブルク謀反の噂を信じたのだと誰もが思ったに違いない。

ハプスブルクは急な事態に備えてすぐに動けるよう用意をした方がいいと主張した。

会議はもうブランデンブルクが謀反を起こしたことを前提に話が進められていく。彼のことを唯一信じているラルフももう皆を抑えられないとずっと黙っている。

会議も終盤に差し掛かると、フリードリヒ2世がラルフに声を掛けた。

「ヴァレンシュタイン公よ。もし、ブランデンブルクめと戦争をするとなれば、あやつに勝てるのは貴公だけであろう。もしもの時は頼んだぞ」


「・・・御意。ただ、1つお願いが御座います。もしもブランデンブルク侯が謀反を起こしていた時は、ブランデンブルク侯討伐の指揮権を全て私に預けていただきとう御座います。無論、参謀本部には私の命に従っていただきたい」


ラルフの要求にハプスブルクは機嫌を損ねる。言わばラルフの要求は本来の上下関係を逆にしてほしいと言っているようなものだからだ。普通に考えれば、上の方は不愉快だろう。

「これを機に参謀本部の指揮権を掌握しようとの考えか、ヴァレンシュタイン公爵よ」


「大公閣下、そうではありません。私もブランデンブルク侯も武人です。それ故に避けられない戦いとなれば、私は持ち得る力を全て出し切って戦いきりたいのです」


フリードリヒ2世はラルフを興味深げに見る。ラルフが人に何か要求する時は常に何らかの利害が絡んでいる。個人的な欲というものを見せないからだ。しかし、今のラルフは自分の気持ちに、欲に正直になっている。はじめて見る一面だ、と感じた。

「ふふふ。よかろう。ハプスブルク大公、そういうことだ。いざと言う時にはヴァレンシュタイン公の指揮下に入れ」


「なッ!・・・や、ヤー,オイレ・マイエステート」

不満を抱えつつもハプスブルクはラルフの要求を受け入れた。


会議は参加者がいつもより少ないこともあってか順調に進んだ。

会議が終わって、ラルフは自分の邸に戻る。

邸にはつい先ほどブリタニアから到着したばかりのユリアの姿があった。

「どうした?妙に老け込んだ顔をしているな。せっかくの美貌が台無しだぞ」

数日ぶりにあって真っ先に言われた台詞がこれだが、ラルフは特に怒る様子もない。

「ちょっとな」


「何だ悩み事か?」


「まあ、そんなところだ」


「何でもできる天才美男子のお前にもそんなものがあるのか」


「人を何だと思っている?・・・そんなことよりも明日から戦の用意をするよう皆に伝えておけ」


「ということはやはり、ブランデンブルク侯爵は謀反を」


「まだ分からない。だが、念には念をだ」


ラルフは部下の1人をブリタニアの代理総督として派遣し、ヴァレンシュタイン騎士団オルデンを帝都に呼び寄せていた。

北アフリカ戦線に動員されている戦力は全てで40個師団。そして今、帝都に集まっている戦力は48個師団。数の上ではラルフの側に分がある。しかし、ラルフには1つ懸念がある。教皇だ。ルートヴィヒ4世はその豊富な財力からベルリンに17個師団もの軍勢を抱えている。ルートヴィヒ4世とフリードリヒ2世の仲の悪さはもうヴァルキュリア人なら誰もが知っている事実であり、彼がこの騒ぎにどう反応するかは分からない。もしも、教皇軍がブランデンブルクに味方すれば、彼の最大戦力は57個師団となり、ラルフの戦力では太刀打ちできなくなる。

ラルフは、ブランデンブルクが謀反を起こしたとは思いたくない。彼を信じたいと心の底では思っているが、フリードリヒ2世からもしもの時は頼んだぞ、と命じられた以上、そのもしも、に備えでき得ることは全てしなくてはならない。

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