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シュタウフェンベルクの乱

爆発時、爆弾から離れた位置に移動していたシュタウフェンベルクは軽傷のみで済み、駆け込んで来る警備兵の中を通り抜けて外へ出る。そこで、待機していた同志達と合流すると、ゲフィオンに乗り込んで1個小隊程度の数でバビロンから帝都に向けて昼夜問わずの行軍を始めた。


一方、帝都では皇帝暗殺の報を聞くや、すぐに帝国予備軍司令官フロム上級大将がワルキューレの発動を宣言した。各指揮官には皇帝崩御と非常事態宣言、さらに「SSが政権奪取を目論んで皇帝陛下を暗殺した」という偽情報も流してSSの逮捕を命じた。ワルキューレは元々正規の作戦であり、兵士達も日頃訓練を行なっていた事もあってクーデターは兵達の知らぬ間にスムーズに実施された。クーデターは時間との勝負である。皇帝側が異変に気付き、対抗策を講じてくる前に先手先手を取り続け、反撃の隙を与えないまま政権を奪わなければならない。

帝国予備軍はワルキューレに則って、帝都を含むアナトリア全域の確保を迅速に行なった。


ヴァルハラ宮殿の近くにある宰相府にて政務に勤しんでいた帝国宰相ジグマリンゲンが暗殺事件の報を聞いたのは、ワルキューレが発動された15分後のことだった。

その報を聞いた途端、彼は血相を変えて席から立ち上がり声を上げた。

「陛下は本当に亡くなられたのか!?」


しかし、報告をしてきた部下も詳細な情報は得ておらずジグマリンゲンの問いには答えられなかった。

「・・・すぐに陛下の安否を確認しろ!」


「し、しかし、帝都は既にワルキューレの発令により、戒厳令が布かれ情報網のほとんどが軍によって遮断されています」


「何だと!ええい。では参謀本部に連絡を取れ」


そう彼が指示を出していると、部屋の扉の向こうから大勢のヴァルキュリア歩兵が踏み込んできた。


「無礼な!一体何の真似かッ!?」


「失礼致しました。帝国予備軍クインハイム大佐であります。ワルキューレが発令され、SSには国家転覆の容疑が掛けられました。そして、宰相閣下にも関与の疑いが出ています。事が収まるまで身柄を予備軍にて預からせて頂きます」


「何じゃと!国家転覆への関与?馬鹿馬鹿しい!」

皇帝に忠誠を誓っているジグマリンゲンには、国家転覆への関与などまったく身に覚えのないことだ。そんな疑いを掛けた方こそこの事態を利用して私を追い落とそうと目論んでいるのではないか。ジグマリンゲンは自分の無実を訴えるが、クインハイムはそれを一切聞き付けようとはしない。

「恐れながら、ワルキューレは皇帝陛下が定められた命令です。これに逆らうのは陛下への反逆行為にも等しき所業ですぞ」


「クッ!止むを得んか・・・」

ジグマリンゲンは屈し、大人しく予備軍の指示に従った。このように皇帝と関わりの深い有力貴族は根こそぎ何かと理由を付けて身柄を拘束していった。皆、ワルキューレ作戦という建前がある以上、逆らう事ができず渋々これに従うしかなく、クーデターは順調に進んでいた。


しかし、参謀本部にいたハプスブルク大公は彼自身が皇帝崩御の確認を行なうまではワルキューレには従えないと予備軍の指示に従おうとしなかった。ハプスブルクはジグマリンゲンと並ぶ帝都における皇帝の要であり、クーデター派としては絶対に身柄を確保しておきたい人物だったが、現場指揮官のレーマー少佐は実力行使も辞さない姿勢を見せるも、ハプスブルクも参謀本部直轄の憲兵隊を招集した。

非常事態宣言が発令されたこの状況で、帝都内に混乱を作るのは得策ではないとレーマーは諦めて退き上げた。レーマーはクーデターの事は何も知らず、クーデター派にとってハプスブルクの確保が如何に重要かなど知る由もなかった。ハプスブルクの身柄確保に、同志でもない者を向かわせたのはクーデター派にとって失敗だったと言う他ないだろう。この1つの失敗が、後に大きな影響をもたらすことになる。



帝国予備軍本部にいるフロム上級大将とクーデター派将校たちは各地から寄せられる情報と報告の整理に追われていた。

「軍港の確保及び封鎖は完了したとの報告が入りました」


「アナトリアの主要道路は全て封鎖致しました。これで帝都周辺は完全に我々のものです」


「帝都にいるSS高官の8割は逮捕に成功しましたが、1割は逃亡を図ったために射殺し、残る1割は逃亡したとの事です」


最後の報告にフロムは眉を顰めた。

「すぐに見つけ出せ」

皇帝派のまとめ役になりかねないSS高官は早い内に全て刈り取っておかねば今後何らかの火種になりかねない。そう考えるフロムはSSの処理に必要以上に固執した。もっとも、これは皇帝子飼いのエリート部隊としての側面を持つSSの高官達が、それを理由に階級が自分よりも低いにも関わらず偉そうにして自分を見下してきた事への恨みが後押しをしたのも要因であったが。


「それと閣下。先程、シュヴァーベン侯が教皇聖下への使者として出立しました。これで教皇聖下と我等にとって操り易い皇子をうまく次期皇帝に出来れば政権奪取が名実ともに成功します」


「これでヴァルキュリアもフリードリヒの悪政から解き放たれる。その日も近いぞ!」




皇帝崩御の報は、ワルキューレを発令した帝国予備軍によって属州総督府や各地の戦線司令部に伝えられた。アフリカ戦線のブランデンブルクは、この報を聞くと全ての作戦行動の停止と全部隊の一時後退を命じた。

部下達の前では取り乱す素振りも見せずに普段通り振る舞うブランデンブルクだが、彼の心中は複雑である。ブランデンブルクは今かつてロートリンゲン大司教が自分に言った言葉を思い出していた。

「聖下は、もし皇帝に不慮の事態あらば貴公に帝国宰相を任せたいと仰せです」

皇帝さえ死ねば、私のアフリカ大陸南半分への領地替えも白紙になる。帝国宰相としてヴァルキュリアの政権を事実上握る事ができる。皇帝さえ死ねば。そんな期待が彼の脳裏を過る。

一方で皇帝に忠誠を誓った身である自分がそんな主君の死を喜ぶなどあってはならない、と彼の良心がその期待に制止を掛ける。

自室に入って1人になると、ブランデンブルクは壁に片手を付き、もう片方の手で頭を抱える。

「私は一体どうすればいいのだ・・・。教皇聖下の話に乗るか。皇帝陛下へ忠誠を尽くすか」

皇帝か教皇か、その2つの間で葛藤するブランデンブルク。彼は今、おそらく人生で最大の選択を迫られている思いであろう。

そんな彼の頭にふとラルフの顔が浮かび、こう思った。ヴァレンシュタインであれば、どちらを選らんだであろうか、と。




ブリタニア属州ロンドン帝国都市シュロースの総督府にいるラルフにも皇帝崩御の報が届く。

ラルフは副官のフルンツベルク中尉から渡された紙に目を通すと小さく笑みを零す。中身を知らないフルンツベルクが何が書かれていたのかを聞くと、ラルフは取り乱す様子も死を悼む様子も無く至って普通に答える。

「皇帝陛下がテロリストに命を奪われ、ワルキューレが発動したそうだ。それでヴァルキュリア軍全軍の命令系統は皇帝軍帝国予備軍が一時的に掌握する事になった」


落ち着いているラルフとは、間逆にフルンツベルクは一瞬ラルフの言葉が理解できず反応が一歩遅れはしたが大声を上げて驚いた。

「へ、へ、陛下が暗殺されたですとッ!!」


「声が大きいぞ」

フルンツベルクの慌てようが面白かったのか、うっすら笑顔を浮かべながら注意をするラルフ。


「し、失礼しました。しかし、なぜ閣下はそれほど落ち着いていられるのですか?これはヴァルキュリアの存亡にも関わる一大事ですよ」


「人はいずれ死ぬ。早いか遅いか、それだけの違いだ。誰が死のうと、騒ぐ必要がどこにある?」


「・・・」

ラルフの妙な説得力のせいか、正論を言っているようにフルンツベルクには聞こえたが、よくよく内容を確認してみるととても正論とは言えない気がする。正論と言うよりは単なる戯言だ。いやそもそも、これが正論かどうかなど今はどうでもいい。

「それよりも閣下!今、帝都の方はどうなっているのですか!」


「ワルキューレ発動により、皇帝軍帝国予備軍が帝都を含むアナトリア全域を掌握したらしい。とはいえ、今は圧倒的に情報が不足している。すぐに正確な情報の収集を行なってくれ」


「ヤー,マイン・ヘル」


帝都から遠く離れたこのブリタニアでは、得られる情報はたかが知れている。かと言って、この非常事態に与えられた情報を無条件に信じるほどラルフも楽な人生を歩んではいない。できる限り情報を揃えて真実を見極めるまでは下手に動かない方がいい、とラルフは考え、大きな動きを見せる事はなかった。

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