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皇帝暗殺事件

アウグスブルク事件以後、ルートヴィヒ4世はフリードリヒ2世の口添えで地位を得た聖職者の排除に乗り出した。何かと口実を作ればその聖職者を追いやり、後任に自分の子飼いの聖職者を当てた。さらに帝国中にある教皇領に分散配置されている教皇軍をゲルマニア属州に集結させるといった軍事行動も見せた。


対するフリードリヒ2世は事件直後という事もあって、すぐに行動を起こす事はしなかった。それよりも今、フリードリヒ2世が力を注いでいたのが休戦状態にあるアジアの征服事業だった。来たる教皇との争いに備えてアジアの豊富な資源を手中に収めたかったのだ。ゲルマニア属州付近に展開させていた第1皇子ヨーゼフ率いる皇帝軍を帝都にまで呼び戻し、自身は西アジア・バビロニア属州バビロン帝国都市シュロースに設置した皇帝大本営へと移動。皇帝自らアジア征服に動き出す構えを見せた。

ジグマリンゲンなどは、これではベルリンへの備えが薄くなり危険だと主張するも、フリードリヒ2世は欧州はジグマリンゲンとハプスブルクに任せると言って聞き入れなかった。



フリードリヒ2世がバビロン皇帝大本営に到着していた頃、アフリカ戦線で戦うブランデンブルクの下に教皇の密命を受けてロートリンゲン大司教が訪れていた。この頃のブランデンブルクはアフリカでも有数の港湾都市ラゴスを占拠し、中部アフリカへの侵攻を始めようとしている状況だった。これまでのアフリカ戦線の膠着状態が嘘に思えるほどの快進撃をブランデンブルクは見せている。

「戦況は優勢との事、安堵致しました」


「そんな事より、今日は何の用があってわざわざこんな戦場に大司教殿が来られたのか?」


「貴公は今の欧州の状況をどう見ますか?国内は荒れているというのに、皇帝はあくまでこのユーラシア制覇に拘り、臣下に己の職務を任せて自身はアジアへと行ってしまった」


「・・・」


「あのような方は皇帝の器と思いますかな?あなたも被害者のはずです。侯爵が連戦連勝を繰り返すことにフリードリヒは図の乗り、アフリカ戦線に配備されていた部隊の1部をアジアへと転戦させました。おかげで貴公は以前よりも少ない戦力での作戦を余儀なくされ不満が募っている事と思いますが」


ロートリンゲン大司教の言う事は正しい、とブランデンブルクは内心では思っても、それを口にはしなかった。彼自身もフリードリヒ2世のやり方に不満が募ってきているのだ。

「で、そんな悪口を言いに来られたのですか?」


「いえいえ、今日は教皇聖下よりの御言葉を預かってきたのです。聖下は、もし皇帝に不慮の事態あらば貴公に帝国宰相を任せたいと仰せです」


帝国宰相を?とブランデンブルクは首を傾げる。宰相の任免権は皇帝にあるのであって、教皇にはないはずであり、身の程知らずも甚だしい。まして、皇帝に不慮の事態あらば、とは口にする事すら不敬である。ブランデンブルクは自分を馬鹿にするなと機嫌を悪くする。


「しかしながら、ブランデンブルク侯はある人物からクーデターの誘いを受けているのはずです」


「仮にそうだったとしたら、どうだと言うのだ?」


「だとすれば、今の今まで侯爵閣下はその者を野放しにして、皇帝への反逆の芽を意図的に残した事になりますな。これがSSに知れれば、ブランデンブルク侯のお立場も危うくなるやもしれません」


「バカな。つまらぬ者の戯言の1つや2つで、反逆の芽とは。神に仕える聖職者とは思えない、心の狭さですな」


「ふふふ。我々はともかく、皇帝はどう思いますかな?」


「・・・」

ブランデンブルクは反論したくてもできなかった。今の自分はフリードリヒ2世から信頼されていない。この事が皇帝の耳に入ったら、そんな漠然とした不安が一挙にブランデンブルクの脳内を駆け抜けた。それと同時に自分を見ながらほくそ笑むロートリンゲンを見て彼は1つの結論に達した。

「き、貴様、嵌めおったな・・・」


「何の事ですかな?」


「くッ!・・・もう用は済んだであろう!帰ってくれッ!私は忙しいのだ!」

ブランデンブルクはこの時、自分達が崖っぷちにまで追い込まれようとしている事に気付いた。そして、自分の身を守るためには、自分をこんな状況へ追いやった教皇ルートヴィヒ4世の助力が必要だということも。




宝暦1938年4月5日。

教皇の策謀とは知らずに帝都コンスタンティノープルにて、クーデターの準備を進める皇帝軍帝国予備軍参謀長ヴァルター・フォン・シュタウフェンベルク准将は計画の第一歩がこの日人知れず実施された。

彼は、ワルキューレ作戦の修正案を上官であり同志である帝国予備軍司令官フロム上級大将に提出した。

内容を確認したフロムの反応は悪くはなかった。

「表向きは、帝都を含むアナトリア全域の即時安全確保。これで問題は無かろう。後は参謀本部と皇帝の承認を得られれば修正案は採用される。だが、問題はまだまだある。ワルキューレの発動には皇帝崩御が最も簡単な発動条件だ」


「皇帝暗殺の任は私が引き受けます。爆弾を使おうと思っています」


「しかし、奴は用心深いぞ。それに彼の身辺はSSが完璧に守っている」


「近く私は皇帝の計らいで少将への昇進が決まり、皇帝大本営への出頭も命じられています。これを利用し、爆弾を持ってフリードリヒの目の前まで行き爆発させるのです」


「な!刺し違えるつもりなのか!」


「そのぐらいの覚悟が無ければ救国などできはしません」


名門出身で、若く有能なシュタウフェンベルクはフリードリヒ2世の目にも止まり、彼もシュタウフェンベルクの才能を高く評価していた。倒すべき敵に気に入られた事が功を奏し、この暗殺計画が実行可能になったのだ。




宝暦1938年4月9日。

シュタウフェンベルクを初め大勢の将官達が続々とバビロン皇帝大本営に集結していた。バビロン帝国都市シュロースの中心部にある総督府の一角に大本営は設置されている。総督府は、他の属州のものとは大差ない宮殿様式だが、あちこちに軍服姿の将官がいるのでまるで帝都にいるように見える。シュタウフェンベルクは係の案内に従って皇帝の下へと向かう。

今、フリードリヒ2世は大本営の会議室にて作戦会議を行なっている。と言っても、会議開始は明日であり今日は皇帝が私的に開いているものでしかない。

シュタウフェンベルクが会議室に入ると、室内にはフリードリヒ2世の怒鳴り声が鳴り響いており、彼が入ってきた事に誰も気付かなかった。彼自身も声を掛けるタイミングを見失ってしばらく出入り口の前で待機していた。しばらくすると、将軍の1人がシュタウフェンベルクに気付き、誰だ?と聞く。

シュタウフェンベルクは右手を斜め上に上げて「シュタウフェンベルク少将であります!」と答えた。

そして、ようやく彼の存在に気付いたフリードリヒ2世は不機嫌そうな顔を一転させ「よく来てくれた少将」と声を掛ける。

「貴公ほどの逸材がいてくれれば、アジア征服もそう遠い話ではなかろう」


「勿体無き御言葉に御座います、皇帝陛下」


ここに集まっているのは、皇帝子飼いの将軍達である。クーデターを円滑に進めるためにはフリードリヒ2世と一緒に彼等も纏めて始末した方が良いだろう。それがシュタウフェンベルクの考えだった。作戦決行の明日の会議は、今いるこの会議室で実施されるらしい。この機会を利用して部屋の構造等はできるだけチェックしておこうと、彼は会議の話を聞きながら周囲に視線を巡らせる。




翌日午後1時、大勢の将軍達が会議室に集まり、作戦会議が開催された。シュタウフェンベルクは爆弾の仕掛けに戸惑ってしまって会議出席に少し遅れ、彼が会議室に入った時には既に会議が始まっていた。

皇帝と将軍達はアジアの地図を囲みながら今の状況を確認しており、皇帝幕僚の1人であるブラント大佐が棒で地図を指して説明を行なっている。

「極東方面軍は、シベリアの北部、蒙古の中部、そしてインドの南部主に3ヶ所に主力部隊を展開させています。中部戦線には第二陣として既にヨーゼフ殿下指揮下の10個師団が展開しており、開戦のタイミングを窺っております」


将軍達よりも一段床が高い場所の椅子に座るフリードリヒ2世が口を開く。

「で、唐の情勢は?」


「カレンベルク侯の扇動で、各地の旧王朝派や新体制で失脚した貴族などが地方で反乱を起こしており、その討伐に唐政府は手を焼いているそうです。さらに、秦王朝の皇族と有力貴族の亡命を受け入れ、彼等に亡命政権を発足させる手筈も整えているとの事です。これで我が国は、クーデター政権を打ち破って秦王朝を復興させるという大義名分が得られました」


「流石にカレンベルクは抜け目がないな。そこまで用意を進めておったか」


アジアの状況はヴァルキュリアの有利に運んでいるとあって、会議室は和やかな雰囲気に包まれていた。そんな中、シュタウフェンベルクは誰にも気付かれないようにさり気無く爆弾入りの鞄を机の下に置く。



午後1時12分、会議室を激しい爆音と共に爆煙と炎が包み込んだ。この一部屋で起きた爆発が、ヴァルキュリアにとって長い長い一日の始まりとなった。

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