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ワルキューレ作戦

アウグスブルク事件以降、欧州の情勢は一見平穏だが、非常に緊迫した状況下に置かれていた。

ルートヴィヒ4世の側に付いて皇帝の廃位と破門を支持した諸侯等は、いつフリードリヒ2世の粛清の手が伸びるのかと脅えながら日々を過ごしている。

その1人であるザクセン公爵は、助力を求めて自分と同じく宮廷では微妙な立場に立たされているアフリカ戦線のブランデンブルク侯爵の下へと密かに訪れた。

「このままでは、皇帝は教皇を排し、帝国を我が物顔で支配する世となるでしょう!そうなれば、いずれ皇帝の意に沿わぬ者は次々と粛清の憂き目に会う」


「ザクセン公、少し落ち着いてくれ。まだ粛清があると決まったわけではなかろうて」


「いいえ!あの征服帝の事です!必ずややります!そして、我等の身も危険に晒されるのです。どうか我等と共に立ち上がっては下さりませんか?」


ザクセンの言葉にブランデンブルクは驚いた。それはつまり自分と一緒にフリードリヒ2世打倒のために動いてくれと言っているように聞こえたからだ。勘違いのないようにブランデンブルクはもう1度聞き直す。

「それはどういう意味だ、ザクセン公よ」


「無論、我等と皇帝を打って頂きたいのです」


「ッ!ば、馬鹿な事を申すな!」


「既に計画の算段は着いております。あとは閣下のご協力さえ頂ければ完璧でしょう」


「・・・この話は聞かなかった事にするぞ」

ブランデンブルクはザクセンの必死の説得に応じようとはしなかった。結局、ザクセンはブランデンブルクを仲間に引き入れるのは諦めて帝都への帰路に着いた。




コンスタンティノープルの港へと入り、帝都に戻ったザクセンを出迎えたのは24歳の若い将校だった。背が高く、凛々しい風格を持つ彼はまるでヴァルキュリア軍人と鑑のようだった。彼の名はヴァルター・フォン・シュタウフェンベルク大佐。参謀本部軍務局参謀長を務める秀才で、伯爵家の若き当主でもある。その才覚と家柄で若くして大佐にまで出世した。彼もまた皇帝打倒を目指すザクセンの同志であった。

「閣下、ブランデンブルク侯は如何でしたか?」


「まったくダメだ。余程征服帝が恐ろしいと見える。で、そちらの首尾は?」


「シュヴァーベン侯が教皇聖下と接触を図り、今交渉中です。それとフロム上級大将の計らいで私は皇帝軍帝国予備軍参謀長への転属と准将への昇進が決まりました」


「では、後はシュヴァーベン次第というわけか」


ザクセンは、アウグスブルク事件で教皇の側に付いた諸侯と手を結んでクーデターを起こそうと画策していた。そこへ表には出さないが、熱心なノルド教信者であるフォン・シュタウフェンベルク大佐が接近し、具体的なクーデター計画案を持ち込んだのだ。

そのクーデター計画とは、参謀本部の立案した帝国予備軍の集結・動員に関する命令「ワルキューレ作戦」を利用したものだった。シュタウフェンベルクはこのワルキューレに修正を加えて内乱鎮圧用の作戦へと変え、この命令が発動した際には帝都とその周辺の主要施設全てを確保できるようにした。

そして、フリードリヒ2世を暗殺し、その後ワルキューレを発動すれば簡単に帝都を手中に収めることができるという計画だ。


「それで大佐。カリンシア子爵は協力を約束したか?」


「はい。万事抜かりはありません。彼の領地は帝都にも近いですから、協力を得られればクーデター時には心強い味方となりましょう」




その頃、シュタウフェンベルク等の同志シュヴァーベン侯がベルリンへと訪れて教皇に謁見していた。

シュヴァーベンはルートヴィヒ4世にクーデター計画の詳細を説明して協力を求める。

「この計画が成功した暁には、聖下の名の下に新皇帝を選出して頂きとう御座います」


「話は分かった。成功の見込みがあると言うのであれば私も協力しよう」


「ありがとう御座います!必ずやフリードリヒの息の根を止めて御覧に入れます!」

教皇の協力を得られて意気揚々とするシュヴァーベンだが、横からクザーヌス枢機卿が声を発する。

「恐れながら教皇聖下。聖下の御役目はクーデターの成功後になりますので、クーデターへの協力は成功後までは一切しない方が良いかと」


クザーヌスの案を聞いたルートヴィヒ4世はたしかにな、と呟く。

「シュヴァーベン侯よ、そういう事で頼む」


「しょ、承知致しました、教皇聖下」

全面的な協力は得られなかったものの、必要な分の成果はあった。役目は十分果たせたとシュヴァーベンは満足して帰路に着いた。

シュヴァーベンが部屋を後にするのを見届けると、ルートヴィヒ4世はシュヴァーベンを嘲笑うかのような笑みを見せた。

「ふふふ。シュタウフェンベルクはうまくやったようだな」


「そのようです。教皇聖下の計画に従えばブランデンブルク侯も、クーデターに従うはずですが、彼等はうまく説得できるでしょうか?」


「まあ、まだ早いだろうな。あやつはシュタウフェンベルクが失敗した時の保険だ」


「なるほど、流石は教皇聖下です」

そう言ってクザーヌスは一礼して敬意を払う。

シュタウフェンベルクの出したクーデター計画は、元々はルートヴィヒ4世が考えたものだった。それを幾多の司教を通して有能かつ熱心なノルド教信者であるシュタウフェンベルクの下へと持ち込んだのだ。そのため、シュタウフェンブルク自身も自分が教皇の掌の上で踊っているという自覚はない。例えクーデターが失敗してもルートヴィヒ4世の身に危害が及ぶことはない。それにルートヴィヒ4世にはこのクーデターが成功する必要はない。彼の目的はフリードリヒ2世と臣下の間に亀裂を生じさせ、ブランデンブルクに反乱を促すためである。国内で不穏分子が活動を起こせば、フリードリヒ2世は強権を持って事態の処理に当たるしかなくなる。そうなれば、臣下は皇帝を恐怖し、それは次第に皇帝への不信感へと変わっていくだろう。

ただでさえ、アウグスブルク事件で皇帝の権威は低下の傾向にあり、あと数手加えればフリードリヒ2世の政権は脆く崩れ去るに違いない。

ルートヴィヒ4世の魔の手は、確実にフリードリヒ2世の喉元目掛けて剣を突き立てようとしていた。

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