悪魔伯爵クールラント
宝暦1937年12月17日。
北部侵攻司令官を任せられたクールラントは、3個師団の戦力で構成されたクールラント軍団で、5個師団のブリタニア軍を相手に優位に戦い、今まさに包囲殲滅しようとしていた。
「敵軍より降伏の信号弾が上がりました」
幕僚の1人が司令部からブリタニア軍の打ち上げた降伏を示す信号弾を確認しクールラントに報告した。
だが、クールラントは無視しろ、とだけ告げた。
「で、ですが、閣下、」
「帝国と帝室に歯向かうブリタニア軍に降伏など認めん!殲滅あるのみ!」
クールラント軍団はブリタニア軍を徹底的に攻撃して全滅させ、勝利を収めた。これこそ彼が悪魔伯爵と呼ばれる所以である。
「我が軍の大勝利です。おめでとうございます」
「ふん。これが大勝利だと?貴様の目は節穴か?敵は下賤な新兵集団だ。動きも鈍く、1度打撃を与えれば無様にも混乱に陥って後は烏合の衆。こんな敵を相手に負けるはずがなかろう!」
ブリタニア軍は西はリヴァプール、東はキングストン・アポン・ハルのラインに要塞群を構築し、徹底抗戦の構えを示していた。しかし、クールラントの策略に嵌められた一部の部隊が攻勢に出て見事に返り討ちに会ってしまった。
クールラントはシェフィールドに司令部を設置して、北イングランド征服の拠点としようとした。この地はくには僅かながら魔導石鉱山もあり、ブリタニア有数の工業都市として発展してきた町である。
司令部では、クールラントが幕僚達を集めて作戦会議を開いていた。
「ブリタニアが如何に要塞を築いて守りを固めようともしょせんは急ごしらえの脆弱なものに過ぎん!一気に攻めて全て破壊するのだ!」
幕僚達が一斉に「ヤー,マイン・ヘル!」と返事をした。
「ロンメルは怒涛の勢いでウェールズを征服しているようだからな。私ものんびりはしておれん」
クールラントは名門貴族の出であり、平民出身のロンメルには対抗意識のようなものを持っていた。と言っても、仲が悪いわけではない。お互いに相手を優秀な将軍と認めており、2人でよくチェスやトランプを楽しんだりと友好的な関係を築いてはいるが、クールラントの名門出身というプライドがロンメルへの対抗意識を燃え滾らせていたのだ。
「そういえば、兵達は占領地から略奪などしていないだろうな?ヴァレンシュタイン公の命で略奪をした者は斬首刑と決まっていたが」
「そ、それが、3名ほど、出ていると聞いております。皆、まだ実戦経験の浅い者達とのことで、今回は赦免なさってはどうでしょう?」
「馬鹿を申すな!」
「も、申し訳御座いません」
全てを威圧するかのような顔立ちと叫び声に幕僚は震え上がった。
「公爵閣下の名に傷を付けた愚か者に生きる資格など無い!略奪はならぬとあれ程言ったというに!」
従来の兵士は、占領した現地や領主などから金品や食料を奪い取ったり、住民を攫って奴隷にするなどが報酬となっていた。しかし、ラルフはこれでは占領地の住民の信頼は得られないとして軍税システムを思い付いた。これは略奪をしない代わりに税金という形で収入を得て兵士への報酬とするもので、占領地の領主や住民にとって背負う負担は一緒だが、住民を奴隷にされたり、生活に必要最低限の食料まで奪われたり、土地を略奪で荒らされない等の利点があり、ヴァルキュリアとしても安全に安定した収入が得られた。現在では、皇帝のお墨付きを得て採用する貴族も増えており、高評価を集めているが、中々兵士1人1人にまで浸透していかないという問題点もある。
宝暦1937年12月21日。
帝都コンスタンティノープルのヴァルハラ宮殿にいるフリードリヒ2世はハプスブルク大公よりブリタニア本土の戦況報告を受けた。
「ブリタニア人の抵抗は予想よりも脆く、戦線を北へと移しております。それに合わせてヴァレンシュタイン公も司令部をロンドンからストーク・オン・トレントに移動させたようです」
報告を聞いたフリードリヒ2世は満足気な笑みを見せる。
「宜しい。流石はヴァレンシュタイン公だな。で、補給の方は大丈夫なのか?」
「御心配には及びません。補給路は北海艦隊とバルト海艦隊で固めております。それと25日にはティリー騎士団を中心とした第二次上陸部隊が到着します」
「ふん。クリスマスの日になるか。なら、ヴァレンシュタイン公にはもっと良いクリスマスプレゼントを贈ってやるとしよう。第二次上陸部隊には皇帝軍の中から3個師団を追加しておくってやれ」
「ヤー,オイレ・マイエステート。では私はこれにて」
ハプスブルク大公が退室しようと後ろに振り返ると、フリードリヒ2世が思い出したようにハプスブルクを呼び止めた。
「ああ。そういえば、ネルソンのブリタニア艦隊だが、所在は掴んでいるのか?」
「アメリカ軍の軍港にいるとの情報は得ていますが、具体的にどの軍港なのかは調査中であります」
フリードリヒ2世は血相を変えて玉座から立ち上がる。
「すぐに探し出せ!いいか、奴の所在は常に把握しておくのだ!」
ネルソンをフリードリヒ2世がどれだけ警戒しているかがよく分かる。しかし、それも無理のないは話だ。ネルソンはこれまでブリタニアへの本土侵攻を阻んできたばかりか北大西洋におけるヴァルキュリア海軍の動きも邪魔し続けていた。いくら強力な装甲艦隊を多数揃えたと言っても安心は決してできない。
征服帝の怒鳴り声にも動じず、ハプスブルク大公は「ヤー,オイレ・マイエステート」と返事をすると、思い付いたように口を開く。
「インド洋艦隊も呼び寄せて、ブリタニア艦隊と決戦に及びましょうか?これを機にネルソンの息の根を止めるのも良いかと」
フリードリヒ2世は玉座に座ると、顎に手を当てて少し考える。
「いや。インド洋艦隊は太平洋への備えのためにも動かさぬ方が良かろう。それよりもインド洋艦隊にはブリタニア領マダガスカル島の攻略を実施させろ」
マダガスカルは西インド洋や東アフリカに睨みがきかせられる戦略的に重要な島である。これまでにヴァルキュリアも幾度か攻略を試みたが、アフリカ・ブリタニア連合軍の前に撤退を余儀なくされていた。
マダガスカルには今だブリタニア海軍インド洋艦隊が駐留しているが、本土が攻撃を受けて艦隊の水夫達の士気は大きく低下しているだろう。装甲艦の配備も進んだ今ならマダガスカル島も落とせるはずだ。
「では、指揮官は誰に致しましょう?」
「ヴィッテルスバッハ侯に任せよ。あやつもヴァレンシュタイン公に差を付けられて焦っておるであろうからな。必死になってマダガスカルを落とすであろう」




