補給線を断つ!
連合軍は、押し戻されようとしていたガリア戦線を、アメリカ軍の増援部隊によって補強し何とか支えているというのが現状だった。
1度勢いを止められてしまえば、地続きで補給の便が良いヴァルキュリアに地の利がある。また、肝心のガリア属州民が長いヴァルキュリアの支配に慣れてしまい、連合軍を解放軍とは見ずに、中には侵略者として見る者までいる状態で占領地域政策には細心の注意を払わねばならないという有り様だった。
この戦いは、ヴァルキュリアからガリア属州を解放する事が大義名分で始まっており、戦闘継続のためにはガリア属州民の支持が必要不可欠なのだ。
そして今、彼等が最も欲しているのはヴァルキュリアの焦土作戦によって失われた食料だ。
そのため、遠征軍総司令官アイゼンハワー元帥はアメリカ本国に対して膨大な量の食料の補給を要求した。
一方、ガリア防衛線総司令部ではまるで連合軍の動きを察知しているかのように、ラルフが連合軍の補給線を断つ必要があると主張した。
この意見を、総司令官を務める第1皇子ヨーゼフ・ゲルハルト・フォン・ヴァルキュリアは高く評価した。
「たしかに、このまま力押しというのも芸が無さ過ぎるしな」
落ち着いた雰囲気を醸し出す彼は、金髪碧眼の37歳。顎鬚を生やした端整な顔立ちをし、非常に簡素な鎧に、内側が赤で外側が黒いマントを羽織っている。彼は20代の頃はフリードリヒ2世共に様々な戦場を渡り歩き幾多の活躍をした経験を持つが最近は内務大臣として帝都に留まっている事が多かった。そのため、今回はヨーゼフにとって久しぶりの戦場となる。しかし、彼は参謀本部からの指示を的確に実行に移して総司令官として十二分な働きをしていると言える。
ラルフの提案を受け入れたヨーゼフは、参謀本部に作戦案を提出した。
これを見たハプスブルク大公は当初、艦隊戦力が整うまで海軍は温存しておきたいという思いがあったのだが、第1皇子の提案とあってはいくら大公と言っても無視するわけにはいかず、参謀本部内でもこの作戦案を支持する声が多数を占めたので早速実行する事が決まった。
宝暦1937年11月20日。
アメリカ軍の増援部隊、さらに500万人の1ヵ月分の食料を運んだ輸送船団、それを護衛する大西洋艦隊が出港した。
今回の補給は、連合軍の生命線を握る重要なものになるため、万全を期すために途中からはブリタニア艦隊も合流して護衛に付く手筈になっている。
ブリタニア艦隊も本土を出港して合流ポイントを目指して航行する。
この艦隊の指揮を執るのは、ブリタニアの英雄ネルソン提督だ。
ネルソンは旗艦ヴィクトリーの司令塔から双眼鏡で前方の海を見渡す。
「ヴァルキュリアは出てくるでしょうか?」
そう言ったのは、幕僚の1人パーカー少将。
「さてな。だが、可能性は十分にある」
ブリタニア艦隊はいつ出現してもおかしくないヴァルキュリア艦隊に警戒心を強めながら大西洋を突き進む。
そして、出港してから丸1日が経とうとしていたその時、マストの見張り員が「敵艦隊発見!」と叫んだ。
「どうしますか?まさかこんなに早く遭遇とは、」
「当初の作戦通り、輸送船と合流するか、敵艦隊の撃滅に向かうか」
幕僚達がネルソン提督に判断を仰ぐ。
腕を組んでネルソンは、敵艦隊の規模は?と問う。
「3個艦隊。おそらく、復活したヴァルキュリア軍大西洋艦隊の全戦力かと思われます」
「ならば、無視するわけにもいかん。針路を敵艦隊に向けろ!」
ブリタニア艦隊はその針路をヴァルキュリア艦隊に向けて、各艦では戦闘用意が慌ただしく始まった。
ヴァルキュリア艦隊の方にブリタニア艦隊の存在に気付いたらしく、僅かに遅れてではあるが針路を変えて戦闘用意に入った。
そして、両軍は正面から衝突し、激しい砲撃戦が繰り広げられた。
ブリタニア艦隊は2個艦隊、ヴァルキュリア艦隊は3個艦隊と数の上ではヴァルキュリアの方に分がある。
しかし、ブリタニア艦隊は兵士達の士気・練度が高く、統制の取れた動きで高い機動力を発揮して数で勝る敵と五分五分に戦っている。
ネルソン提督は敵味方の艦隊の距離を縮め、射程は短いが威力に秀でたメルビル砲で次々とヴァルキュリアの軍艦を近距離で仕留める。さらに、そのまま乱戦に持ち込んで、質で勝るブリタニア軍はヴァルキュリアの軍艦を個々に撃沈していく。
戦闘開始から約3時間半が経過した頃、ヴァルキュリア艦隊は6割以上が海の藻屑となって、残りは命辛々撤退していった。
いつも通りの鮮やかな勝利にパーカーなどの幕僚は喝采の声を上げる。
「おめでとうございます提督!」
「やりましたなッ」
「ヴァルキュリアもブリタニアの力を思い知ったことでしょう!」
ブリタニア艦隊が勝利に浮かれてアメリカ艦隊との合流ポイントに到着すると、一気に天地がひっくり返るような衝撃をネルソン以下ブリタニア艦隊の将兵達を襲った。
そこにあったのは、戦闘で傷ついた軍艦数隻のみで、護衛艦隊も輸送船団の姿もどこにもなかった。
そして、旗艦ヴィクトリーに大西洋艦隊司令官マイク・ミッチャー大将が乗艦した。ミッチャーはネルソンとは海軍学校時代の学友の間柄で、両者は久しぶりの再会を喜ぶもすぐに本題へと移る。
「一体何があった?」
ネルソンの問いにミッチャーは、
「装甲艦隊だ。例のスールー海海戦で出たという装甲艦が100隻近くも、どこから湧いて出たのか、突然現れて艦隊も輸送船団も完膚なきまでに叩きのめされてしまった。本当に、すまん!」
ミッチャーは頭を下げて謝罪する。
ネルソンは何も言わなかった。一体、何がどうなっているのか分からず動揺していたのだ。
ヴァルキュリアが既に装甲艦を大西洋でも実戦投入していたなら、さっき倒したヴァルキュリア艦隊は一体何だったのか。考えを巡らした末、ネルソンは1つの結論に達した。
さっきの敵艦隊は、ブリタニア艦隊を足止めするためだけの捨て駒。ブリタニア艦隊とアメリカ艦隊が合流する前に輸送船団を叩く事が不可能だと判断したヴァルキュリアは足止めとしてあの艦隊をぶつけてきた。そうとしか思えない。味方を犠牲にする事が前提の作戦とは、何とも醜悪だが、完全にしてやられた。
帝都コンスタンティノープルのヴァルハラ宮殿では、アメリカ海軍大西洋艦隊を全滅させ、さらにはガリアへの補給も阻止できた事を祝して囁かではあるが、戦勝祝賀会が催された。
フリードリヒ2世を初め、ジグマリンゲン、ハプスブルク、さらに大勢の貴族が集まった。
「諸君、今回はハプスブルク大公の機転により、ガリアへの補給を阻止できただけでなく、アメリカの大西洋艦隊を葬る事に成功した!」
ハプスブルクは、装甲艦隊の配備が進みつつある地中海艦隊に出撃を命じ、さらに再建されつつあった大西洋艦隊をネルソンの予想通り足止め役として出撃させていたのだ。
それにより、ヴァルキュリアは大勝利を得ることができた。大西洋艦隊を捨て駒として用いたことを批判する者はこの場には誰一人いない。それを忘れさせるほど今回の勝利は大きかったのだ。
諸侯はワイングラスを掲げて「ヴァルキュリア万歳!」と叫ぶ。
「よいか!この勢いで大西洋の制海権を奪い取り、連合軍の補給線を断つのだ!そのためにも、ハプスブルク大公、これからも貴公の活躍に期待するぞ」
「光栄であります!皇帝万歳!」




