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魔導戦記ヴァルキュリア  作者: ケントゥリオン
知恵伊豆の一手
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太平洋の覇権

インドシナ属州・ホイアン帝国都市シュロースに帰還したラルフは休む間もなく、総督府にて忙しくしている。

失敗した南米戦線への補給をどうにかしなくてはならないからだ。

このままではブランデンブルクの南米戦線は崩壊してしまう。それを避けるためにも、ラルフは次の補給物資の手配を急いでいた。

しかし、南米戦線を支えるためには膨大な物資が必要である。それを運ぶ船団が全滅してしまったのだ。代わりを用意するのは簡単な事ではない。それをすぐに集めて南米に送り届けないとなると、帝都コンスタンティノープルに判断を仰いでいる時間はなく、遠方から物資が運ばれてくるのを待つ時間もない。

となると、近隣属州から集めるしかないが、前回も無理のない程度に集めているのでまた集めるとなると、属州民達の生活を圧迫させなねない。

この地に根を張って間もない今、属州民から憎悪を受けるような行動は何があってもできない。

「で、どうするつもりだ?」

そうラルフに聞いたのはユリア。


「どうするも何も、オセアニアに要請するしかないだろ」


「オニアニアにねえ」

中々本題に入ろうとしないユリアだが、ラルフには彼女が一体何を言いたいのか分かっていた。

日本がオセアニアに接近することをユリアは警戒しているのだ。

今回の戦いでは戦術的勝利はヴァルキュリアのものとなったが、戦略的には負けている。ここでオセアニアがヴァルキュリアと手を切れば、南米戦線はもう壊滅の道しかなくなる。

このまま行けば、ヴァルキュリアの太平洋進出は失敗に終わり、ヴァルキュリア寄りの姿勢を示した自分達は日本・アメリカから攻撃を受けてしまう危機に迫られる、とオセアニア政府は考えているかもしれない。

あの知恵伊豆のことだ。オセアニアの不安を煽ってそのまま自分達の味方に引き込むといった芸当など容易くしてみせるだろう。

「キャンベラにはクールラントを派遣した。あいつならオセアニアをこちら側に繋ぎとめてくれるだろう」




だが、ラルフの動きは後手に回ってしまった。クールラントがキャンベラに着くよりも速く、知恵伊豆こと松平政綱まつだいら まさつなはキャンベラへと赴いていた。

しかも、自分達の身をヴァルキュリアに売り渡したりしないように近海に日本・アメリカの連合艦隊まで引き連れて。


政綱はオセアニア国王ホイットロム氏と会談していた。

オセアニア王国は、21の州に分かれ、それぞれの州を治める上級貴族達によるオセアニア評議会によって統治される。評議会議長は国王が兼任するのが慣例化している。

現国王兼評議会議長のホイットロムはこれまで親ヴァルキュリアの姿勢を取ることでオセアニア王国を発展させてきた人物だが、今の太平洋の情勢を受けて今後の方針については悩んでもいた。

政綱はキャンベラに着いて早々ホイットロムとの直接交渉に乗り出した。

しかし、ホイットロムは中々色好い返事をくれずにいた。たしかに太平洋戦線でのヴァルキュリアの影響力はそれほど強いとは言えず、ここでオセアニアが日本・アメリカ側に付けば一気に戦況は動くだろう。

だが、ヴァルキュリアは長年友好的な関係にある国だ。国内にも親ヴァルキュリア派は数多く存在する。

それにまだヴァルキュリアが負けたと決まったわけではない。先のスールー海海戦では日本海軍も壊滅的打撃を被っている。

「国王陛下、我が日本ヒノモトは今、アメリカ、唐と協力して環太平洋軍事同盟『TPMA』を結成するつもりです」

TPMAとは、環太平洋軍事同盟(=Trans-Pacific Military Alliance)の略で、日本・アメリカ・唐の3ヶ国間で構想中の対ヴァルキュリア同盟である。

ここにオセアニア王国を入れることで、ヴァルキュリアに対抗する一大勢力を築くことが可能になる。


最初は政綱の話を黙って聞いていたが、TPMAの話を聞くとホイットロムは口を開く。

「しかし、唐は今だ情勢が安定せず、ヴァルキュリアの新たな極東方面軍総司令のカレンベルク侯が色々と動いていると聞いていますが。あの謀略に長けたカレンベルク侯のこと。油断はできませんでしょう」


表向きは、ヴァルキュリアと唐は休戦状態にあるが、水面下では極東方面軍総司令のカレンベルク侯が謀略を巡らせて隙有らば唐を攻め落とす構えでいた。

そのため、唐はかつてクーデターを実行し唐建国の功労者にして現宰相の姚亥ヤオ・ハイも唐国内を安定化が中々うまくいかなかった。

そして、さっきも述べたが日本艦隊はスールー海海戦での損害からとうぶんは大規模な軍事行動ができない状態にある。つまり、アジアの安定化を図るにはアメリカ・オセアニアの力に頼らざるを得ないのだ。


「日本は我がオセアニアを、自分の身を守るための道具として利用したいだけではないのですか?」


「その何が悪いのです?」


開き直ったように言って見せる政綱にホイットロムは呆れて言葉も出なかった。

こいつが本当に歴史上初ヴァルキュリア選帝侯に勝利した名将の知恵伊豆なのだろうか。


「しかし、今このままヴァルキュリアに付き従って生き残ったとして、その先に何があるのです?ヴァルキュリアはやがてオセアニアも呑み込まれ、ヴァルキュリアの辺境地となり果てるでしょう」

政綱は自分とホイットロムの間に太平洋の地図を広げた。

「対してこちらに付けば、オセアニアはTPMAの中核国、やがては太平洋の経済の中核を担う時代が来るでしょう」


「さて、そんな都合よくいくのですかな?」


「それだけではありません。今現在、南米戦線はアメリカの優勢、ブリタニア戦線はブリタニア海峡の制海権すら奪えず、アフリカ戦線、アジア戦線は膠着状態。このように、今のヴァルキュリアはあの征服帝の覇道に付いて行けず息切れを起こしているのです。ここで一気に押し込んでやればヴァルキュリアはそのまま内部から崩れ去るでしょう」


「だからと言って、ヴァルキュリアに総攻撃を掛けるだけの力を持った国はそう多くはない。あなた方も結局は息切れして終わるだけにも思えますが」

何を言ってもすぐに反論をぶつけてくるホイットロム。

これは長引きそうだ。しかし、あまり長々と交渉をしている暇はない。こうしている間にもあのヴァレンシュタイン公爵のことだ。このキャンベラに使者を派遣してくるだろう。何としても、使者が到着する前にホイットロムを味方にしなければ、またどんな邪魔をされるか知れたものではない。


「では、このまま我々がヴァルキュリアと全面戦争を繰り広げるとして、もしオセアニアがヴァルキュリアに付いたとしましょう。この地はアメリカとヴァルキュリアの激戦区となり人々は戦火に苦しむことになるでしょう。対してTPMAに入れば、オセアニアはアメリカと唐、そして我が日本を背後から支えるだけでいいので国土が戦火に見廻られることはありません」


「しかし、アメリカ・日本が敗れれば無意味では?」


「そうならないよう同盟に参加されたからには、オセアニアにも全力を尽くしてもらいます。ただ、それは逆の場合でも同じでは?ヴァルキュリアが敗れれば、結局オセアニアは我等に敵国として国土を蹂躙されるだけです。TPMAかヴァルキュリアか。今、太平洋の覇権がどちらの手に渡るか。その鍵を持つのはオセアニアです。オセアニアの働き1つで太平洋の勢力図は変わります」


オセアニアがTPMAに入れば、ヴァルキュリアは有力な貿易相手を失うことになり経済に大きな打撃を受ける。そして、TPMAの勢力基盤は盤石なものとなり太平洋の覇権はTPMAのものとなる。

逆にこのままヴァルキュリアに付けば、TPMAにとっては目の上の瘤だ。何をするにも目に付く存在になる。広大な太平洋の両側に位置する日本とアメリカは連携がうまく取れずヴァルキュリアに対して後手後手に回りかねない。


政綱とホイットロムの会談はまる1日に及んだ。交渉の末、ホイットロムはヴァルキュリアと手を切り、TPMAへの参加を決断した。

聞けばTPMAの構想は全て知恵伊豆の発案だそうだ。これまでたかだか極東の島国と侮られていた日本の指導者が今や太平洋の未来を動かそうというのだ。東シナ海海戦、蒙古戦役、スールー海海戦と知恵伊豆はヴァルキュリアを相手に互角以上の戦いを繰り広げてきた。そんな彼にホイットロムはオセアニア、さらには太平洋の命運を託した。

この決断は、今後のヴァルキュリアの太平洋戦略を大きく狂わせる事になった。

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