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ブエノスアイレスの戦い

南米を遠く離れた東南アジアのインドシナ属州では、同地に築いたホイアン帝国都市シュロースにてラルフが属州総督として活動していた。

帝都コンスタンティノープルから続く鉄道や街道の整備を進めて、それと同時にホイアンの港に造船所を建造。ラルフはこのホイアン造船所で軍艦の量産計画を実施して太平洋艦隊の創設を目指している。

ラルフの行政手腕は確かなもので、占領からまだ日も浅いというのにインドシナ属州の政治・経済の基盤をほぼ整えて、属州民の生活水準の向上まで図っていた。

ホイアンの中心部に置かれている純白の宮殿のような作りをした総督府の執務室にラルフの姿があった。デスクに付いている彼は数人の男達から報告を受けている。

「鉄道整備は順調です。もうじき本国の鉄道と繋げられるでしょう」


帝国都市シュロースの城壁もほぼ完成し、都市整備もある程度出来上がりました」


属州総督というのはかなり多忙であった。特に初代総督は属州民にしてみればヴァルキュリアは侵略者でしかないため、属州民の支持を得る事にも十二分に配慮しなければならないため高い行政手腕が求められる。政務が済むとラルフは総督府の庭園にあるテラスでロンメルと共に紅茶を飲んだ。

最初はインドシナの今後についてであったが、次第に話題は南米戦線の事に移っていった。

「南米ではブランデンブルク侯爵が激しい勢いで支配地域を広げているとか。今の勢いなら今月中には南米大陸を征服するでしょう」


ティーカップの紅茶を優雅に一口飲むと、ラルフは静かにカップをテーブルの上に置いた。

「ブランデンブルク侯は強い。私と彼が戦場で戦えば勝つのはブランデンブルク侯だろう。しかし、戦場の外で勝つのはこの私だ」


「随分と自信がお有りのようですな。流石はヴァレンシュタイン公です」


「ブランデンブルク侯は比類なき名将だ。それは疑う余地は無いだろう。しかし、その他の能力はあまり高いとは言えない。南米戦線にエリーザベト皇女殿下が行かれたのは正に正解だ。あの御方ならブランデンブルク侯の短所をうまく補ってくれるだろう」





ラルフの予想は的中していた。エリーザベトは猪突猛進的なブランデンブルクを後ろからうまくサポートし、上々の成果を上げていた。

この日もブランデンブルクは南アメリカ南部のアメリカ軍要塞の1つを陥落させた。

「いや~侯爵閣下。遂にここまで来ましたな」


「これだけやってやれば、もうアメリカ軍も大した抵抗はできますまい」


「これで南米はヴァルキュリアのものになりましたな」

これまでの連戦連勝に浮かれる将軍達。ヴァルキュリア軍の将軍というのはほとんどが贅沢な暮らしをしていた貴族出身であり、特にブランデンブルクの軍団は能力よりも身分重視の形が顕著に表れている。そのため、どこか詰めが甘かったりしている部分があった。

だが、ブランデンブルク自身は彼等とは違う。

「いいや。まだブエノスアイレスが落ちていない」


ブエノスアイレスは南アメリカの南半分では最大規模の城塞都市があり、ヴァルキュリア軍はこれを中々陥落させる事ができずにいた。幾度か攻略を試みたが全て失敗に終わっており、仕方無くブランデンブルクは他の拠点を潰していってブエノスアイレスを孤立させようと考えて現在に至る。


「あそこは今だに南米一の武力を誇って城壁の内側に立て篭もっているのだ」

油断はできない、と険しい顔をするブランデンブルクだが、他の将軍達はこのままの勢いで行けば落とせるだろうと楽観視している。




宝暦1937年9月12日。

ブランデンブルクが直接指揮を執る10個師団がブエノスアイレスに出現。元々この要塞と対峙していた包囲軍5個師団と合流して総攻撃の準備を整えた。ブランデンブルクは各部隊に対要塞戦用の大型大砲を用意して午前7時に一斉砲撃を開始させた。

激しい轟音と共に放たれた砲弾は次々と要塞の城壁に着弾し、爆発するも城壁はビクともしない。傷どころか爆発の痕スらすら無かった。

その様子を前線に立って眺めていたブランデンブルクは整然としている。

「やはりこの程度の砲撃ではダメか」


ブエノスアイレスの城壁に使われている石はただの石ではない。魔導石である。

城壁に魔導石を使用して、大勢の人間の魔力を注入することで魔導石の強度を高めて砲撃を無力化しているのだ。この魔導石を用いた城壁の技術はまだ新しいものであり、採用されている要塞はそう多くはない。ちなみにヴァルキュリアの帝都コンスタンティノープルの城壁にも使われており世界最大規模を誇る。

「砲撃しつつガーディアン隊を前進させろ。ブエノスアイレス包囲網を狭めるんだ」

ゲフィオンの大軍がゆっくりと前進を始める。

そして、少し経つとブランデンブルクは無線機で全軍に総攻撃を高らかに命じた。

全てのゲフィオンは一斉に駆け足になり、ブエノスアイレスを目指す。

しかし、ヴァルキュリアの進撃を阻むべく城壁からアメリカ軍の砲弾や銃弾が襲う。

「大砲で援護しろ!ヴァルキュリアの力を見せてやれ!」

アメリカ軍の弾幕をかいくぐってヴァルキュリア軍は城壁へと迫る。その勢いは凄まじく、わずかな時間で城壁を突破してブエノスアイレス市内へと雪崩れ込んだ。


眼前に迫ったヴァルキュリア軍にアメリカ軍の兵士は慌てふためき次々と持ち場を放棄して逃げ出す。

「退くな!ここが落ちたら、もう南米はヴァルキュリアに完全に下ってしまうのだぞ!」

混乱する兵士に声を荒げるアメリカ軍の指揮官。しかし、兵士達の耳にもはや彼の声は聞こえていない。

周辺拠点を制圧されて敵中に孤立している現状で、ただでさえ士気の低い兵士達は我先にと逃げ惑う。


戦いはブランデンブルクの予想よりもかなり早く終了した。この圧勝劇にブエノスアイレスに入城したヴァルキュリア兵士は熱狂的な歓声を上げた。

今回の勝利で、南米戦線の戦局は一気にヴァルキュリアの圧倒的優勢へと加速した。

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