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平和皇女

南米侵攻を進めるヴァルキュリア軍は凄まじい勢いで支配地域を拡大していた。しかし、次第に南米諸民族との間で利害の不一致などの問題が発生して、中には武力衝突すれすれの所も存在していた。

そこで南米諸民族との仲介役を買って出たのが、マケドニア属州総督にしてヴァルキュリア第2皇女エリーザベト・カロリーネ・フォン・ヴァルキュリア。彼女は無用な争いは極力避ける努力を惜しまない、ヴァルキュリアには珍しい平和主義的な思想の持ち主である。

ヴァルキュリアの皇女という立場上、最終的な解決手段に武力を行使するのはやむを得ないが、それを必死に回避しようとするその姿勢は国際的にも高く評価されて「平和皇女」の異名で呼ばれている。


ブランデンブルク騎士団総司令部へとエリーザベトがやって来ると、彼女をブランデンブルク以下南米遠征軍の将軍達が出迎えた。

エリーザベトは今年25歳で、雪のように白い肌、絹のように綺麗な金髪のストレートヘアをした、穏やかそうな美貌をした女性だった。

彼女は総司令部へ来るなり、ブランデンブルクに軍税徴収表を見せるよう命じた。軍税とはヴァルキュリア軍が占領地域から略奪行為をすることなく現地から収入を得るために考案されたシステムで、占領地かその領主に対して略奪免除をする代わりに税金を取り立てるもの。

「ブランデンブルク侯、少々軍税の額が高過ぎるのではありませんか?」

一見、か弱そうにも見える可憐な美女のエリーザベトは力強い眼差しで猛々しい猛将に問い詰める。

徴収表を見た彼女はこれまで見てきたものに比べて徴収額が高いと感じた。


「左様な事は御座いません。住民達の生活を過剰に圧迫しないよう配慮はしています」


「では、彼等に会わせて下さい。1度話し合ってみたいのです」


「・・・承知致しました」

苦々しい表情をしたブランデンブルクは静かに頭を下げた。




翌日、ブランデンブルクはエリーザベトの命令により支配地の南米諸民族の代表団を集めた。

ここでエリーザベトは彼等がヴァルキュリアに何か要求はないか、など様々な事を話し合った。その表情は正に真剣そのもので、代表団の面々も彼女なら信頼できると感じさせられるほどだった。

そこで、代表団の中でも最年長であろう杖を持った老人はエリーザベトに軍税を減らしてほしいと要求した。

「分かりました。出来る限り手を尽くしましょう」


エリーザベトの言葉にブランデンブルクは声を上げる。

「お、御待ち下さい!左様な事をされては我が軍の軍資金がッ!」


「それでしたら私が皇帝陛下に話して何とかしてもらいます」


「異民族にそこまでしてやる義理は御座いません!我等は命懸けでこいつ等をアメリカから守るのです!多少多くの税を取り立てたとて何の文句も言われる筋合いはありません!」


ブランデンブルクの言葉にエリーザベトは声を張り上げる。

「侯爵!控えなさい!私達は彼等の住む地に押し込んだのです。守ってやるから金をよこせなどというのはあまりに横暴過ぎるとは思われませんか?」


「・・・で、ですが」


「ヴァルキュリア第2皇女エリーザベト・カロリーネ・フォン・ヴァルキュリアの名において命じます。彼等の要求を聞きなさい」


皇女に命じられてはブランデンブルクにこれを断る術はない。最終的に軍税はエリーザベトの努力によって半分近くにまで下げる事に成功した。

この話を聞き付けた、今だアメリカの勢力下もしくはどっち付かずの南米民族は我先にとヴァルキュリアの傘下に下っていき、結果としてはヴァルキュリアに多くの吉を呼び込んだ。

南アメリカ大陸における反米活動も活発になり、アメリカ軍は南アメリカ大陸に軍隊を駐留させるだけで大きな負担を負うという事態に陥った。



しかし、軍税が少な過ぎるためにどれだけ支配地域を広げても得られる収入はわずかであり、南米遠征軍の軍資金は常にギリギリのラインの状態を強いられた。

ある日、これにブランデンブルク騎士団オルデンのシュヴェッペンブルク中将が不満を漏らした。

「皇女殿下は前線で戦う我々の事などまるで考えておられない!異民族ばかり贔屓なさって」

シュヴェッペンブルク中将は伯爵家の当主でプライドの高い人物。しかもまだ27歳と若く血気盛んな所があり、海を遠く超えて辺境の南米へやって来たというのに大した収益も得られない事に不満を募らせていた。

しかし、こうした不満はシュヴェッペンブルク中将だけでなく、他の将軍達も口にしないだけで抱いていた。もちろん、ブランデンブルクもその1人である。

ブランデンブルクは立場もあってそれを声に出す事はなかったが、部下達の間にこうした不満が広がりつつあるのは好ましくない。遠征軍の士気にも影響しかねないからだ。

エリーザベトに政策の転換を求めるためにブランデンブルクは2人だけの会合の場を設けた。

「エリーザベト皇女殿下、恐れながら部下達の間に不満が広がっています。何らかの対策を講ずるべきと存じますが?」

遠まわしに言うブランデンブルクにエリーザベトは真剣な眼差しで返す。

「対策、とは具体的に何ですか?」


「もう少し軍税を徴収して皆への報酬を増やすべきです」


「その件については皇帝陛下から十分な恩賞が賜れるという事で話が着いたはずでは?それとも陛下からの恩賞だけでは不満ですか?」


「い、いえ、決してそのようなッ!しかしながら、大西洋を遠く超えてこの大陸にまで来たのです。もう少し彼等に報いてやるわけにはいきませんか?」


「ですが、南米の者達に無理を強いては我等ヴァルキュリアはただの侵略者のレッテルを貼られるのですよ。今は、ヴァルキュリアとアメリカのどちらが彼等の信頼をより得られるかが大事な時だと思います。信頼を欠いては、私達はアメリカだけでなく非力な南米諸民族まで敵に回す事になります」


「だから何なのです?逆らう者は踏み潰す。それがヴァルキュリアではありませんか!?」


「そのような野蛮な事で国が成り立つものですか!力に全てを任せるような国は、いずれ内側から崩れ醜く滅びるだけです!」

揺るがぬ信念の下、一歩も退こうとしないエリーザベトにブランデンブルクもこれ以上議論を続けようとはしなかった。

しかし、この後にエリーザベトは自分が総督を務めるマケドニア属州から生み出される莫大な富を可能な限り南米遠征軍の将軍や兵士たちに報酬として分け与えた。本来、彼女の懐に入るはずの収入も必要最低限のものを除いてほとんどが彼等の報酬に回された。ここまでして自分の信念を貫こうとするエリーザベトの姿勢にこれ以上文句を言おうとする者は現れなくなった。

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