猛獣・ブランデンブルク侯
南米侵攻を命じられたブランデンブルク侯はヴァルキュリア軍大西洋艦隊を率いて、ヨーロッパや北アフリカに近接する大西洋の複数の島々が浮かぶマカロネシアの中にあるバルラヴェント諸島辺りにまで進出していた。
艦隊の先頭に位置するウトガルズ級戦艦の艦首近くから海の向こうを眺めているブランデンブルクに兵士が報告をする。
「閣下、ここまでは予定通りです。アメリカ海軍が動いたという情報も入っておりません」
「そうか。だが、アメリカは我等が南米に向かっている事は既に知っているはずだ。周辺警戒は怠らずに続けよ」
兵士はブランデンブルクの言葉に承知しました、と答えるとヴァルキュリア式敬礼をしてその場から去った。
ブランデンブルクにとって東シナ海海戦の大敗北以来となる実戦である。次また失敗するような事があれば、彼も今のまま選帝侯の座には着いていられなくなるだろう。
ヴァルキュリアに敗北は許されない。ヴァルキュリアは常に勝って勝ち続けなければならないのだ。
一方、アメリカ連邦政府ではヴァルキュリア海軍の大西洋航海に頭を悩ませていた。
アメリカは、ヴァルキュリア艦隊の進軍目標を正確に掴んでおらず、もしヴァルキュリア海軍が予想通り南米に向かうのではなくアフリカ侵攻に向かったのであれば艦隊を出すわけにはいかない。下手に刺激してはヴァルキュリアとの外交関係を悪化させかねない。
だが、ヴァルキュリアの目標が南米と分かってからでは遅い。
アメリカ海軍長官スターク元帥は艦隊の出動を政府に要請し続けていたが、アメリカ大統領ジェファーソンがこれを拒んでいた。
「大統領閣下、このままでは南米がヴァルキュリアに奪われますぞ!」
「だが、下手に動いてはそれこそヴァルキュリアの思うつぼだ。それに既に陸軍の主力部隊を南下させているのだ。海軍はまだ待機しておれ」
「しかし!」
アメリカ海軍の最高機関である海軍作戦本部は度重なる協議の末、ヴァルキュリア軍の進軍目標は南アメリカで間違いないと確信していた。
だが、それはあくまで推測の域を出ておらず、決断力に欠ける連邦政府は海軍の出撃を中々認めようとしない。
宝暦1937年8月15日。
ブランデンブルク率いるヴァルキュリア軍は南米ブラジルに上陸を果たした。
彼等は周辺に展開していたアメリカ軍南米駐留軍を攻撃しては反米意識の強い南米の諸民族の支持を集めていった。
そして同月18日。アメリカ陸軍の主力部隊がブラジル高原を移動していたヴァルキュリア軍を捕捉した。
ヴァルキュリア軍9個師団に対してアメリカ軍は13個師団と兵力はアメリカの方が上である。
ヴァルキュリア軍司令部では、
「ふん、アメリカめ。かなりの大軍を送ってきたではないか」
「侯爵閣下、如何致しましょう?」
「予備兵力を全て右翼へ回せ。右翼に重点を置いた布陣でいくぞ」
そこへ一人の兵士が駆けこんできた。
「敵軍が全面攻勢に出ました!」
兵力が上な以上、正攻法に出るのは有効な戦術と言える。
「やはり、そう来たか」
敵が予測通りに動いた事を知るとブランデンブルクは即座に指示を飛ばす。
「こちらも動くぞ!戦闘用意!」
彼も豪華に金の装飾が施され、赤と金のマントを纏う自身の専用機のゲフィオンに搭乗した。
ヴァルキュリア軍は激しい猛攻を浴びせるが、重装甲で防御力の高いアメリカ軍のガーディアン・セイバーの前に中々思うように攻められずにいた。
「マザラン騎士団は敵左翼の側面へ移動しろ!他は俺に続けえ!」
ブランデンブルクは自ら陣頭に立って右翼部隊を指揮し、勇猛果敢な戦いぶりを披露した。
敵機に間近まで迫るとバスタードソードでセイバーの重装甲を一太刀の下に両断するという荒技を見せ付け、怯んだ敵をすかさず斬りかかる。
マザラン騎士団が敵左翼の側面を攻撃すると、半包囲下に置かれた敵左翼は脆くも崩れ去り、形勢が一気にヴァルキュリア軍の側に傾く。
「この気を逃すな!一気に押し潰せえ!」
ブランデンブルクの右翼部隊は敵左翼を敗走させ、その勢いで敵中央部隊の後方を突いた。
前後を挟まれたアメリカ軍中央部隊は混乱状態に陥り、ヴァルキュリア軍の猛攻にアメリカ軍右翼部隊は撤退していった。
残った中央部隊もヴァルキュリア軍に包囲されて壊滅した。
この大勝利に南米諸民族は勢い付いて、各地で反米活動が活発になる事になった。
ブランデンブルクはこれに乗じて、南米諸民族に解放軍と自分達を認識させてその勢力下を飛躍的に拡大していくのだった。




