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反逆の時

宝暦1937年6月20日。

北京ペキンに滞在している松平政綱は、天宗皇帝に呼ばれて天帝皇宮てんていこうぐうの玉座の間へとやって来た。

天宗の顔を見ると、彼はとても苛立っているように政綱の目には映った。

玉座の前に立つと、政綱はその場に片膝をついた。

「急なお召、何事に御座りましょう?」


「白々しい!貴様、朕を舐めておるのか!?先日、日本艦隊が陸軍の大部隊を抱えて旅順軍港へ入港したそうではないかッ!」


「その事で、御座いましたか。旅順軍港司令官の許可は正式に取ったはずですが」

やはりその事か、と内心では思っている政綱。しかし、彼の予想よりも天宗に呼ばれるのは遅かった。旅順軍港に艦隊が入る当日に呼び出されるものとばかり思っていたのだが。

これは、旅順軍港に将官の大半が姚亥ヤオ・ハイを支持するクーデター派であり、彼等が意図的に報告を遅らせた結果だった。


「許可云々はどうでもいい!それよりもあの軍隊は何のために旅順へ送ったのだ!?ヴァルキュリアとの条約締結を妨害するつもりか!?」


「そのようなつもりは微塵も御座いません!」


「では何と貴様は申すのじゃ!!」

天宗は勢いよく玉座から立ち上がる。

彼の威勢に屈する事なく政綱は返答を述べる。

「ヴァルキュリアは条約調印及び婚礼は、この北京で行うと聞いております。しかも、花嫁となられるルイーゼは護衛に5個師団を引き連れて北京へ入城されるとか」

政綱が言いたいのは、つまり講和と見せかけて秦を油断させて北京にヴァルキュリアの精鋭部隊を無抵抗で入城させる事がヴァレンシュタイン公の狙いなのではないか、という事である。

講和が成立するまで、ヴァルキュリアと秦国は外交上は戦争状態にある。皇女が敵国領内に入るのならば護衛に大軍を付けるのは当然のこと。しかし、ならば何も北京で式典を行う必要はない。最も安全に式典ができる場所は他にも数多くある。それ等を押し退けてまで北京を選んだのには何か隠れた意図があるに違いない。そう政綱は天宗に主張した。

最も、本当の狙いは姚亥ヤオ・ハイのクーデター支援なのだが、そんな事を天宗に言えるはずがない。あくまでもこれはその場凌ぎである。


「・・・」

天宗は一つ妙案が浮かんだ。

ブランデンブルク侯を破った日本軍が今は自分の領土内に大部隊を置いている。これをヴァルキュリアへの手土産にしようと考えた。ヴァルキュリア軍と秦軍が連携すれば簡単に葬れるだろう。そして、松平政綱の首も一緒にヴァルキュリアに引き渡せれば益々望ましい。

そうとなれば、むしろ手土産は多い方が良い。


落ち着いた天宗は、静かに玉座に座る。

「そういう事なら構わぬ。貴公が送ってくれた部隊の数は?」


「10個師団です」


「ほう。それだけの数であのヴァルキュリア軍に勝てると思っておるのか?流石は東シナ海海戦の英雄よ」

天宗は政綱を小馬鹿にするように述べる。無理もない。日本陸軍は1度もヴァルキュリア軍との戦った事が無く実戦経験が乏しい。


「そのようなつもりは。ただ、ヴァルキュリア軍は5個師団です。ならば、倍の戦力もあれば皇帝陛下をお守りするのには十分かと」


「ふん。物資はこちらで負担してやる。もっと部隊をよこせ」


「・・・ありがたき幸せ。いざという時には、必ずや皇帝陛下をお守りいたします」

政綱は天宗皇帝の意図を察した。いや、むしろ彼の計画通りと言っていい。これで政綱は堂々と姚亥ヤオ・ハイのクーデター支援の準備が進められる。政綱は日本本土の防衛戦力は最小限にして合計20個師団を旅順に集結させる事に成功した。




インド属州・デリーでは、ヴァルキュリア第5皇女ルイーゼ・ウルリーケ・フォン・ヴァルキュリアが婚姻に先だって北京に向かう準備を進めていた。

護衛はヴァルキュリア軍5個師団が務めるが、ラルフはまだデリーでやる事が多々あるため、後から北京に向かう事になる。

極東方面軍司令部の前にある広場には、黄金でふんだんに装飾された豪華な黒い自動車がある。そして、司令部の門からその自動車までに幅7mの赤を基調とした絨毯が伸びている。絨毯を挟んで貴族、高級の文官または武官、インド属州民の有力者など大勢の人が列を作っている。さらにその列の奥にはデリーにいる大勢の将兵達が自国の皇女を一目見ようと集まってきていた。

ヴァルキュリア万歳ハイル・ヴァルキュリアヴァルキュリア万歳ハイル・ヴァルキュリア!!」


ルイーゼは兵士達の歓声の中、赤絨毯を進んでいく。

その後ろからラルフ、次にクールラントが続いて歩いている。

身体は前を向けて歩きながら、ルイーゼは手に持つ花柄の黒い洋扇子で口元を隠す。

「ラルフ、あなたいつ頃デリーを出立するの?」


「10日後には出立致します。北京への到着は婚姻及び条約調印式の前日となりましょう」


「分かったわ」


車の前まで来ると、ルイーゼは身体を反転させてラルフの顔を見る。

何か言いたそうにするルイーゼだが、ずっと黙ったままなのでラルフの方が口を開く。

「皇女殿下には、私の代わりとしてこのクールラント伯爵を付けます。何か御座いましたら、彼にお申し付け下さい。何事も迅速に処理してくれましょう」

横へ動いてルイーゼにクールラントの顔を見せる。


「悪魔伯爵の異名を持つクールラント伯が来てくれるなら道中は心配なさそうね。じゃあ北京で待ってるから」

そう言うと車の中へ乗り込んだ。




宝暦1937年6月24日。

天帝皇宮・玉座の間にて天宗皇帝の意向により、巷で人気になっている劇団が踊りを披露していた。

踊りが終盤に入ろうとした、その時、玉座の間に慌てて一人の文官が現れた。

「へ、陛下!大変であります!」


せっかく楽しんでいた所を邪魔されて天宗は不機嫌そうにする。

「何じゃ騒々しい」


「く、クーデターです!」


「な、何じゃとッ!?」


遂に姚亥ヤオ・ハイはクーデターを決行した。

北京近くに部隊を置いている曹羽ツァオ・ユ将軍と劉燕リウ・イエン将軍が挙兵して北京へ進軍。皇帝の警護及び首都の防衛を任されている禁軍がこれに応戦している。

元々今日はヴァルキュリア皇女ルイーゼを出迎える準備のためにこの2つの部隊は北京付近にまで移動する事になっていた。当初の計画ではそのまま北京城内にまで入るはずだった。北京は高さ30mの城壁に囲まれた城塞都市で、その出入り口は四方に1つずつ設けられている。

両将軍は南門から中へ入ろうとしたのだが、城門の警備隊に武装解除を要求されてやむを得ず戦闘状態に入った。


戦いの様子はすぐに姚亥ヤオ・ハイの邸にも入った。

彼の邸には既に北京城内にいるクーデター派の者達が集まっている。

南門での戦闘という事態に姚亥ヤオ・ハイは口惜しそうに部屋の壁を叩いた。各城門の警備隊に同志を数人送り込んでおければ良かったのだが、流石に禁軍の中にまで手を伸ばす事はできず今のような状態になってしまった。

「このままでは、市街戦になるな」

彼の理想は、城内に突入した部隊はそのまま天帝皇宮へと突入するというものだった。しかし、こうなった以上、実力行使で天帝皇宮まで進むしかない。となれば、必然的に市街戦が展開され北京は戦場となり大勢の民間人も巻き込まれるだろう。

「・・・こうなった以上は仕方が無い。我々も出るぞ。予定では後10分程で日本軍も東門から突入する事になっている。禁軍を破って売国奴を一掃するぞッ!」


姚亥ヤオ・ハイは自らガーディアン・飛龍フェイロンに搭乗して出撃する。彼の邸には事前に30機の飛龍フェイロンを密かに運び込んでいたのだ。姚亥ヤオ・ハイの部隊が北京の内側から禁軍へと奇襲を掛け、戦況を一気に姚亥ヤオ・ハイ軍側に傾ける。

しかし、相手は皇帝直属のエリート部隊だ。少し劣勢なぐらいでは怯まない。


戦闘が激しさを増していた頃、天帝皇宮・玉座の間では、

「陛下、念のためにどうかここは避難を!」


玉座に座って、天宗は右手に持つ純金で作られた器に注がれた酒を一気に飲み干す。

「黙れ!反乱軍如きに朕が恐れをなして逃げると思うてか!」


「い、いえ、滅相もありません」


天宗は玉座のすぐそこにいる女官に器を差し出すと、女官は器に酒を注ぐ。

そこへ、兵士が慌てて駆けこんできた。

「申し上げます!日本軍です!日本軍の襲撃です!」


それを聞いた天宗は目を見開いて驚く。

「襲撃じゃと!?おのれ政綱め!朕をたばかりおったなッ!」


政綱率いる日本軍20個師団が北京東門へ襲撃していた。

禁軍はそのほとんどがクーデター軍のいる南門方面に向かっているため、迎撃が追い付かずあっさりと北京への入城を許してしまう。


「日本人め。この屈辱、朕は決して忘れぬぞッ」

酒の入った器を怒りに任せて床に投げ捨てる。



姚亥ヤオ・ハイのクーデターは順調に進んでいる。日本軍の攻撃によって禁軍は足並みが乱れて間も無く壊滅状態に陥る。北京内における皇帝側の戦力が一掃された事で、クーデター軍の邪魔をするものは無くなり、天帝皇宮へと一気に攻め込む。

「進め!売国奴に我々が天誅を下すのだ!」

姚亥ヤオ・ハイはそう言って兵達の士気を鼓舞する。

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