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パガンの戦い

宝暦1937年5月24日。

ラルフ率いるヴァレンシュタイン騎士団は、極東方面軍司令部の置かれているインド属州デリーへ到着した。

極東方面軍は北はシベリア、南はインドと、ヴァルキュリアと秦国の国境線沿いに南北へ広範囲に展開している。その戦力は54個師団。戦闘用、支援用双方合わせればガーディアン総数は2万4000機、将兵およそ480万もの大軍だった。


司令部に入ったラルフは早速敵味方の状況についての説明を受ける。

秦軍は、既に国家総動員体制は発令されており、1500万を超す大軍勢が用意されていた。しかし、これは大半が民兵であり戦局を左右する程の力を持つのはこの半数程度でしかない。

だがそれでも数の上ではヴァルキュリア軍は秦軍に劣っている。また、コンスタンティノープルからインドまでの距離を考えると補給線が長く伸び切っており、持久戦に持ち込まれてると不利になる。

かと言って無理に短期決戦に持ち込もうとすれば圧倒的多数の敵に押し潰されかねない。

これまでヴァルキュリア軍はその勢いで領土を秦から奪い続けたが、先日の東シナ海海戦で敵側の士気も上がっており、これからは容易に勝つ事は困難となるだろう。


目の前に広げられた東アジアの地図を眺めながらラルフは腕を組んで考え込む。

地図にはヴァルキュリアと秦の国境線に合わせて赤で線が引かれ、チェスの駒が両軍の部隊に見立てられて置かれている。

これを見る限り、両軍は国境線に均等に部隊を展開させており、下手に動かせば一気にパワーバランスが崩れ、どのような結果をもたらすかは分からない。


「元帥閣下、如何なさいますか?」

そう言ったのは赤毛の将軍ロンメル。

ラルフの漆黒の瞳が冷然とした輝きを放ちながらロンメルに視線を向ける。

「ロンメルはどう思う?」


「何はともあれ、世界中に我等ヴァルキュリアを軽視する風潮が出ているのは事実です。これを払拭し、この世の支配者がヴァルキュリアである事を示す事が必要かと」


ロンメルに続いてクールラントも口を開く。

「私も同意見です。神聖なる皇帝陛下の御威光と世界に見せ付けてやるべきでしょう」


「つまり、まずは秦国に対して戦術的勝利を得よ、というのだな」

ロンメルとクールラントは同じ事を主張しているが、双方が意図している事は異なっている。

ヴァルキュリアは元々世界最強と世界中から恐れられていた。そのため、ヴァルキュリアが攻めてきたら確実に滅ぼされるという認識が各国にはあり、それが敵の士気の低下に繋がり対外政策をスムーズにしていた。しかし、東シナ海海戦の惨敗で各国にその認識が誤りではないか、という機運が出ている。これを放置してはアジア征服は非常に難しいだろう。ロンメルはまず敵国人に再びヴァルキュリアへの恐怖心を植え付けようと考えたのだ。

対するクールラントは帝室に対する忠誠心も厚く、ヴァルキュリア帝室こそが全世界の永久支配者であるべきと思っている。東シナ海海戦を受けて帝国を軽んじる者達の目を覚まさせてやろう、というのがクールラントの考えだった。


ラルフは再び地図に目をやると、インド属州デリーの上にある白のキングの駒を手に取る。この駒はヴァレンシュタイン騎士団を示す事だ。一度地図の上から離したキングで、ビルマにある黒のナイトを倒すとキングをビルマに置いた。

「我々ヴァレンシュタイン騎士団は、明日ビルマに進軍して同地にいる敵戦力を駆逐する。司令部はルントシュテット騎士団に守らせる。私が留守の間の司令部の指揮もルントシュテット大将に執ってもらう」



作戦の詳細を決めると、ラルフとヴァレンシュタイン騎士団将軍衆はその場から去った。

廊下を歩きながら金色の瞳に懸念の表情を浮かべるユリアは自分の前を歩くラルフに問い掛ける。

「良かったのか?この戦いは戦略的にはさほど意味は無い。それどころかただの消耗戦になりかねんぞ」


「分かっているさ」

ラルフは平然して答え、足を止めると振り返る。

「ただし、戦略的には、な」

何か企んでいる、と言わんばかりの微笑を端整な顔立ちに浮かべた。




翌朝、ヴァレンシュタイン騎士団5個師団がデリーを出立し、ビルマへと侵攻した。

両軍はビルマのパガンの近くにある広い平原で接触した。秦軍の戦力は7個師団とヴァルキュリア軍よりも数が多い。

騎士団司令部では作戦会議が行なわれている。

「敵はここから東に6キロ行った所に布陣しております」

クールラントが地図の上を指で指しながら言う。

「敵の指揮官はとう将軍との事です。勇猛果敢な人物と聞いております」


それを聞いてラルフは1つの策が思い浮かんだ。

「ユリア、お前は1個師団を率いてこの地にて待機。他は私と共に東へ2キロ前進する」

あえてここで敵に兵力分散という愚策を見せ付ける事で敵軍を己の目の前にまで引きずり出そうと考えた。将軍衆からは流石に無茶過ぎると反論も出たが、ラルフはそれを一切寄せ付けなかった。



午前10時頃より、戦いが開始される。

まず最初に動いたのは秦軍中央部隊4個師団・ガーディアン1200機だった。これに対するはラルフの直接指揮を執る3個師団・ガーディアン900機で構成されるヴァレンシュタイン騎士団本隊だ。

白いマントを纏い、装甲には金色の装飾を付けたゲフィオンに搭乗するラルフは迫り来る秦軍を見ながら無線機を通して指揮下のゲフィオンに命令を下す。

「全機、まだ撃ってはならぬ。私の合図で一斉射だ」

ヴァレンシュタイン騎士団本隊は銃を構えた状態で静止し、迫る敵に対して照準を合わせる。

そして、秦軍のガーディアン飛龍フェイロンの魔導銃がヴァルキュリア軍を射程に捉えると、走りながら次々と射撃してきた。銃弾の雨に晒されるラルフ達だが、元々飛龍の射撃性能はあまり高くなくほとんど命中する事は無い。

そして、敵の第1射目から約10秒経ったその時、

「全機!射撃開始!」

可憐な美声がゲフィオン900機の無線機を駆け抜けた。それを聞いたパイロット達は一斉に魔導銃の引き金を引いて銃口から火を噴いた。

激しい轟音と共に放たれた銃弾は、雪崩の如き勢いで秦軍の第1陣の飛龍の胴体を、足を、腕を粉砕する。

できる限り引き付けた一斉射に秦軍中央部隊は足並みを乱し、進撃速度を緩めてしまう。

この一斉射を合図に、ヴァルキュリア軍左翼を預かるロンメルと右翼を預かるクールラントも前進を始める。


「敵は怯んでいる!一気に押し返してやるぞ!」

この命令を下したのはロンメルである。戦闘の高揚感に加えて、ラルフの部隊の優勢を見て彼の表情にも声にも生気がみなぎっている。

これはクールラントも同じであったが、ロンメルと違って彼はそれを表情には出さない。

「全機、突入して敵を粉砕せよ!」


ラルフは4個師団で倍近くある7個師団の秦軍と互角以上の勝負を繰り広げている。

秦軍がヴァルキュリア軍の攻勢に足並みを乱している間にもラルフの次なる一手が既に動いている。それはユリア率いる1個師団だ。ユリアは戦場を大きく迂回して敵の背後を突こうとしていた。


だが、秦軍もただやられてばかりもいない。中央部隊は最初の混乱を収拾して反撃に出る。

「敵はこちらよりも数が少ないのだぞ!恐れる必要は無い!ヴァルキュリアは無敵ではないのだ!このまま押し潰せ!」

秦軍の司令官である董将軍は自ら最前線に立って果敢に敵陣へ斬り込もうとする。

そんな将軍に続けとばかりに秦軍中央部隊はヴァルキュリア軍にまるで滝のような勢いで雪崩れ込む。


これに対してラルフはゆっくりと後退していた。董将軍はラルフのこの動きを自分達が敵を圧迫しているのだと信じていたが、実は違っていた。ラルフは押されているのではなく、敵を己の懐近くにまで引き込んでいるのだ。

そうこうしている内に、クールラントは敵左翼を殲滅し、ロンメルもユリアの協力を得て敵右翼を殲滅した。3人は全力を挙げて秦軍中央部隊へと側面から背後から襲い掛かった。

勝利を目前にしていると信じていた秦軍兵士の歓声は一挙に悲鳴へと姿を変えた。

包囲された秦軍の兵達はパニック状態に陥って極度に密集し過ぎたために、中央にいるガーディアンは味方同士で圧迫しあって団子状態になり同士討ちをしてしまう事態に陥った。

「な、何をやっているのだ・・・」

それは董将軍の声だった。絶望に満ちたその声は既に自軍に勝機が無いという事実を再確認させられた。

約3時間の戦闘で勝敗は決した。ヴァルキュリア軍の勝利である。

ヴァルキュリア軍の損害は12%なのに対して、秦軍の損害は85%と少数の敵を相手にまさに大敗北という結果だ。敗軍の将となった董将軍はヴァルキュリア軍に降伏して捕虜になった。


この戦いの後、やって来た秦軍の大部隊を前にラルフは交戦もせずに撤退していった。

パガンの戦いは先日にユリアが言った通り確かに戦略的にはあまり意味の無い結果に終わった。しかし、ヴァルキュリアの力は少しも衰えてはいないのだと秦国人に見せ付けるという意味では十分意義のある戦いだった。

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