考察
俺達は森から戻って来ていた…あの一件の生き残りの狼達を全て連れて。
どうやらハクアさんは狼との個別のテイムでは無く、一部族全体との契約を取り付けたらしい…つまり群れ全てをハクアさんの眷族としたらしい…相変わらず無茶苦茶である。
狼達は十音色堂奥の無駄に広い栽培フィールドに放たれ生活しており、新たに購入された肉食使い魔や使役獣用の獲物自動ポップ機能により餌を自分達で狩って伸び伸びと暮らしている。
狼達は十音色堂のメンバーをハクアさんと同列と見なしている様で、メンバーがこのフィールドに入ると何処からともなく姿を現して来て、構って構ってとすりよって来る。
そんな愛らしい姿に悩殺された女性陣は暇さえあれば入り浸り、仔狼達とじゃれあうのが日課に成りつつある。
其れはさておき、奥地森でゴブリンが居た件である。
本来あのフィールドで出没するゴブリン系MOBは、俺がわんおぅで遭遇した事のあるラージゴブリンだけのはずである。
そもそもゴブリンは東の草原ボスの取り巻きが初出であり、ボスであるエルダーゴブリンを討伐完了後の山岳地帯の雑魚MOBでもある。
つまり本来なら東の草原で遭遇するMOBでは無いはずのゴブリンが、集団で他のMOBを襲っていたという事になる。
明らかに異常事態である。
「MOBって普通はフィールドで固定だよな?」
「ああ、普通はそうだな」
「…でも居たよな?」
「ああ、居たな」
「…バグ?」
「いや、それは無いと思う」
「じゃあどうして?」
「…此れは仮説なんだが…このゲーム内の世界ってもう一つのリアルワールドと考えると良いんじゃ無いかと思う」
「どうゆう事?」
「今、この街の鉱石系素材は東の草原の先…つまり鉱山のある山岳地帯へ行く道がボスに封鎖されている事で供給を絶たれて値上がりしてるよな?」
「うんそ~だよ~」
「つまりゲームの進行状況によりゲーム内の経済状況までもが時間経過と共に変化しているって事だよな?」
「…うん、そうだ…ろう…な…」
まさか?ホントに?
「じゃあさ、街道を封鎖するぐらいのゴブリンの群れが居て、更に数を増やしている状況で移動せずにずっと同じ場所に居たりすると思うか?」
「…それはないな、普通ならどんどん規模が拡大してアチコチに被害が出る」
「うんリアルならそうなるよね」
「つまりボスのゴブリン部族がゲーム世界を侵略してるってか?」
「ああ、状況からいくとそうなんじゃ無いかな?」
そう、NPCも生活を営んでいるN∞Wのゲーム世界でなら、確かにMOBモンスターだって独自性を持っていてもおかしくは無い。
「それってヤバく無いか?攻略組が二回もレイドで討伐に失敗してるんだろう?」
「ああ、掲示板での情報では取り巻きのゴブリンが無限に湧いて来るらしい」
「逆に言えば周辺に溢れてるゴブリンをボス戦前に倒して置けば無限には湧かなく成るんじゃ無いか?」
此れまでの討伐部隊は街から直にボス戦に向かっていたはずだった、周辺探索等で予めゴブリンの数を減らしたりはしていないはずだ。
「その可能性は高いな、遠征と遠征の間は草原奥地に行くプレイヤーも殆ど居ないはずだし」
「その間にゴブリンが増殖してボス戦が無理ゲーに成っているって事か…」
「場所が問題だよね?奥地に行くと必ず野宿に成っちゃう」
「だよな…だから奥地に行くプレイヤーは殆ど居ないわけで…」
「じゃあ、奥地に仮設のキャンプ地が在ればプレイヤーが集まらないかな?」
「…」
「…」
「…」
「「それだッ!」」
「わっ!吃驚させないでよ!」
「あっすまん」
「アスさんごめんなさい」
「でもそれだよ!掲示板で周辺探索&ゴブリン討伐するプレイヤーを募って、奥地に安全な仮設キャンプ場みたいなのを造る、補給物資は荷馬車を持ってる十音色堂で運搬すれば良いな、それで周辺のゴブリンを一掃したらボスの討伐レイドが討伐する」
「うん、その方向で…ギルドにも依頼を出してキャンプ地の護衛や飲食店とか…後はウチと時間帯が逆の夜に活動する人達とか募集したり」
おっ、今回はわんおぅも出番が有りそうだな…
その後、俺達はこの作戦を実行に移す事にした。
#特殊ミッションクエスト『鉱山都市への街道封鎖を解放せよ!』が発動しました。
#全プレイヤー対象クエストイベント『ゴブリンの侵略を阻止せよ!』が発動しました。
#これより『東の草原』においてイベントモンスター『ゴブリン侵略部隊』が行動を開始します。
其れはN∞W初の大規模イベントの開始と成るのだった。




