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わんおぅの冒険3


 俺は半日もの間、訓練所でひたすらブリッツを撃ち続けるという苦行を終えて十音色堂の個人スペースに戻り一旦ログアウトした。


 「三人はまだin中だったな…」

 ログアウト前にフレンドリストを確認した時はまだログイン中を示すランプがついていたのでニンフォちゃんの特訓を続けているのだろう。


 「ちょっと訓練所でこんつめすぎたかな?」



 基本パーティーで行動する『ミト』に関してはβテスターの三人に置いていかれない程度にレベルアップに勤しめば良いのだが、生来の気質と仲間達が自分より年下の女の子達ばかりなのでどうしても『守らなくてわ!』という気持ちが湧いて正直かなりはりつめていたと思う。

 実際、集中して訓練し続けたお陰で普通にフィールドで冒険するよりも魔法に関してのレベルアップは充実していると思う。

 因みに普通のプレイヤーは日々の生活費を稼ぐ為に湧き待ちが発生していてもフィールドに出ている人が殆どで訓練所には粗皆無と言って良いくらいしかプレイヤーが居なかった。

 その点で言うと早々と拠点となる店舗ハウスの十音色堂を手に入れ(主にハクアさんとミクスさんのお陰だが…)宿泊費に煩わされる事が無くなっている分訓練に時間を割けるのは本当に幸運だったのだろう。

 「ハクアさんに足を向けて寝られないな…」



 今日は午後からゲームにinしてリアル睡眠時間と連続稼働可能時間八時間の制約を考えると次の休憩時間後二時間の休憩を入れて夕食や風呂を済ませ、二時間か四時間inして零時~八時迄睡眠するのが良いだろう。

 八時間の睡眠時間中にゲーム内世界では4日が過ぎるので時間の掛かるクエスト等は請けずに今日は店舗用の素材集めを中心に活動するのが良さそうだ。


 そんな事を考えつつ、束の間の休憩を終えた俺は『わんおぅ』でログインする。



 ログインした俺は後にピナと二人だけで活動する事を考えて前衛向きの装備を強化する事を考えた。

 「と、なると…早速だけど十音色堂かな?」

 そもそも『わんおぅ』には純生産職の知り合いが居ない。

 そしてあらゆる生産スキルを網羅するミクスさんとの繋がりを持っておくのはきっと後々助けになるはずだ。

 「下手にこの素材を流すのも不味いしなぁ」

 ラージゴブリンの素材は下手に流すとわんおぅの存在自体にマイナスの要因を抱かせる事に成りそうでミクスさん以外のプレイヤーが居る市場では取引したく無い。

 「出来ればフード付きの外套か何かで正体を隠せれば更に良いな」

 ゲーム世界で2日間過ごして自分のリアルスキルはかなり目立つ存在だろうと流石に予測がついた。

 そこで先ずは人物を特定されない方向で装備とアビリティを上げて行く事にしたのだ。

 って事でやって来ました十音色堂。

 幸いまだミクスさんは起きていた様でカウンターの奥で何やら作業をしていらっしゃる。

 「すいません、ポーションの購入と、素材持ち込みでの作成をお願いしたいんですが…」

 俺は気持ち声色を低く抑えた声で用件を告げる。

 「いらっしゃ~い十音色堂へ~よ~こそ~」

 ミクスさんの口調はお客に対しても相変わらずだった。

 「ポーションは~HP回復かなぁ~?MP回復は~在庫が少なくて~ちょっ~と割高だよ~?」

 「HP回復(小)効果を五つで」

 「はいは~い、ポーション(小)五つで1000elだよ~…はい、毎度ありぃ~」

 俺は今までよりちょっとだけ効果の高いポーションをインベントリに仕舞いこんだ。

 「作成を頼みたいのだが、素材が足りるか判らないので観て貰えるか?」

 「良いよ~何が~欲し~のかな~?」

 「戦闘で長物を使っても邪魔に成らないフード付きのローブか何かと両端に刃の付いたショートスピア、素材が足りるなら動きを阻害しない手甲と軽い鎧か何かを頼みたい、材料は此れで」

 そう言い簡単に買えない額を提示したトレード申請を行いラージゴブリン素材とラージラット素材を全て提示する。

 「外套と短槍に~手甲と軽鎧ね~持ち込み素材わぁ~………お兄さんちょ~~っと奥に一緒に来てくれるかな~?」

 「あ、ああ(汗)」

 ミクスさん顔が笑ってるけど目が笑ってなくて怖いです!



 「さ~てっと、お兄さん結論から言うと依頼の品はその素材で十分造れるよ」

 「そっそうか」

 口調迄変わってるよマジで怖いです。

 「まぁ多少私の手持ち素材を使う必要があるけどね…問題は魔核を何に使うかだね」

 魔核か多分レアドロップっぽいんだよな。

 「多分お兄さんも検討ついてると思うけど魔核は通常モンスターなら極低確率で、ユニークやボスモンスターなら一体につき一個だけドロップする固有スキルの着く素材だよ」

 ああ、棍棒についてたアレだな。

 「どうゆう経緯か知らないけれどウチのクランメンバーのピナちゃんに武器をあげたでしょう?其れに付いてたのと同じ『蛮勇』ってスキルが付くんだけど…」

 「何か問題でも?」

 「武器に使うと打撃ダメージが1.1倍に防具に使うと被打撃ダメージが0.9倍になるみたいね」

 ほう、生産者には其処まで解るんだな。

 「で、お兄さんの注文の短槍は属性が『刺突』だから『打撃』属性のスキルは相性が悪いし、軽鎧も緩和する属性が『切傷』だからこれまた相性が悪いんだ」

 ふむ、だとすると…

 「質問がある」

 「何かな?」

 「俺は槍を『突く』よりも恐らくは打撃属性の棍の様に『払う』攻撃に使用する事が多いので武器自体の属性を変更は出来ないか?」

 「んー出来なくは無いけど…『刺突』属性は弱くなるわよ?」 「ああ、それで構わない、魔核は武器に付けてくれ」

 「オーケー、余った素材は引き取って構わないわね?」

 「ああ」

 「じゃあ諸々含めて5000elで良いわ、外套はポンチョ風の全身が隠れるタイプ?それともマント風の前が開いてるタイプ?」

 「全身が隠れる方で」

 「了解、それじゃ…外套は此れで」

 フード付きで焦げ茶色のローブっぽい外套だった、確かに此れなら全身を隠せるな。

 「他は~明日の夕方に~出来てるから~取りに来てちょ~だい」

 「了解だ」

 「有り難ぉ~ございました~」

 其処で十音色堂を後にした。

 ミクスさん真剣な時は口調が変わるんだな…





 十音色堂を出た俺は先ずギルドで依頼の確認をしてみる事にした。

 「採取系か討伐系しか残ってないな…流石に夜の時間帯じゃ配達系とかは無理か」

 ギルドの依頼は基本的に朝貼り出されNPCが起きて活動している日中にその殆どが処理されるらしい。

 「そりゃ昼夜区別されてるんだからコッチ(プレイヤー)の都合だけで依頼を何時でも請けれるわけ無いやな」

 NPCもこのゲームの中では生活しているんだから夜は寝ているんだろう事は、容易に想像がつく。

 「ヤバいな、夜しか活動出来ない『わんおぅ』じゃ討伐くらいしかする事が無い」

 しかも採取系はLukの低いコボルトだと期限内に集めれる自信が無いし、討伐系は其なりに強いモンスターしか依頼が無い。

 「…詰んだか?」

 まぁ生活費だけは稼いでレベルアップに励めば討伐素材集めくらいは出来るだろうか?

 「うしッ此処に居てもしょうがないしまたラット狩りでもするか!」

 「待ちたまえ!」

 ギルドを出ようと踵を返した俺にそんな声を掛ける者が居た。

 「君がラージゴブリンを独りで倒した猛者だろう?」

 「!?……どうして其れを?」

 倒した時は近くには誰も居なかったし、ギルドに報告した時も受付側には担当したおっちゃんのギルド職員しか居なかったはずだが…

 「…どうして知っているんです」

 しかも今の俺は、フードを目深に被り全身が隠れる外套を着ているから鼻先が見えている程度なので、かろうじてコボルトと判るが個人を特定は出来ないと思うのだが…

 「フッ私くらいになると色々とコネがあるのさッ!」

 「はぁ…で、どちら様で、何の御用ですか?」

 嫌な予感しかしないんだが…無視すれば拗れそうだしな…

 「ハッハッハ、私の名は『ボス‐カイゼル‐フォン‐ライルハルト』!貴殿に尋常の勝負を申し込む!!」

 (うぁ~痛い人だ…コボルトだけど)

 『ボス‐カイゼル‐フォン‐ライルハルト』さんはどうやら思春期に掛かる病に冒されているらしい。

 その容姿はどうみても二足歩行する白い『チワワ』である。

 そしてどうやら俺がユニークモンスターの単独撃破をした事を探りだし腕試しをご所望らしい。

 「えっ嫌です」

 「そうだろうそうだr……ナニィッ!?」

 うけてたつとでも思っていたのだろうか?「えっ何で?」って顔でボーゼンとしていらっしゃる。

 えっおかしくないよな?だって試合する理由無いし。

 「じゃッそうゆう事なんで失礼しますね?」

 そう言って立ち去ろうとするのだが…

 「えっ、いやちょっと待ちたまえ!其処は「尋常にお相手します」と受けて立つべきところじゃないかね?」

 「えっ何で?」

 何言ってんだコイツって心底驚いた顔で俺は言うわけだが。

 「えっ!?いや、そこは宿命のライバル的な、避けては通れない的な、何かあるだろう?」

 「いえ、在りませんけど」

 「………」

 「………」

 「………」

 「じゃ、用事が有りますんで…」

 俺は今度こそギルドを後にした。


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