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森の中で

 その場所に着いた時、俺はゲーム内にも拘わらず濃密な死の気配を感じ立ち止まった。


「オネガイ、ママヲ、タスケテ…」


 数十秒程森を駆け抜けただろうか?微かに聞こえて来た呼び声が明確な言葉となって耳に伝わって来た時、俺はその場所に辿り着いた。


 鬱蒼と繁る森の中、他よりは幾分木の疎らになった中心に立つ大木の傍に一人倒れる獣人族の女性とその女性を何とか抱えて移動しようとしてしながら片言で助けを呼ぶ小さな…少女?


 近くには地の爆ぜた様な後と周囲の焦げた繁みから恐らく戦闘があったのだろう痕跡。


「!!…アッ、タ、タスケテ、ママヲタスケテクダサイ!」

「…どうした?、何があった?」


 突然現れた俺を観て一瞬ビクッと体を震わせるが倒れた獣人を助けてと伝えてくる。

 仰向けに倒れている少女から「ママ」と呼ばれる獣人は左足膝上に尖った物で刺された様な傷以外は特に外傷は無いが、傷口付近の肌の色が浅黒く染まっていた。


「クッ!毒か!?」


 初期に配布されたポーションは皆から預かっているが毒消し草の類いは俺は所持していない。

 基本パーティーで行動しているので役割を分担していたのと、薬草知識の無い俺ではポーションの様に加工された『薬品』で無いと満足に扱う事が出来ないからだ。


 その時、丁度背後から追い付いて来たアスとシルミルに「毒だ!ハクアさんかミクスさんを連れて来てくれ!」と一声掛け、取りあえず応急処置でビギナーポーションだけでも使用するべきかとインベントリから取り出す、手持ちのビギナーポーションは残り4本…パーティー全体での共有アイテムだが人命には代えられないだろう。


 トポトポ…トポトポ…


 取りあえず傷口に直接使い傷口が塞がってしまうと後で毒の治療に支障を来すかも知れないと女性を抱え上げ口を少し開かせてポーションを少しづつ注ぎ込む。


 手元に在るのは俺が纏めて所持している『ビギナーポーション』のみ、ハクアさんとミクスさん所持の解毒効果がある『キリク草』が無ければ毒の治療が出来ない。


「くそッまだか!?」

「お待たせ!」

「ぉ、お待たせしました!」

 思わず毒づいた丁度その時にアスが手を引きハクアさんが到着した。


「良かった!この人だ!」

「っ!判りました直ぐに治療始めます!ポーションを!」

「ああ!残り3本しか無いが足りるか?」

「…多分、大丈夫だと思います」

「判った、よろしく頼むね」


 俺はビギナーポーションを誰でも使える様に具現化しハクアさんの傍らに置き治療はハクアさんに任せ、アスと共に周囲の警戒をする事にした。



◇◇◇◇◇◇◇


side???


 今、目の前には獣人の女性体が居る。


「初めまして、私が貴女の『ママ』よ?わかる?」


 そう、この人が『ママ』、私を生み出した人――



 『ママ』は『上級錬金術師』と呼ばれる人…らしい


 『ママ』は自身の血肉と己の全ての知識を用いて錬金術の『秘術』を執り行い、『意思』の在る、『成長』する『人形(ヒトガタ)』を生み出した。


 それが『私』。


 『ママ』は昔冒険者をしていた頃の傷が元で子供を『産む』事が出来ない身体になってしまっていたらしい。


 だから『産む』事が出来なくとも自身の血肉を受け継いだ『私』を『生む』事にその半生を注いだのだと…


 『私』は『ママ』から『産まれた』のでは無いけれど『ママの娘』なのだと教えてくれた。


 『私』は『ママ』の事をその錬金術の秘術の『契約』により生まれた瞬間から『マスター(造物主)』であると認識している。


 でも、『マスター』ではなく『ママ』なのだという事も身体の中の奥の方で認識している。

 その場所には本来何も無い空間なのだけれど、何故か暖かいポワポワした物があるみたいに…


 でも『私』は『ママ』の事を『マスター』と呼んでいる。

 『マスター』と呼ぶとちょっと困った顔をするが『契約』によりその言動すらも縛られている『私』は『マスター』が望むように『ママ』とは呼べないのだ。




 ある日『ママ』は街の南に在る森で生業としている『魔法薬品』作りの為の材料採取の為にギルドで雇った『冒険者』を3名と私を連れて森の奥へ分け行った。


 『ママ』は火の魔法を使えるし、『私』も力は子供並みだが素早さと身のこなしなら戦える様な人…一般的な冒険者とかを凌駕している。


 其でも二人だけで『南の森』に入るのは流石に危険なので『ママ』は毎回ギルドに護衛依頼を出して冒険者を3名雇っていた。


 でも今日はいつもの『南の森』と違った。


 目的の薬草類は順調に集まっていたがいつもなら襲ってくる中型の『野獣』―熊等―が襲ってくる事も無く至って平和に採取が進んでいた。


 そのせいか『ママ』も雇った冒険者達も気が抜けてしまったのだろうか?


 気が付いた時にはその『魔物』の狩猟範囲(テリトリー)に入りこんでしまっていたのだ。


 大飛蜘蛛――南の森の中域から奥地に掛けて出没する魔物でその尻から出す粘糸を用いて樹上から飛び掛かる体長1m程の毒蜘蛛。


 樹上からの最初の奇襲により『ママ』が毒爪の攻撃を受けてしまい暫くは共に戦ってくれた護衛の冒険者達は途中で逃げ出した。


 それでも『私』と『ママ』は何とか蜘蛛を撃退したのだが…毒が回った『ママ』は意識を失い、『私』はその非力な腕では『ママ』を持ち上げる事も出来ず、ただ誰も居ない森の中で身動きも取れずに助けを呼んでいた――助けて、誰か、『ママ』を助けて――と。


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