夜のギルドにて
夜の冒険者ギルドに到着!…一応開いてるけど殆どプレイヤー居ないのな…
現在ゲーム内時間で23時過ぎ…活動しているプレイヤーはまだ狩りをしているか、商業区にある酒場にいるか…俺みたいにセカンドキャラを作って活動しているんでも無ければ基本夜の時間帯だ、身体を休めている者が大多数を占めるのだろう。
「まぁアバターを休ませなきゃRBSに陥るだろうしな」
※RBS――睡眠不足、酔い、病気や衰弱による体調不良等々により筐体のバイタルチェックに引っ掛かりログイン出来ない状態。
この仕様はVRこの仕様により廃人プレイによる他のプレイヤーとの格差はほぼ防がれている。
さて現在受付には誰も並んでいないし、折角だから綺麗なお姉さんか可愛い女の子の受付嬢窓口が良いな~っと…
「窓口一つしか開いて無いのな…」
健全な青少年の邪な考えなど嘲笑う様な選択肢にガックシと心が項垂れるのを感じながら唯一開いている窓口に向かう。
「スイマセン…」
「おや、こんな夜遅く迄ご苦労様です。どのようなご用件でしたかな?」
窓口に座り対応していたのは受付『嬢』ですらなく糸目でチョット渋めのおっちゃんだった…
「えっと、ラージゴブリンの討伐報酬が届いていると…」
内心の失望を隠しつつ尋ねると…
「おおっ!、君が倒したのかね?確認の為に登録証を照会しても良いかね?」
「あっはいどうぞ…」
おっちゃんは受け取った登録証明の腕輪を手元の設備にセットして操作する。
「フム確かに倒したようじゃの…」
「ほう、ソロで…」
「ぬっ?!このレベルで…」
…等とおっちゃんは頻りに頷いたり驚いたりしているが。
「おんし良く死なずに倒せたのう」
そう言って腕輪と巾着状の小袋を渡してくる。
「此が討伐報酬の賞金20000fcじゃ」
おおっ!多いな!
「しかし、おんし無茶をするのぅ」
「へっ?」
「ラージゴブリンは沢山のソロやディアルプレイヤーを葬って来た強敵じゃぞ?駆け出しがソロで挑む等と無謀に過ぎるわ」
「アッ、アハッ、アハハハハァ~」
どうやらとんでもない強敵だったらしい。
多分勝てたのは父さんの知り合いの道場で少しばかり鍛ってた『棒術』のリアルスキルのおかげだろう。
ラージゴブリンの攻撃を槍の柄を使って受け流す様にして小さい体を使い棍棒の威力を逸らして回避していたからな。
おかげで致命的な直撃を何とか避けることが出来たわけだし…
「偶々ですよ、その後ラージラットに痛い目にあいましたから…」
うん、アレは苦い経験だ。
「そうか…まぁあまり無理はせんことだな」
まぁ良いや、此で所持金は21100fc…ってアレ?22200fcあるな………(オンラインヘルプ参照中)………成る程、コボルトはデスペナでの所持金減少は無しなんだな…ラッキー♪
◇◇◇◇◇◇◇
その後、残り数時間を有効に使う為にギルドの依頼掲示板に何か良い依頼でも無いかと覗いてみた。
〇[美食の追求!?]
新メニューの練習に使いたいからチョット集めて来てくれよ!
依頼人:串焼き屋のバーンズ
求)ラージラットの肉×10
出)3000fc
〇[薬草採取]
研究用に東の草原で薬草を集めて来て下さい
依頼人:冒険者ギルド研究員のミワトス
求)ミール草×100
出)500fcと試作品ポーション×5
ちょっとわんおぅではクエストの採取アイテムは厳しい感じだな…
しかしこうして依頼掲示板を観ると面白いのはNPCの依頼人がちゃんとネーム付きで居る事だ、今は見当たらないが手順を踏めばNPCとのパーティーを組んで冒険する事も可能らしい。
例えば鍛冶屋見習いのNPCを連れて鍛冶屋の居ない辺境の村に行ったりするとNPC自らの意思でその村に自分の店を開いたり、つれ歩いたNPCを死なせてしまうと二度とそのNPCとは会えない仕様だったりする。
仮に誰かがあるクエストの重要なNPCを連れ出して死なせてしまったらそのクエストは二度と達成出来なくなると云う事だ。
つまりNPCも一人の『人物』として扱われていると云う事。
明確なグランドクエストの無い『NEW∞WORLD』においては、プレイヤー同士だけでなくNPCとの『冒険』だってきっと有意義だろう。
………はぁ、何でこんな堅苦しい事を考えてたかと言うと現在進行形でトラブル(?)に巻き込まれているからで、ちょっと現実逃避してみたのだ――
討伐報酬を貰った後、掲示板を確認し、ちょっと受けれるクエストが見付からないなぁ~しょーがないまた東の草原でラット狩りでもしようかな~なんて考えながら掲示板の前を離れようと歩きだしたら服を後ろに引かれる感覚がする。
振り返って観ると今の自分と同じ(120cm)位の背丈をしたプレイヤーが服を掴んでいる。
これぞ魔法使い!って感じの黒いフード付きのローブを着て、初心者魔法使いの定番みたいな『ひのきの棒』みたいな杖を左手に持っている。
フードを被っているので顔立ちはハッキリとは判らないが、見えている顎のラインと鼻や口等のパーツは容易に『美少女』だと匂わせる物だった。
「………」
「えっと…何?」
「…?」
軽く首を傾げ無言で俺の着ている服の袖口を掴む女の…女の子だよな?
「………」
「手、放してくれないかな?」
「…やっ…」
嫌ですかそうですか…
「………」
「えっと…狩りに行きたいんだけど…」
「………」
「俺としては放してくれないかなぁ~なんて…」
「…やッ!」
「………」
「………」
空気が重いです(汗
「えっと…プレイヤーだよね?」
「……(コクン)」
意思表示はしてくれるみたいだ…
「んーと、何で掴んでるのかな?」
「…?」
またも首を傾げられたよ…どうしろと?いや、うん多分パーティー組んで欲しいんじゃないかと推測はしてるけどさ…
「…誰かとパーティー組んでる?」
「…(フルフル)」
やはり組んで無いようです。
「これから東の草原で朝まで狩りするつもりなんだけど…」
「………」
「えっと…一緒に行く?」
「………(コクン)」
やはり一緒に行きたいらしい…
「えっと、それじゃ俺は『わんおぅ』よろしくな」
言いつつフレンド申請とパーティー申請を送る。
「…ヒナミは…『ピナ』…だよ、よろしく…」
辛うじて聴こえる声…えっと多分だけど『ヒナミ』がリアルネームで、『ピナ』がアバターネームかな?
こうして『わんおぅ』は『ピナ』と出会いパーティーを組む事になった。




