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わんおぅの冒険1


sideわんおぅ


 俺は今、夜の静寂に閉ざされた東の草原へもう一つの姿『わんおぅ』のアバターでゲーム世界にログインしている。


「流石にプレイヤーの数が少ないな…」


 昼間はあれだけ居たプレイヤー達も今は宿屋で寝ているか、一時的にログアウトしているか、夜の帳に閉ざされたNEW∞WORLDの世界には活動しているプレイヤーは殆ど居ない様だ。


「…が、しっかしキッツいな!」

 声に出しながらもラットの突進をショートスピアの柄を利用して受け流しつつ右にかわす。


『パシッ』

 穂先側を叩きつける様に振り下ろすのだが…軽い打撃音がするばかりで大したダメージを与えれていない気がする。


『バシュ』

「うぅ~槍は失敗だったかも!」

 呟きつつ打ち下ろした槍から右手を離し『回れ右』をする様に半回転、もう一度同じ様に半回転して今度は薙ぎ払う様に左手と腰で振り回す―一回転した穂先が丁度体制を立て直し此方を向いたラットに上手く当たった。


 どうも『槍』の攻撃は穂先で『突く』に威力が片寄っている様で、『払う』『叩きつける』等の攻撃では有効的なダメージを与える事が難しい。

 具体的には『叩きつける』で1、『払う』で1~2、『突く』で2~4といった所だろうか?


 これがステータス平均10以上あれば恐らく差は其れほど出ないで済むのだろうが…


「なにせコッチは『コボルト』だかんな!」

『ドスッ!』


 叫びつつ何とかラットの突進に合わせカウンター気味に正面から槍を突き入れる事でHPを削りきる事が出来た様だ。

 鈍い音と確かな手応えを残してラットが光の粒子となり暗闇に融けてゆく。


「ふうぅ、やっと3匹か…コボソロやっぱマゾ過ぎるww」


 戦闘開始前に地面に置いたランタンを持ち直しつつ―そんなプレイをする自分も大概だよなぁ~等と考えながら次の敵を探す為、夜の東の草原奥地へ『わんおぅ』は喜色満面で向かって行った。



◇◇◇◇◇◇◇



side???


「凄いなぁこの子コボルトソロで夜のフィールドに出るなんて…」


 手元に開いた一枚のスクリーンではリアルタイムであるプレイヤーがラット狩りをしている所が表示されている。


「主任どうかしましたか?」


「んー?ちょっと面白い子を見付けてね~♪」

「へぇ~主任が『面白い』なんて…成る程コボルトソロですかぁ」


 コボルトのプレイヤーは実は結構な数が居る…が、他のプレイヤーはパーティープレイが基本だった。


「前線の『もふもふ団』も異色でしたけど…」


 『もふもふ団』―コボルトや獣人プレイヤーのみで結成された最前線でプレイするβテスターの攻略パーティーである、現在南の森方面で攻略中。



「あそこはリアルフレンドで構成されてるんだろ?」


「ええ、βテストで一緒にレイド組んでた時にそう言ってましたね」

 開発陣は特殊なアカウントプレイヤーとしてゲーム内でも管理・監視を行なっている。

 その数凡そ常時30名―今会話している二人の居る監視用の仮想空間にもそれとは別に常時10名が詰めておりゲーム内でもリアルタイムで運営のサポートが受けられる様になっている。


「この子は更に異色だよ、なんせ現状唯一『無属性』を発見したプレイヤーだ」

「えっ?あの主任が嫌がらせの様に隠したアビリティ見付けたんですか?」

 そう『無属性』アビリティ等、幾つかのアビリティは初期アビリティを一度選択し画面の切り換えと選択し直しを駆使しなければ選ぶ事が出来ない『隠しアビリティ』として確かに設定されていた。


「良く見付けましたね~この子」


「まぁ『無属性』は比較的簡単な仕掛けだったからね見つかってもおかしくはないさ…しかしこの子はね?」


「はい?」


「わざわざ課金してセカンドアバターでコボルトソロをしてるんだよ」


「はっ?」


「もう一つのアバターは恐らくメインなんだろうね―ヒューマンでね?ソッチはソッチで称号『運命の女神の祝福を受けし者』持ちと、元『四色使い』の朱鳥君に『特殊条件化被験体』の朱鳥君の妹さん達と同じパーティーなんだよね!」


「はぁっ!?」


 主任の顔は喜色満面、部下であるもう一人の驚く様を観て大層喜んでいる。


 画面の中では喜声をあげながらもラット狩りをするコボルトが丁度10体目のラットを倒しきった場面を映していた。


◇◇◇◇◇◇◇


sideわんおぅ



 夜の東の草原フィールドで俺は危機に陥っていた!

「…ウオッ!『ブンッ』」

 振り下ろされる棍棒を左前方に飛び込む様に転がり何とか紙一重で避ける事には成功するが体制を完全に崩してしまったが為に起き上がり距離を取って振り向いた時には相手は既に此方を見据え次の攻撃に移れる様に棍棒を高く振り上げ構えていた。


「いやいや、夜のフィールドに強い敵が出るのは定番だけどさッ!」


 その顔に嘲る様な表情を浮かべ此方を見据える魔物は、緑色の肌に大きな鷲鼻、突き出た下腹、ボロボロの皮鎧の残骸を身に纏い、手に持つは棍棒、―ゴブリン―


「こんなに強い敵じゃnステップ!『ブンッ!』…無くてもいいじゃねーか!泣くぞ俺!」

 『わんおぅ』に変えてから結構順調だったのだ。

 『ミト』の時に観た湧き待ちの混雑も無く、プレイヤーが居る所はランタンの灯りを確認すれば判るため自分から近づかなければプレイヤー同士のトラブルに見合うこともない、ステータスが低い故に戦闘時間が長引く事があっても倒しきれない事は無く、狩りを始めてから凡そ二時間―その敵が突如現れる迄は。



 なにせ彼方の攻撃はマトモに喰らえば一撃で即死コースなのに対して、此方の攻撃は『払い』か『突き』でようやっとかすり傷を与えれる程度。

 『ブリッツ』を撃てば恐らくは武器による攻撃よりはダメージを与えれそうではあるが…『ステップ』を使う分のMPは残して置かないと回避しきれないで死に戻りコースが容易に予測出来る。


「だからって何もせずにいれば状況は変わらないっと!」

『ブオンッ!』

 左側から右側に横薙ぎにされる棍棒を何とか自身の身体能力のみでバックステップしてかわす―四つん這いになってしまったが相手は大きく棍棒を振り回し―空振りしたせいでたたらを踏み、体制を戻すには時間が掛かりそうだ―


『ブリッツ!』

 一瞬の間を置き形成された不可視の魔力球がわんおぅの狙い通りに無防備な敵の右顔面へ当たる。

『バシィッ!』

「グオオォォッ」

 どうやら弱点(ウィークポイント)に当たった様だ、これまでの攻撃で手足に付けた無数の傷(かすり傷だが…)に比べ明らかに痛がり様が違う。


「!!…光明が見えた…か?」


 弱点を攻められた為だろう、其れまで隙の無かった敵が恐らく無意識に両手を顔に持って行く。


「…!!!」

 両手でしっかりと持った槍を肩上で構え無防備になった敵の下半身へ全体重を乗せておもいっ切り突き刺し―抉る!


「グギャッ」


 穂先は丁度右足の付け根関節の内側に辛うじて3分の1程度が突き刺さりダメージエフェクトが飛び散り消える。


「ウッシ!倒せる!」

 一旦後退し槍を構え直す、みれば敵は『嫌々』とする様に棍棒を左右に振り此方との間を取っている。


 チラリッと敵の頭上に視線をやればHPを表すゲージが今の攻防により2割程削れたのが確認出来た。



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