プロローグ的な
2015年 日本大手電器企業三社共同によるVR機器開発開始の発表。
2016年 『第一次医療用VR機器』完成。但し機器を患者の身体に一部埋め込むという機器の特性上被験者は一旦仮想世界に入ると現実世界に戻れなくなる一方通行的な代物であった為、商品化はされず各種安全装置の開発、法的整備が進められる。
2018年 患者の身体を損なわず運用可能な『第二次医療用VR機器』の開発に成功。またそれをうけ『VR機器運用法』が国会で成立、軍事から娯楽迄各種分野への技術転用が開始される。
2020年 十分な安全性を確保された『家庭用VR装置』開発に成功し、初期より関わっていた大手電器企業三社が合併。
2024年現在、各人VR機器一台が当たり前の世界と成り世には様々なVRゲームが溢れていた…
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「なぁ~勇人、俺と一緒に冒険しねぇ?」
先週末、期末試験が終わり高校一年の夏休み迄後1週間と迫った月曜日の朝、腐れ縁な悪友の吉崎健也がゲームのパッケージを俺(美浜勇人)の机の上に置きつつ言ってきた。
「おはよう健也、せめて朝の挨拶くらいはしようぜ?…で、コレをか?」
と苦笑まじりに言いつつ俺は机に置かれたパッケージを指差しつつ目を落とし観る。
『NEW ∞ WORLD』
(新しい、無限、世界?健也が持って来たって事はVRMMORPGだろうけど観た事無いタイトルだな?)
健也は格闘から空戦物迄様々なVRゲームが世に溢れている昨今のゲーム環境においてVRMMORPGしかしないという奴で、平日でも最低10時間はゲーム世界にログインしている立派なVRMMORPG中毒者である。
「おう、NEW ∞ WORLD略して『N∞W』ってよんでんだけど…GW前にβテスター募集に当たってな。先月末迄βテストしてたんだけどよ、来週から正式サービスが本稼働するんだが…テスターの優先購入権利で代わりに買ってくれって頼まれた分の本数間違えててさぁ…」
「つまり余った分を俺に購入しろと?」
「半額で良いから頼む!勇人!このとおり!」
身長180を超え色黒で筋肉質な野郎がしゃがみ込み両手を合わせ目を潤ませて上目遣いで頼んでくる様は……
…この上無く気持ち悪かった。
「わかった、わかったからその上目遣いヤメロって!」
「ThankYou!やっぱ持つべき物は親友だな!」
俺が承諾するとウンウンと頷きながら調子の良い事を言ってくる…
…殴りてぇ。
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「ただいまぁ~」
放課後(授業はテストの返却と夏休みの課題配布だけでまだ昼過ぎだが)、健也がN∞Wの設定を説明をすると言うので連れだって俺の家に帰って来た。
「兄ぃお帰り……あっ健也さんこんにちは」
従姉妹で中学3年生の『朱鳥』が丁度リビングに向かう途中だった様で玄関前の廊下から挨拶してきた。
朱鳥は俺の親父の兄、つまり俺にとっては叔父の娘にあたる3姉妹の長女で血縁上は従姉妹になるのだが四年前叔父夫妻が事故で亡くなってしまった為、唯一血縁であった親父が引き取る形となった。
叔父は駆け落ち同然で共に亡くなった叔母(ロシア国籍)と電撃国際結婚をし、美浜の本家筋は残された弟である親父が引き継ぐ事になってしまった。
その為3姉妹を引き取る際には養子縁組を他の分家親族に猛反対されてしまい出来なかった。
だから3姉妹は『義妹』ではなく『従姉妹』のまま共に生活していた。
「ア…あっ朱鳥ちゃん!こっこここ、ンちわ!」
…うん、健也落ち着け。
「健也、先に俺の部屋に上がってろ。朱鳥、夕飯の用意頼んで良いか?健也、夕飯喰ってくだろ?」
「おっ応!(あっ朱鳥ちゃんの手料理!!!)」
返事しつつワタワタって感じで階段登ってく健也。
「んっ…………シチューで良い?」
「あぁ、健也が居るから二人分くらい増しで頼むわ!」
「了~解」
俺は何かと不憫だが色々と世話になってる悪友の為、『朱鳥の手料理(レア物)』を食べさしてやる事にした。