冒険者協会 その3
知り合った冒険者の縁者が協会の職員と言うのは世間は意外と狭いと言うか
運命的な出会いとでも言うのだろうか、もちろんそんな事口にしません、これ以上脱線すると目の前の職員だけじゃなく、となりや背後に居る冒険者にも喧嘩売る、と そんな雰囲気が漂う気配
最後に駆け出し冒険者に必要な情報聞いて退散するのが上策ですね
「新人冒険者が泊まる宿屋にお勧めがあれば教えていただけますか?」
「そうですねぇ、馬小屋で寝るだけならタダだと思いますが、頑健さに自信が無ければお勧めできません」
「この街で初心者クラスなら『猫のひげ亭』『明け烏の宿』『樫の木亭』のいずれかでしょうか、料金は藁の寝床に食事無しの素泊まりで銅貨20~30枚、朝食つきで銅貨40枚前後
大鋸屑を布で包んだマットの寝床に毛布、夕食と朝食がついて銀貨1枚というのが目安です。」
「朝食はいずれも黒パンと野菜スープが基本ですが、冒険者が取ってきた獣肉を提供するなどの交渉が成功すれば翌朝のスープが肉入りになる事もあります。」
夕食がそれぞれの宿の特色で『猫のひげ亭』は魚料理が得意で『明け烏の宿』はイモ類
『樫の木亭』はキノコ料理が自慢です。」
「ちなみに肉料理を得意とする『ジャイアントヒル』だと一泊で銀貨2枚以上でしょうか。」
うーむ、とりあえず一週間程度の宿泊と食事はあるとして、あとで銀行行って倉庫からアイテム引き出し可能か確認しないとならんな、ゲーム時代の預金引き出し可能ならリッチ生活待ってるけど
今売るつもりは無いけどインベントリーに入ってる武器がいくらで売れるか聞いてみるか
「あのー、この国に来る前に手に入れたアイテムもここで引き取りできますか?」
「鑑定に数日かかりますし『呪われた装備』などは引き取り不可になりますが、それで宜しければ」
まぁドロップしたのを拾った時、別に呪われた感じしなかったしレベル98武器ならそこそこ買い手居るだろう、そう思いインベントリーから三本取り出してカウンターテーブルに並べる
98+弓:『ルーンの息吹』
98N剣:『ホエールブレイド』命中オプション+20付き
90N鎚:『魔晶の光輝』
横に居た虎顔の冒険者と受付の熊顔の職員が首傾げてたのはあまり持ち込みに来ないシロモノだったからかな、まぁRグレードだと欲しがるけどNや+レベルだと人気はそうないだろう
「それではまた後日鑑定結果聞きに来ます、あ、それと明日のクエスト受注は何時頃来て申し込めばよろしいでしょうか?」
「クエスト受付窓口は朝6時から午後2時までで、クエスト報告窓口は夜8時までです、期限付きクエストは時間厳守なので心にとめてくださいね。」
「重ね重ねどうもです、ではこれにて失礼します。」
「はい、この国に不慣れでしょうからこれくらいお安い御用です。」
うむ、接客業務の鑑だ、マジで惚れてしまいそう
紹介された宿屋は『猫のひげ亭』にしようかな、名前的に猫人さん多そうだし
長い一日だったなぁ、今夜は飯食ったら早めに寝よ
このあと冒険者協会でちょっとした騒動になるとは気付かなかった………
「イーニャ、おつかれ~、けっこう時間かけて説明してたな、大変やったろ。」
イーニャのとなりのブース(仕切り席)の熊顔職員が自分の担当分の冒険者のクエスト報告結果の書類を片付けながら労いの言葉をかけた
「うーん、あまり見た事無い装備だったし、冒険者にしてはあまり協会のルール知らないようだから同盟以外から来た異国人だと判断して丁寧にしたほうが良いと判断したわけだけど……」
「ひと族だとドーン港からアウレアに行くのがほとんどだが、ここに来るとは物好きな奴かもな。」
アウレアは40年前の異界勢侵攻時にグリンワルドのあるウッドワース王国と同盟結んだ4カ国の一つホーリーライト王国の首都でグリンワルドの西方に位置しており、広大で肥沃な平野で営む農業とこのエディン大陸以外との海上貿易で商業が盛んな国であり、国民の9割はひと族である
その豊かな国力で常備軍を数十万も維持している強国である
ドーン港は首都アウレアの南西にある港で噂では遥か彼方の東洋にある『黄金の国』とも交易があったと聞く、もっともそれは400年昔でその国は今は無い伝説の国とも聞くが…
昼勤務から夜勤へと業務引継ぎで協会職員の出入りが増えたその時外回りの職員が戻ってきて報告した内容がちょっとした騒ぎの始まりだった
グリンワルドの近く、キノコ森にて大規模魔法戦闘の痕跡が発見されたと……
火炎魔法による山火事かと思いきや地面に大穴が幾つもあいてると
火力のある精霊魔法の広域範囲魔法と知られている【霹靂】<サンダーボルト>でも大地に焦げ跡残る程度で数メートルのクレーター残すことは無い
魔物が残したものだとすると冒険者緊急コール対象なのだが、発見された痕跡は一箇所のみなのが腑に落ちない
支部長に報告入れるのと並行して、今日このエリアで活動行っていた冒険者の目撃例が無いか
ただちに報告書を取り出して情報の洗い出しを行った
情報探し出すのにそんなに時間はかからなかった
当時キノコ森で狩りや採取を行っていた冒険者は10組程度で、
異変の有った山くらげ出没地でクエストを受けてたのは2組ほど
そのうちの一つに有力な手がかりが残っていたのである
初級PTがボスモンスターに不意を突かれて苦戦していたのをたった一人の冒険者に救われたとあった
それだけなら中級か上級冒険者でも可能なのでさほど不思議ではないが
「見慣れない装備の人物であった」と言うのが引っ掛かったのだ
使用した魔法についての言及が無かったのはそれが未知のものだったからか、それとも助けてもらった人への気遣いか……多分その両方であろう
報告をまとめた書類を読み終えた支部長はその目撃者であるPTリーダーの召喚を警備担当職員に命じた
そしてしばし瞑目して思いを巡らしたのち、鑑定スキル持つ職員を予定を早めて協会支部に全員登庁するよう命じる書類を作成始めた
アイテム鑑定だけでなく、人物の持つ技能、経験値を見るだけで判別できる特殊技能持ちも含めてである
場合によっては協会本部だけでなく王国宮廷魔導士の長の招聘も考えられるが、それは情報がしっかり集まってからの事にすべきだろう
アーティファクト(強力な武具)がいきなり三本も持ち込まれたのだから慎重に行かざるを得ない、これは政治的な要素が強すぎる
そしてそれを持ち込んだ人物の取り扱いはそれ以上な事も………