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精霊大陸紀行  作者: plekios
19/26

転生者  (前編)

 この世界では生は一度きりではなく死んでもその魂は消滅せず何度でも生まれ変わるという認識である

つまり「今生きている奴は過去に何度か生まれ変わりを経験している」と言っても良い

もちろん前世が人であると決まっているわけではないが……


 「転生者」とはそんな生まれ変わりのサイクル__輪廻とでも言おうか__の中で「過去世」の記憶を持つ者を指して呼ばれる

そして「過去世」はこの世界と限らない

魔物として同族が相争う世界、ただひたすら獣のように貪る世界、掟など無く己が望むまま振る舞いそして命を散らせる世界。

 この世界の広く信じられている宗派の教えではそれらの世界で生まれ、死んでいくときは過ごした記憶は洗い流して魂に刻まれた模様に従い次の世界へ生れ落ち、前世の経験で足りないものを獲得してより大きく成長していく。


「同族で相争う事」は一概に悪だと言い切れる事は出来ない

競争によってより強く、より素早く、より賢くなる修練の場とも見る事が出来るからだ

ただそれのみにとどまり続けるのは特定の部位だけ肥大して全体としていびつな魂の形になる

それゆえ多くの世界を経験し、死すときに魂にこびり付いた執着の心を洗い流す(ブリーチング)事が

施される。


目の前の少年……いや、この世界では青年と言うべきか

侍祭(アコライト)が「勇者の生まれ変わり」と述べたからはその証拠が有るのだろう

嘘は言ってないように見えるし、本人もそのつもりは無いだろう

ただ全てを話している訳では無いと勘が囁く。



 夕陽が西の山々の稜線に隠れ、月影湖に宵の影が落ちる

勇者一行は事情説明のために月影湖警邏隊詰め所の建物の中に入っていった

俺達は詰め所の建物から100mほど離れた冒険者用野営地の少し開けた広場に向かう


長柱1対、短柱2対の断面が五角形(将棋の駒)をやや平たくした天幕(テント)を張るべく男性陣が手配

女性陣は野営地のそこらにある(かまど)跡を手入れして夕餉(ゆうげ)の支度をする

薪は天幕の張り綱をペグ打ちした後、二人が周囲の排水溝掘りして残りの人数で採集する

今回は(ベル)とハンスが薪集めになった。


煮炊きと夜間の獣避けの焚き木としてどれくらい必要なのかをハンスに聞きながら集める

野営の設営は暗くなる前に張り終えるのが定石で、薪採取はここら低脅威度な地では二人一組なら少々暗くなっても対応しやすいとの事。

今回天幕の中で女性二人が睡眠をとる

別に女性優位(フェミニズム)な訳ではない、二人は魔術士と回復術士で魔力回復は精神の休息を取らないといざと言うとき魔力不足となって行動の選択肢が狭まる、という合理的な観点からの決定である


 かまどは天幕の風下、約5mほど離して設置

集めた薪をレナとアイリスに渡すと太い枝と細かい枝を手際よく配置して枯れ葉を火口ほくちにして何か呟くと指先ほどの火がついた。


火打石フリントを使うかと思ったんだが……ロバートじゃなくレナが焚き木当番なのはこれか」


「火打石で火をつけるのも一般的なのですが、それはPTに魔法使いが居ない場合で、魔法使いが居ればこの方がずっと便利ですよ? ベルさんは野営経験は初めてなのですか?」

 火をおこしたり微風で濡れた衣服を乾かしたりする日常生活で使う魔法を生活魔法コモンマジックとして魔力有する者なら一つか二つは習得しているらしい__「冒険者」ならなおさらの事だろう__


ゲームでは野営なんて無かったから「異世界でのキャンプ」を体験するまであまり考えた事無かった

感心した口調が気になったのかレナは少し首をかしげて問うてきた


「日のあるうちに行き来する狩りしてたし、遠く離れた場所は移動用魔道具使ってたからね」


半分本当で半分は真実ではない

ゲームではフィールドで作業狩りして途中で眠くなった場合、ホームスポットに戻って再び攻略する手間と時間が面倒なときはそのままでログアウトすればログインしたときはその場所にアバターが消失・再出現する。

 メンバーが揃っているのが条件のインスタンスダンジョンでは途中で人員が減るとPT全員外に飛ばされるので勝手な退出ログアウトはマナー違反として叱られるがその他はアバターを残すか接続切るかは各自の都合に任せる状況だった


「移動用魔道具って、地下洞窟から街まで一瞬に戻れる、とかのアレですか?」

「ああ、たぶんそのアレだ」


 移動用アイテムは何種類か有ってゲームで一番使用頻度が高いのがホームスポット指定された場所に飛ぶ奴、これは各国の首都相当の都市の雑貨屋でゲーム内通貨で購入できる

鳩サイズの鳥形生物の翼に魔法処置を施し、使用時に掲げる事で魔法職でない戦士職キャラでも転移できるアイテムだ

『帰還の翼』と名付けられているがプレイヤーの大半は某有名ゲーの「キ◎ラのつばさ」と呼んでいる。


 その他何度も行く事になる狩場マップに飛ぶアイテムは座標指定の位置記録石マークストーン転移巻物テレポートスクロールは低価格の課金で購入する仕様である

あとゲーム内で婚姻したキャラ同士で相手を呼び寄せる『婚姻のエンゲージ指輪リング

PT組んだプレイヤーを呼び寄せる『召還の書』こちらから相手の居る場所へ飛ぶ『魔女の飛行書』


『帰還の翼』はプレイヤー同士で受け渡しトレード可能アイテムなので狩り終了時に各自帰還するとき、買い忘れたフレンドにあげたりする経験上多めに持つプレイヤーは少なくない


まぁ、深夜狩り終えてぼんやりした頭で回復薬購入するつもりで「帰還の翼」を400枚購入してしまい

重量の関係で倉庫に大半収めて10枚単位で取り出して狩りに行くようになったのはギルメンとの笑い話だ


「ベルさんは、『実はええとこのボンボン』だったん?」


となりの焜炉コンロ岩蟹ロッククラブあぶりながらアイリスが口を挟んでくる

岩蟹を丸ごと茹でる鍋が用意できなかったので茹でカニじゃなく炙りカニを選択したのだが、料理スキルが無いとどうしても黒焦げか消し炭状態になるので彼女に頼んだのだ

彼女アイリスは獣人だからなのか「カニより魚が美味しいのに……」と不満そうだ

 すまん、犬猫はエビ・カニは苦手なんだよな、いつか埋め合わせにピラルクーの丸焼き調達してやると内心手を合わせた、何時になるとは確約できんが

…………というか、アイリスの言葉が関西弁に聞こえたような気がしたのだが「翻訳魔法」さんやりすぎじゃね?


「別に貴族とか豪商の息子って訳じゃないけど、狩場で得た素材を売ればある程度の収益は有ったな、いまは銀行の貸し金庫にアクセスできなくて手持ちのアイテムが幾つか残っている程度だが……」


銀行の貸し金庫にアクセスできれば「不要だが処分するには心残り」のアイテムだけでも売ればかなりな額になるだろう

ゲーム通貨は数百メガは口座に有った筈だが引き出せるかは不明だ、初日にエリアマップ照覧した時にプレイヤーらしき光点は見当たらなかったし、ここのフィールドにもプレイヤーを示す光点は今のところ無い。

まぁ、ホームタウン近辺じゃなく最新マップの方に行けばそちらに居るのではないかと思うが

ここがどこのサーバーか表示が無いので知り合いと出会う確率はかなり低いと見ている。



街で仕入れた食材、根菜類を刻んで干し肉を入れたスープの鍋が食欲を掻き立てる香りを漂わせる頃

警邏隊詰め所のある方向から二つのやや黄色味を帯びた光の球体がフワフワと近づいてくる

勇者PT一行が事情聴取を終えてきたようだ

魔術師のスタッフと侍祭の節棍フレイルに魔法の光を灯して足元を照らしながら来た彼らの表情はやや優れない様子であった

まぁ役人に事情聴取を受ける身はあまりその立場になりたいとは思わないしな、その点では同情する。


 自分もつい先日までは異邦人エイリアンとして下手したら牢獄に入れられる可能性は有ったかも知れない

「冒険者」として協会に登録し、取り敢えず所属を明らかにしてこの世界を歩む手段を確保できたのは僥倖だったと思う、ロバート達に感謝だ


「そちらの野営の準備が済んだらこちらで一緒に食事しませんか? 」


この世界での冒険者たちの他グループとの関わり具合はどんなものか知らないがロバートの呼びかけに勇者が微笑んだところを見るとそんなに奇異なケースではないのだろう

 

 侍祭のマクギャバンが「『袖触れ合うも多生の縁』と聞きますしな、在り難くその申し出を受けさせていただく」

 うにゃ? わりと珍しいのかな、この世界でもそんな言葉があるのかなと内心驚く

まぁ「輪廻」「転生」とかの考えが有るのならむしろ自然な事なのかも



彼らの野営の仕組みはロバート達の天幕テントのような周囲を取り巻く形式ではなく「夜露を凌ぐ程度」と言った感じの簡素なタイプだった


「旅の途中で雨が降ったらその天幕では大変じゃないですか?」

つい聞いてしまうのは現代日本人の感覚では仕方ないと思う、うん、濡れて風邪引くと旅先じゃ厄介だし


「この時季の南部回廊は雨はあまり降らんのですよ、降ったとしても途中の集落の納屋や軒先で雨宿りの場所には事欠きませんから」

野を歩き、苦界の人々と交渉する事もまた修行の一環だとカラカラと侍祭は笑って答えた

……うん、修行僧に洋の東西に差異は無いのだろうけど編み笠に墨染めの衣が合うような気がする、たぶん。



夕食が済んだら歩哨セントリーの割り振りである

夜が明けるのがこの季節では午前5時に相当するので午後8時~同11時にロバートとレナ、午後11時~午前2時に俺とルーク、午前2時~同5時ハンスとアイリスの三時間監視の三交代がこの狩場に来る前に決めていた割り振りなのだが、勇者一行が加わるならばその人員配置に手を加えるかどうか相談しようという事になった。

 マクギャバン達は侍祭・勇者・射撃士・魔術師の構成で魔術師は休息優先で「緊急時にたたき起こす」という事で歩哨には三名を各時間帯に一人担当

こちらも女性の魔法職を予備役として歩哨任務から外して休息をとらせる

魔法照明マジックライト生活魔法コモンマジックの一種で純粋魔法職でなくてもある程度の魔力を扱える射撃スキル持つ射撃士アーチャー野伏スカウト猟兵レンジャーも持って居るので各パートに居ると便利である。


 夜前半部をロバートとゲイル、深夜番は俺とルークとオルラント、未明から払暁がハンスとマクギャバンの組み合わせとなった

 序盤と終盤にそれぞれのリーダーを配置、6時間の睡眠をとらせる事で夜間に何事も無ければ明け方から次の日の行動指針・判断を明確に取れるよう配慮

 深夜番は安全余力マージンの為に三名を配置、火力はともかく冒険者として経験少ない俺とオルラントを補佐する役割として野伏のルークが指南役ガイドを担う。



 レナとアイリスは天幕の奥の方に外套を敷き毛布を被ればそれで寝床の準備はOKとなる

マクギャバンとロバートは懐中時計を取り出して焚き火の光に翳し、魔法職の就寝時間は夜更かししても9時には床に就くことを確認。


ロバート達と勇者PTは互いに自己紹介を兼ねた情報交換ざつだんをする事となった


今は臨時PTを組んでいるが正直ここグリンワルドに来てからそんなにロバート達の事を詳しく知って居るわけではないので現役冒険者の意見を聞くのは有り難かった。


ロバートとレナは両親が冒険者で世界を巡り、野生生物と戦い心身を鍛えると同時に素材加工の技術を身につけて此処グリンワルドに居を定めてロバートの父は家具職人、母は裁縫師に。

 レナの父は薬師、母は魔術師組合で後進の指導と呪文巻物スクロールの製作

ハンス、ルーク、アイリスはグリンワルドの南の小さな村落から冒険者になるため支部のあるこの街にやってきた

 ルークの姉が一足先に組合職員になっていた事と母方の大伯父が協会のお偉いさんらしい、チャッカリしていると思ったが地縁血縁を頼るのは悪い事ではないと思う、頼り切るのは良くないが冒険者としてスタートして後は本人の能力と努力研鑽で生きる力を築き上げられるかどうかだ

 ハンスは採掘スキルで既知の鉱脈だけでなく新規の鉱脈を探し当てる__所謂山師__と鍛冶職の修行のため各地を巡る旅を将来の目標としている

 ルークは猟師ハンターから野伏スカウトとなり、将来は国に認められて猟兵レンジャーを目指しているが同時に革加工のスキルも磨いている

 アイリスは幼馴染の二人について来たと当人は認めている、微笑ましい

彼女は獣人には珍しい神聖魔法の素質が高かった事も幸いして将来冒険者を辞めたとしても治癒師ヒーラーとして引く手数多あまただろう

魔力総量の底上げには傷ついた者への治癒魔法の行使と魔獣との戦いで魔素マナを吸収するのが一番効果的と冒険の旅にルーク達と同行するのを親にも認められたらしい、獣人の逞しさパネェっ。


マクギャバンはホーリーライト王国の『聖なる光教団』と言う神殿の護衛勤務を担う僧兵集団に属していて、神殿のお告げによる「魔の蠢動」の根源地の捜索で旅に出たとの事

当ても無く出たとこ勝負で探すのかと思って指摘すると


「過去の『異界からの侵攻』なのだが、文献に残っているものではここウッドワース国から北のメタリギアに向かう街道に近い場所がそれらしいと推測されている」


ウッドワース国の領域は首都グリンワルドから「樹魔の森トレントホーム」「月光庭園ルナラビリンス」まで

巨人の丘ジャイアントヒル」(ここは両国の緩衝地帯である)そこから北へ向かい周囲は緑が少なく荒地から砂漠地帯へと変わり「鉄屑の原スレッジフィールド」「熱砂砂漠ホットデザート」そして砂漠を越えてアダマス大山脈のふもとに工業と錬金術の『鉄の国』メタリギアへと辿り着く


巨人の丘ジャイアントヒルから西へと向かう「中央回廊」は古代文明が有ったらしいが、現在では文様が刻まれた巨石遺構メガリスが残って居るのみで野生生物と魔物が跋扈している危険地帯である

たぶんそこが今回も進入経路になっていると神殿上層部は危惧しているとの事。


 そして探索の試練クエストとして勇者エルロイカが選ばれ、マクギャバンは侍者として同行

ゲイルとクロフォードは__勇者と神託受ける前の__オルラントの冒険者武族クランの仲間だとか。



「先代勇者の生まれ変わりとのことですが、その記憶は生まれたときから有ったのですか?」 

気になるのはその部分だ、前世の記憶として持っていたなら幼少期は周囲から奇異の目で見られたと思うし本人も混乱して性格に難があっても不思議じゃない。



「記憶が甦ったのは神殿で『神託』が降された時だ……それまでただの冒険者としか思っていなかった……」


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